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:身代わり国王ー1:
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いくら双子で顔立ちが瓜二つとはいえ、やはり男と女である。
幼き頃は入れ替わって周りを驚かせて遊んでいたものの、十代も後半に入れば、それなりに男女差というものが出てくる。
「ベルナールさまは背が高く男らしい体つき……ローテローゼさまは華奢で女らしい体つき……さてもさても厄介な……」
両者が中性的であったならどれだけ楽だったか、と、思わず宰相がつぶやく。
喉元を隠すため、襟は高いものを。
胸元や肩幅を誤魔化すためにゆったりとしたシルエットの上着を。
剣だこがないことを隠すために手袋必須で……と、宰相とマティスがあちこち走り回る。
城のすべての塔を駆け回り、あらゆるクローゼットを引っ掻き回してそれらしいものを集める。
一方、
「お兄さまは国王としての振る舞いを身に着けていらしたわ。わたしは、そんなもの……」
目の前に次々と用意される王の衣装と、『王の一日』と題された紙を前にしたローテローゼは、深いため息を吐く。普段は穏やかな表情が多いローテローゼだが今回は焦りと不安がありありと見てとれる。
「ローテローゼさまなら、大丈夫です」
「そうかしら……」
はい、と、宰相が安心させるようにゆったりと頷く。
というのも、ローテローゼは急遽玉座に座ることになった兄の補佐をするために出来る限りの執務に同行してきた。しかもベルナールは王妃が決まっていなかったため、王妃の仕事も代理でこなしていた。
そのおかげで、紙に書いてあることの行事の大半は理解できるし、案件の概要や国内外の要人の顔と名前もわかる。
しかしーーそれらの理解は出来るが、いざ『裁可』となると話が違う。
サインをして王の印を捺す。そこには責任が伴うのだ。
多少の会議や会食も兄を真似て振舞うことも、本当に多少なら出来るだろうが、外交のような大規模な会談になると自信がない。
そんな事態にならないように願うばかりだ。
「お兄さま、早く帰ってきてくださいね……」
思わず祈ってしまう。
肝心の二人であるが、元老院議長がひそかに追手を出している。しかしどこへ駆けて行ったのかさっぱり見当がつかないため、城から東西南北すべての方向に人を派遣したと聞いた。
知らせはまだない。
二人を見つけるにはまだまだ時間がかかるだろう。
テーブルの上に飾られた薔薇が、はらはらと散った。ローテローゼはそれを見て眉を寄せた。
「いやだわ……何か不吉……」
薔薇の花びらを手にしたところで、軽快な足取りでマティスがやってきた。騎士の制服やマントは脱いで、シャツとトラウザーズに腰には細身の剣という格好になっている。どこか別人のようである。
「ローテローゼさま、急いでお衣装のサイズあわせをしましょう」
「え?」
「袖や丈をローテローゼさまに合わせて直してもらいます」
ローテローゼは素直に立ち上がり、上着を広げているマティスの前に立つ。
袖を通したが、すぐに困惑の表情になった。
「あの、マティス」
「はい?」
「ドレスを脱いで、バッスルも外して、コルセットも外さないとダメだと思うわ」
あああ、と、マティスがつぶやいた。
「で、では……恐れながらいま、ドレスを脱いでください」
ぼわ、と、ローテローゼの顔が瞬時に真っ赤になった。視線がおろおろと泳ぐ。だが、ローテローゼはすぐに小さく頷いた。
「わ、わかったわ、緊急事態だものね。それでも、自分の部屋でコルセット外して部屋着に着替えてくるからマティスは……」
「し、失礼いたしました」
ローテローゼがいつものようにメイドをよぼうとしたが、今度はマティスが慌てたようにローテローゼの口を塞いだ。
「ダメです!」
「むぐ?」
「昼間にコルセットを脱ぐ理由がありません。不審がられます」
「あ……そうね……」
困った、と、二人して沈黙してしまった。
幼き頃は入れ替わって周りを驚かせて遊んでいたものの、十代も後半に入れば、それなりに男女差というものが出てくる。
「ベルナールさまは背が高く男らしい体つき……ローテローゼさまは華奢で女らしい体つき……さてもさても厄介な……」
両者が中性的であったならどれだけ楽だったか、と、思わず宰相がつぶやく。
喉元を隠すため、襟は高いものを。
胸元や肩幅を誤魔化すためにゆったりとしたシルエットの上着を。
剣だこがないことを隠すために手袋必須で……と、宰相とマティスがあちこち走り回る。
城のすべての塔を駆け回り、あらゆるクローゼットを引っ掻き回してそれらしいものを集める。
一方、
「お兄さまは国王としての振る舞いを身に着けていらしたわ。わたしは、そんなもの……」
目の前に次々と用意される王の衣装と、『王の一日』と題された紙を前にしたローテローゼは、深いため息を吐く。普段は穏やかな表情が多いローテローゼだが今回は焦りと不安がありありと見てとれる。
「ローテローゼさまなら、大丈夫です」
「そうかしら……」
はい、と、宰相が安心させるようにゆったりと頷く。
というのも、ローテローゼは急遽玉座に座ることになった兄の補佐をするために出来る限りの執務に同行してきた。しかもベルナールは王妃が決まっていなかったため、王妃の仕事も代理でこなしていた。
そのおかげで、紙に書いてあることの行事の大半は理解できるし、案件の概要や国内外の要人の顔と名前もわかる。
しかしーーそれらの理解は出来るが、いざ『裁可』となると話が違う。
サインをして王の印を捺す。そこには責任が伴うのだ。
多少の会議や会食も兄を真似て振舞うことも、本当に多少なら出来るだろうが、外交のような大規模な会談になると自信がない。
そんな事態にならないように願うばかりだ。
「お兄さま、早く帰ってきてくださいね……」
思わず祈ってしまう。
肝心の二人であるが、元老院議長がひそかに追手を出している。しかしどこへ駆けて行ったのかさっぱり見当がつかないため、城から東西南北すべての方向に人を派遣したと聞いた。
知らせはまだない。
二人を見つけるにはまだまだ時間がかかるだろう。
テーブルの上に飾られた薔薇が、はらはらと散った。ローテローゼはそれを見て眉を寄せた。
「いやだわ……何か不吉……」
薔薇の花びらを手にしたところで、軽快な足取りでマティスがやってきた。騎士の制服やマントは脱いで、シャツとトラウザーズに腰には細身の剣という格好になっている。どこか別人のようである。
「ローテローゼさま、急いでお衣装のサイズあわせをしましょう」
「え?」
「袖や丈をローテローゼさまに合わせて直してもらいます」
ローテローゼは素直に立ち上がり、上着を広げているマティスの前に立つ。
袖を通したが、すぐに困惑の表情になった。
「あの、マティス」
「はい?」
「ドレスを脱いで、バッスルも外して、コルセットも外さないとダメだと思うわ」
あああ、と、マティスがつぶやいた。
「で、では……恐れながらいま、ドレスを脱いでください」
ぼわ、と、ローテローゼの顔が瞬時に真っ赤になった。視線がおろおろと泳ぐ。だが、ローテローゼはすぐに小さく頷いた。
「わ、わかったわ、緊急事態だものね。それでも、自分の部屋でコルセット外して部屋着に着替えてくるからマティスは……」
「し、失礼いたしました」
ローテローゼがいつものようにメイドをよぼうとしたが、今度はマティスが慌てたようにローテローゼの口を塞いだ。
「ダメです!」
「むぐ?」
「昼間にコルセットを脱ぐ理由がありません。不審がられます」
「あ……そうね……」
困った、と、二人して沈黙してしまった。
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