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「さて、ここだな、ご神託の間の入り口は」
 豪奢な装飾が施された両開きの大扉を、いとも簡単に押し開く。扉の先は廊下が続き、階段で地下へと降りる創りだ。
「殿下、ここからは案内人が必要ですぞ、我らが先に……」
 しかし老人たちの声を聞かずにズカズカと入って行く。チャールズは頭を抱えた。
「あっ、もう……メビウスは! もう少し人の話を聞けるようになってもらわないと……」
「チャールズ、何をしているか!」
「はいはい」
「行くぞ。剣はすぐに抜けるようにしておけ」
「……はいはい」
「はいは一回!」

 が、神殿の一部であるにしては、作りが複雑であった。
「……チャールズ、俺はさっきもここを歩いた気がするぞ」
「同感だ。ん? メビウス、こっちじゃないかな? ほら、壁に小さく、記号というか矢印が……」
「ほう?」
 チャールズが、矢印を辿りながら歩き出す。時折、隠し扉や隠し通路といった仕掛けもある。
「ふーむ。侵入者対策もここまでくると厄介なーー。さては金目のものをしこたま溜め込んでいるか、兵を溜めて訓練しているか……或いは神殿の名を借りて悪事を働いているか……」
「ちょ、ちょっと! そんな発想、いくらなんでも神に対して無礼だよ、メビウス」
「ふん。お前は口を開くと、無礼だの品だの……お前は俺の家庭教師か」
「ぼくが家庭教師だったなら、もっとまともに育ったと思うよ」
「なっ……お前ね……その自信はどこから……」
 奥へ奥へと歩むメビウスの足が、ふいにぴたりと止まった。
「な、な、なんということか!」
 珍しく震える声を不審に思ったチャールズといつの間にか追いついて来ていた使者の老人たちは、メビウスの視線を追って、仰天した。
 祭壇と思われる台の上に、人が横たわっている。しかも二人。淫らな声と音が石造りの部屋に響く。
 一人は男。床に落ちている上着についた紋章から察するに、神殿の見習い神官だろう。もう一人ーー男に組み伏せられて艶やかな喘ぎをあげているのは、豊かに波打つ長い栗色の髪と、しなやかな肢体を持つ美女。
「レディ・マリアナ……お前……!」
 皇太子妃候補の一人、家に帰りたいといつも泣いていた伯爵令嬢。それが、淫らに喘いでいるのはどうしたことか。
「……皇太子さま……わたくし、真実の愛に目覚めましたの」
 男から離れた全裸のマリアナが、ふらふらとメビウスに近寄り、ぺたんと床に座り込んだ。
「わたくし、神にこの身を捧げています」
「……なんだと?」
「殿下、修行によって神の子となられた神官さまや、敬虔な信徒に抱かれることによって、わたくしは神にこの身を捧げているのです」
 ぽかんとする一同の中で、冷静だったのはチャールズだった。マントを脱いでマリアナに掛け、コソコソ逃げだそうとしている見習い神官に向けてひょいと、マリアナの髪かざりを投げた。
「ぎゃふ」
「無垢なレディを誑かして、神聖な神殿の奥で何をしちゃってるのかな? ん? 主犯は誰かな? さ、おじいさんたち、警備兵を呼んで彼を拘束して城の地下牢へ連行」
「は、はいっ!」
 老人たちがバタバタと動く。
 その頃になって、ようやくメビウスも動き出した。
「後宮の女官長を呼べ。マリアナを託す」
「あの、皇太子さま……わたくしを、抱いてはくださらない? わたくし、殿方を悦ばせる技を教わりましたのよ」
 とろんとした目つきで、メビウスに絡むマリアナを、メビウスがぐいっと抱き寄せた。
「ああっ、メビウスさま……幸せ……」
「……薬を飲まされたな、マリアナ……」
「うっ……?」
 くたくた、と、マリアナが崩れ落ちた。
「やれやれ、世話の焼ける。これだから女は好かない」
「何やってんのさ、メビウス! 素っ裸のレディの腹部殴って当て落とすとか、鬼畜の所業だよ! 怪我したらどうするのさ!」
 む、と、メビウスは己の手を見た。
「……たしかに、兵士どもに比べたら柔らかかったな」
「そんな調子だからお妃候補がみんな帰ってしまうのか……」
 妃などに興味はない、と吐き捨てた皇太子はすでにキョロキョロしている。
「で? ご神託の間とはどっちだ?」

 

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