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:厄介なお客さまー2:
しおりを挟むなにせこの国では、王の第一子が王位を継ぐ決まりである。性別も、母が正妃かそれ以外なのかも関係ない。とにかく王にとって初めての子が王位を継承する。
血のつながりと生まれた順番が重視され、『真の継承者』でない者が王位を継いだとなればそれは偽の王であるとされ、当然そこから先も王位継承権はなくなる。偽の王の築いた朝廷も偽の朝廷となり、発布された法令等もすぐに効力を失う。
もし、クーデターなどで王が倒されたときは、法をつかさどる元老院・国の根幹である民・実際に執務を行う朝廷の三権が『この者が王である』と満場一致で認めれば、新しい王として認められ君臨することが許される。
「つまり――ベルナールさまを殺すなり禅譲させるなりして玉座から引きずり降ろして、我こそが先々代の第一子、真の王だと名乗りを上げて即位するという腹積もりか」
マティスが険しい表情で言う。
「憶測の域を出ませんが、先代を襲撃した暗殺者も、或いは……」
「ということは、敵は本気で玉座を欲しているのか……」
四人の間に、重たい沈黙が落ちた。すっかり顔色が悪くなってしまったローテローゼが、マティスの手をぎゅっと握った。そのローテローゼの白い手が冷たく冷えている。
マティスが、そっと握り返す。
「……本物が……お兄さまが駆け落ち中でよかった……」
「いいえ、よくありません! あなたが――危険にさらされる……」
「そ……ね。マティス――……たしを……って」
「はい?」
ローテローゼが、まっすぐにマティスを見た。
「騎士マティス――わたしを守りなさい。いえ……国の為に……。身代わりの国王ですけれど、勅命です」
「御意」
「宰相は調査を続けて。どんな結果がでるかわからないけれど……わかり次第でいいわ……随時報告を」
「かしこまりました」
「……で、議長……持っている書状はなぁに?」
こちらも厄介で、と、議長が口ひげを震わせた。
「ヴァーン皇子が、ローテローゼさまとの面会をご希望です」
一同が、え! と呟いた。
「一言一句違わぬよう読み上げます。双子の兄があれほど美形であるなら妹も美形であろうから、ローテローゼ王女に会えるまで国には帰らぬ、と……。事と次第によっては大至急、ローテローゼさまにお出まし頂かねばなりません」
こちらも弱り切った表情の議長が一通の書状を差し出した。違った意味で、ため息が出てしまう。
ローテローゼはそれを受け取った。
「上等の羊皮紙にセンスの良い香が焚きしめてあるわ……」
見事な筆跡であるのだが――どうしたことか、なかなか破廉恥な誘い文句が躍っている。
裸体で何をどうして、互いにどこを見せて、アレをこうして――と、具体的手順が赤裸々に示されている。読んだローテローゼの顔が真っ赤になるほどだ。
「マティス――デートの申し込みというのは普通……その、デートの中身を……書くのではなくて?」
「――そう、ですね……しかし、性行為の手順を示して誘うお国柄、文化なのかもしれません。世の中には我らのあずかり知らぬ風習があるものです」
それはそうだが――と、ローテローゼはその手紙を小さく折りたたんだ。
「議長、至急書庫……書簡をひっくり返してこの国について調べてちょうだい」
「は、急ぎ調べましょう」
「お国の文化ならそれに合わせた返事を書かなくてはならないのだけれど‥‥‥ヴァーン皇子の趣味なら――」
どうしたらよいものか。頭が痛くなってくる。
「わたしは――この皇子と会いたくないわ……」
「しかし陛下、会わないと帰ってくれそうにありませんが……」
マティスの語気も弱くなる。
「陛下、マティス、幸いにも、ローテローゼさまは極秘公務でお城にいないことになっております。ローテローゼさまのお心、策が決まってから、会う・会わぬのお返事を差し上げてもよろしいかと」
宰相の言葉に、ローテローゼはため息を吐いた。
デートでこんな破廉恥なことをされるのかと思うと、今すぐこの国からたたき出したいくらいだ。そもそも、裸など他の誰にも見せたくはないし、触らせたくもない。
「さすがに……誰も予想していなかった事態にございます……いえ、しかし王女もお年頃、どこぞの男が見初めることも計算に入れておくべきでした……」
議長も、宰相も、マティスも、ローテローゼも、全員が思った。
「このお客はきっと、厄介なお客であるぞ」
と。
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