68 / 164
◇第五章 ルイス編◇ チャラい彼のヒミツに触れます
第二十四話 「ごめん、なさい」
しおりを挟む
それは、花祭りの翌日の朝のこと。
「あーーーーーーーー!!!!」
「!?」
なに!? 何で叫び声!?
この声って、スクワイアさん?
食堂でいつも通り注文受付の仕事をしてると、唐突にスクワイアさんの叫びが聞こえた。
朝食時で大勢が食堂にいるっていうのに、人のざわめきが一気になくなるほどの大声が、辺りに響く。
な、なにごとなの?
注文するために並んでいる人達も気になったみたいで、身体を動かして声の元を探してる。
私自身、気になってスクワイアさんを探した。
あ……注文のための列の最後尾に並んでる。一緒にいるのって、ハーヴェイさん?
二人で、一体どうしたのかな?
「ちょっ!? 副隊長、それ、どうしたんすか!? カレイドストーンっすよね!?」
「ふふん、いいだろこれー」
「! な……っ!?」
な、なにをしているんですかハーヴェイさん!
どうして私があげた髪飾りを自慢してるんですか!?
一人でアワアワしてる私を見つけて、ハーヴェイさんはキザにウィンクを飛ばしてきた。
「!」
性悪すぎますよ、ハーヴェイさん!
ハーヴェイさんが頭を動かすたびに、彼の髪に咲いてるアジサイが光を反射してキラキラと輝く。
それをスクワイアさんがマジマジと観察して見てる。
「うわ、純度高! めちゃくちゃ良いのじゃないっすか!」
「だろ?」
「……」
あれって純度高かったの?
そういえばハーヴェイさんが純度が高いほうが良い物って言ってたような。それならよかったけど。
ああでもっ! 贈った本人の目の前で話題に出さなくても! 居心地が悪くてムズムズするよ。
「誰にもらったんすか!?」
「誰って…………それは」
またハーヴェイさんと目が合った。完全に目が笑っていますね、絶対に今の状況楽しんでますよね。
……は! も、もしかして、私の名前を言い出す気ですか!?
慌てて首を左右に振ると、それを見てハーヴェイさんはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「!」
言う気ですか!?
言わないでください!
だって、作ったのが私だって広まったら、また女の人にやっかまれたりするかもしれないのに。しかも、贈ったのが髪飾りだってバレたら、もっと危ないことになるような……!
『私達のルイス様に、何付けさせてるのよ!』みたいな感じで!
必死に目で言わないでほしいってことを訴えてる。すると、ハーヴェイさんの唇がゆっくりと動き出した。
それと一緒に、彼の指がそっと唇の前に立てられた。
「それは……ヒミツ、だな」
「ええーーーっっ!! ちょっと、副隊長! それはナシっすよ!」
よ、よかった……。
スクワイアさんは不満そうにしてるけど、私としてはバレなくて一安心かな。
スクワイアさんの抗議を、ハーヴェイさんが笑いながら流してる。
「チェスターに言うと、なんか減りそうだしな」
「なんにも減らないっすよ! ってか今の発言って独占欲っすか!?」
「んー? さて、どうだか?」
「うっわーマジで誰っすか!? 来る者拒まず去る者追わずの副隊長が、どうしてそんな無縁の感情むき出しになるんすか!? 余計気になるんすけど」
スクワイアさんの追及にハーヴェイさんは何度も言葉を濁してくれた。私が嫌がってたから、名前を出すのをやめてくれたのかな。
「……注文お願いします」
「! あ……は、はい!」
す、すっかり忘れてたけど、仕事にもどらなきゃ。
ずっとハーヴェイさん達の会話を聞いてたから、さっきより注文の列がのびてるよね。
速く回していかないと。
騎士の人達はこれから鍛錬だったり巡回だったりでそれぞれの仕事に向かうから、時間もないんだから。
◇◇◇
「それで。何のために私があげたのをつけてるんですか?」
翌日の早朝、ハーヴェイさんの朝鍛錬に立ち会った私は、さっそく彼に聞いてみた。
今日だって、ハーヴェイさんてばあの髪飾りをしてるし。
訓練が終わって流れる汗をタオルで拭きながら、ハーヴェイさんはニヤッと笑った。
「なにって、自慢するためだろ?」
「!? 自慢ってなんですか!」
なんの自慢にもならないですよ! それに、日常的に髪飾りをつけるのに抵抗とかないの?
「自慢は自慢だろ。『こんな良いモンもらったんだぞ、うらやましいだろ』って見せびらかしたかったんだよ」
「…………髪飾りなのに」
「んなこと関係ないだろ。俺にとっては、あんたからもらったってことしか重要じゃない」
「……」
そんなに喜んでもらって、贈ったこっちとしては嫌な気分じゃない。
だけど……物が物だから、ちょっと素直になれないよ。
「いつまでつけるつもりですか」
「は? んなの、ずっとに決まってるだろ」
「…………それは、困ります」
ずっとその恥ずかしさに耐えろっていうんですか。鬼畜ですか、エスですか。
私が心底困って言葉を失っていると、ハーヴェイさんが噴き出した。
「迷子のガキみたいな顔してるぞ。そんなに嫌なのかよ?」
「嫌、ではないですけど……困るんです」
どう反応したらいいのか、困るというか。
喜んでいいのか、恥ずかしくなって目を背ければいいのか。
「ふぅん、俺にはわかんねぇけど……あんたが困ってんのはダメだな。……わかった」
「……」
わかったってことは、つけるのをやめてくれるのかな?
……でも、それはそれで残念な気分になるような。
つけてほしいのか、つけてほしくないのか。自分のことなのに、よくわからなくなるよ。
「じゃあ、こうすっか。来年の花祭り、あんたからまたカレイドストーンをくれよ」
「……え?」
来年?
顔を上げると、ハーヴェイさんが明るく笑ってる。
「んで、俺はそれを常に身に着けるから、今のこの飾りは外す。それでどうだ?」
「…………来年」
――それは、私がここにまだいるってこと。
「……」
確実には、約束できない。
だって、きっと元の世界に戻れるって言われたら、私は帰ってしまうから。……帰らないといけないから。
だけど…………。
私がハーヴェイさんにまた、プレゼントをして。
あの時みたいにとっても嬉しそうに、何よりも大事な物を手に入れたみたいに、顔をほころばせてくれるのなら。
それを見たいって、思ってしまった。
「もし」
いけないことなのに、私の口が、勝手に動く。
「もし、私がプレゼントしたら、また大事にしてくれますか?」
望んじゃないけないことなのに、私は願いを言葉にした。
ハーヴェイさんはそれを、嬉しそうに目を細めて聞いて頷《うなず》く。
「……おう、当然だろ。そん時はまた、チェスターとか周囲の奴らに見せびらかしてやるよ」
「…………見せびらかすのは、結構です。………………わかりました」
――迷いなく肯定するあなたに、心が揺れる。
揺らいではいけない私自身の決めた縛りが、解けてしまいそうになる。でも、そんなの私に許されることじゃないから。
「もしも私がまだここにいたら、プレゼントさせてください」
「…………なんだよ、それ」
「え?」
さっきまで喜んでたハーヴェイさんが、険しい表情をしてる。
鋭い眼光に身がすくんで、一歩思わず下がってしまった。
だって、以前見たときの、剣を持ってる時の怖い雰囲気をまとってたから。
最近はそんな空気、出してなかったのに。
一体、どうしたの?
「あんたは、どっかに行くつもりなのか?」
「あ……」
たしかに、さっきの私の発言はそう勘繰られてもおかしくない内容だった。
「……」
「否定、しないんだな」
否定なんてできるはずがないよ。だってしてしまったら、それが嘘になるから。
だけど余計にそれが、ハーヴェイさんの癇に障ったみたい。
「いつかは、わからないんです。……でも、私はいずれ帰らなきゃいけなくなるんです」
「どこにだよ」
「それは…………遠いところ、です」
元の世界に、なんて言っても正気を疑われるだけだから。ボンヤリとした答えしか返せない。
「遠いってどれくらいだよ」
「……とっても、とっても遠い場所です。一度戻ったら、ここには来れなくなるくらいに遠く」
「だったら」
ハーヴェイさんの手が、私へとのびる。
彼の大きな手のひらに手首がとられて、視線に縫い止められた。
「だったら帰んなきゃいいだろ。傍にいるって、あんた言ったよな」
「私は、帰らなきゃいけないんです。……ここにいる間は、ハーヴェイさんの傍にいます」
「っ! …………んだよ、それ……!」
ハーヴェイさんの大きな舌打ちが聞こえた。
でも、嘘を言うことなんてできない。私がいずれ元の世界に戻るのは、事実なんだから。
「……胸糞悪ぃ」
吐き捨てる言葉と共に、ハーヴェイさんは乱雑に手を払った。それと同時に、拘束されてた手首が自由になる。
「あんた、しばらく顔見せんな」
「っ! あ……」
身体が凍りそうなくらい、冷たい視線にさらされる。
きら、われた……?
「このままだと、一緒にいると俺があんたを痛めつけそうになる」
「……」
強い拒絶。
ハーヴェイさんに何か言わなきゃいけないって思うのに、言葉が出ない。
だって、私が彼に黙っていたのは本当だから。
それで傷ついてるのは私じゃなくて、ハーヴェイさんのほうだから。
「…………っ……待っ……」
そのまま背を向けて、ハーヴェイさんはこの場から立ち去った。
私は呼び止めることも、できなかった。
……どうしてこうなったのかな。
さっきまでは、普通に話してただけなのに。
きっと、一番の原因は私が今まで彼に隠してた、私自身が気づかないようにしてたこと。
……いつか、元の世界に私が帰らなきゃいけないってこと。
胸が押しつぶされそうに痛い。
だけどきっと、私以上にハーヴェイさんの方が苦しんでる。そして、そんな気分にさせてしまったのは、他ならない私自身。
「ごめん、なさい」
こぼれた謝罪は、彼に届くことがなくて。
私は瞳を静かに伏せた。
「あーーーーーーーー!!!!」
「!?」
なに!? 何で叫び声!?
この声って、スクワイアさん?
食堂でいつも通り注文受付の仕事をしてると、唐突にスクワイアさんの叫びが聞こえた。
朝食時で大勢が食堂にいるっていうのに、人のざわめきが一気になくなるほどの大声が、辺りに響く。
な、なにごとなの?
注文するために並んでいる人達も気になったみたいで、身体を動かして声の元を探してる。
私自身、気になってスクワイアさんを探した。
あ……注文のための列の最後尾に並んでる。一緒にいるのって、ハーヴェイさん?
二人で、一体どうしたのかな?
「ちょっ!? 副隊長、それ、どうしたんすか!? カレイドストーンっすよね!?」
「ふふん、いいだろこれー」
「! な……っ!?」
な、なにをしているんですかハーヴェイさん!
どうして私があげた髪飾りを自慢してるんですか!?
一人でアワアワしてる私を見つけて、ハーヴェイさんはキザにウィンクを飛ばしてきた。
「!」
性悪すぎますよ、ハーヴェイさん!
ハーヴェイさんが頭を動かすたびに、彼の髪に咲いてるアジサイが光を反射してキラキラと輝く。
それをスクワイアさんがマジマジと観察して見てる。
「うわ、純度高! めちゃくちゃ良いのじゃないっすか!」
「だろ?」
「……」
あれって純度高かったの?
そういえばハーヴェイさんが純度が高いほうが良い物って言ってたような。それならよかったけど。
ああでもっ! 贈った本人の目の前で話題に出さなくても! 居心地が悪くてムズムズするよ。
「誰にもらったんすか!?」
「誰って…………それは」
またハーヴェイさんと目が合った。完全に目が笑っていますね、絶対に今の状況楽しんでますよね。
……は! も、もしかして、私の名前を言い出す気ですか!?
慌てて首を左右に振ると、それを見てハーヴェイさんはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「!」
言う気ですか!?
言わないでください!
だって、作ったのが私だって広まったら、また女の人にやっかまれたりするかもしれないのに。しかも、贈ったのが髪飾りだってバレたら、もっと危ないことになるような……!
『私達のルイス様に、何付けさせてるのよ!』みたいな感じで!
必死に目で言わないでほしいってことを訴えてる。すると、ハーヴェイさんの唇がゆっくりと動き出した。
それと一緒に、彼の指がそっと唇の前に立てられた。
「それは……ヒミツ、だな」
「ええーーーっっ!! ちょっと、副隊長! それはナシっすよ!」
よ、よかった……。
スクワイアさんは不満そうにしてるけど、私としてはバレなくて一安心かな。
スクワイアさんの抗議を、ハーヴェイさんが笑いながら流してる。
「チェスターに言うと、なんか減りそうだしな」
「なんにも減らないっすよ! ってか今の発言って独占欲っすか!?」
「んー? さて、どうだか?」
「うっわーマジで誰っすか!? 来る者拒まず去る者追わずの副隊長が、どうしてそんな無縁の感情むき出しになるんすか!? 余計気になるんすけど」
スクワイアさんの追及にハーヴェイさんは何度も言葉を濁してくれた。私が嫌がってたから、名前を出すのをやめてくれたのかな。
「……注文お願いします」
「! あ……は、はい!」
す、すっかり忘れてたけど、仕事にもどらなきゃ。
ずっとハーヴェイさん達の会話を聞いてたから、さっきより注文の列がのびてるよね。
速く回していかないと。
騎士の人達はこれから鍛錬だったり巡回だったりでそれぞれの仕事に向かうから、時間もないんだから。
◇◇◇
「それで。何のために私があげたのをつけてるんですか?」
翌日の早朝、ハーヴェイさんの朝鍛錬に立ち会った私は、さっそく彼に聞いてみた。
今日だって、ハーヴェイさんてばあの髪飾りをしてるし。
訓練が終わって流れる汗をタオルで拭きながら、ハーヴェイさんはニヤッと笑った。
「なにって、自慢するためだろ?」
「!? 自慢ってなんですか!」
なんの自慢にもならないですよ! それに、日常的に髪飾りをつけるのに抵抗とかないの?
「自慢は自慢だろ。『こんな良いモンもらったんだぞ、うらやましいだろ』って見せびらかしたかったんだよ」
「…………髪飾りなのに」
「んなこと関係ないだろ。俺にとっては、あんたからもらったってことしか重要じゃない」
「……」
そんなに喜んでもらって、贈ったこっちとしては嫌な気分じゃない。
だけど……物が物だから、ちょっと素直になれないよ。
「いつまでつけるつもりですか」
「は? んなの、ずっとに決まってるだろ」
「…………それは、困ります」
ずっとその恥ずかしさに耐えろっていうんですか。鬼畜ですか、エスですか。
私が心底困って言葉を失っていると、ハーヴェイさんが噴き出した。
「迷子のガキみたいな顔してるぞ。そんなに嫌なのかよ?」
「嫌、ではないですけど……困るんです」
どう反応したらいいのか、困るというか。
喜んでいいのか、恥ずかしくなって目を背ければいいのか。
「ふぅん、俺にはわかんねぇけど……あんたが困ってんのはダメだな。……わかった」
「……」
わかったってことは、つけるのをやめてくれるのかな?
……でも、それはそれで残念な気分になるような。
つけてほしいのか、つけてほしくないのか。自分のことなのに、よくわからなくなるよ。
「じゃあ、こうすっか。来年の花祭り、あんたからまたカレイドストーンをくれよ」
「……え?」
来年?
顔を上げると、ハーヴェイさんが明るく笑ってる。
「んで、俺はそれを常に身に着けるから、今のこの飾りは外す。それでどうだ?」
「…………来年」
――それは、私がここにまだいるってこと。
「……」
確実には、約束できない。
だって、きっと元の世界に戻れるって言われたら、私は帰ってしまうから。……帰らないといけないから。
だけど…………。
私がハーヴェイさんにまた、プレゼントをして。
あの時みたいにとっても嬉しそうに、何よりも大事な物を手に入れたみたいに、顔をほころばせてくれるのなら。
それを見たいって、思ってしまった。
「もし」
いけないことなのに、私の口が、勝手に動く。
「もし、私がプレゼントしたら、また大事にしてくれますか?」
望んじゃないけないことなのに、私は願いを言葉にした。
ハーヴェイさんはそれを、嬉しそうに目を細めて聞いて頷《うなず》く。
「……おう、当然だろ。そん時はまた、チェスターとか周囲の奴らに見せびらかしてやるよ」
「…………見せびらかすのは、結構です。………………わかりました」
――迷いなく肯定するあなたに、心が揺れる。
揺らいではいけない私自身の決めた縛りが、解けてしまいそうになる。でも、そんなの私に許されることじゃないから。
「もしも私がまだここにいたら、プレゼントさせてください」
「…………なんだよ、それ」
「え?」
さっきまで喜んでたハーヴェイさんが、険しい表情をしてる。
鋭い眼光に身がすくんで、一歩思わず下がってしまった。
だって、以前見たときの、剣を持ってる時の怖い雰囲気をまとってたから。
最近はそんな空気、出してなかったのに。
一体、どうしたの?
「あんたは、どっかに行くつもりなのか?」
「あ……」
たしかに、さっきの私の発言はそう勘繰られてもおかしくない内容だった。
「……」
「否定、しないんだな」
否定なんてできるはずがないよ。だってしてしまったら、それが嘘になるから。
だけど余計にそれが、ハーヴェイさんの癇に障ったみたい。
「いつかは、わからないんです。……でも、私はいずれ帰らなきゃいけなくなるんです」
「どこにだよ」
「それは…………遠いところ、です」
元の世界に、なんて言っても正気を疑われるだけだから。ボンヤリとした答えしか返せない。
「遠いってどれくらいだよ」
「……とっても、とっても遠い場所です。一度戻ったら、ここには来れなくなるくらいに遠く」
「だったら」
ハーヴェイさんの手が、私へとのびる。
彼の大きな手のひらに手首がとられて、視線に縫い止められた。
「だったら帰んなきゃいいだろ。傍にいるって、あんた言ったよな」
「私は、帰らなきゃいけないんです。……ここにいる間は、ハーヴェイさんの傍にいます」
「っ! …………んだよ、それ……!」
ハーヴェイさんの大きな舌打ちが聞こえた。
でも、嘘を言うことなんてできない。私がいずれ元の世界に戻るのは、事実なんだから。
「……胸糞悪ぃ」
吐き捨てる言葉と共に、ハーヴェイさんは乱雑に手を払った。それと同時に、拘束されてた手首が自由になる。
「あんた、しばらく顔見せんな」
「っ! あ……」
身体が凍りそうなくらい、冷たい視線にさらされる。
きら、われた……?
「このままだと、一緒にいると俺があんたを痛めつけそうになる」
「……」
強い拒絶。
ハーヴェイさんに何か言わなきゃいけないって思うのに、言葉が出ない。
だって、私が彼に黙っていたのは本当だから。
それで傷ついてるのは私じゃなくて、ハーヴェイさんのほうだから。
「…………っ……待っ……」
そのまま背を向けて、ハーヴェイさんはこの場から立ち去った。
私は呼び止めることも、できなかった。
……どうしてこうなったのかな。
さっきまでは、普通に話してただけなのに。
きっと、一番の原因は私が今まで彼に隠してた、私自身が気づかないようにしてたこと。
……いつか、元の世界に私が帰らなきゃいけないってこと。
胸が押しつぶされそうに痛い。
だけどきっと、私以上にハーヴェイさんの方が苦しんでる。そして、そんな気分にさせてしまったのは、他ならない私自身。
「ごめん、なさい」
こぼれた謝罪は、彼に届くことがなくて。
私は瞳を静かに伏せた。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる