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本編
第18話_秘められた約束-1
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次の日の夕方、大学から帰った蒼矢はまっすぐ楠神社へ向かった。
早足で歩いてきたものの、石段の上にそびえる鳥居を前にして足を止め、しばらく立ち尽くした後意を決するように石段を上がり、緊張の滲む面持ちのまま楠瀬邸の呼び鈴を鳴らす。
「いらっしゃい」
玄関が開き、葉月はいつもと変わらず穏やかな笑顔で出迎えた。
「すみません、遅くに」
「いやいや。早速学校行ったみたいだけど、気分はどう? 疲れは?」
「大丈夫です」
「良かった」
昨日の再戦後の蒼矢の経過を確認し、にこりと笑った葉月は、脇へ目をやる。
葉月の背に隠れるように後方からこちらを見つめる苡月に気付き、蒼矢はやや反応をためらった後遠慮がちに笑みを送ると、苡月は少し頬を染めながらぺこりと頭を下げ、きびすを返し奥へ消えていった。
「…」
「…まぁ、あがってよ」
苡月の去っていった方を見つめたまま呆ける蒼矢の背に手を当てながら、葉月は居間へと連れていく。
「…昨日でわだかまり解決したんじゃなかったの?」
「! ええ、まぁ。…そうだとは思います」
「だよね、苡月もあれから元気になったし。今度、君の家に遊びに行かせてもらえるって喜んでたよ。…まぁでも、面と向かってだと、ちょっとまだぎこちないのかな?」
その他意の無い返しに蒼矢は浅くため息をつき、目を丸くした葉月はやや戸惑い気味に振り向いた。
「…珍しいね、君がため息をつくなんて。ごめんね、気に障った?」
「いえ…! そういうわけ、では」
慌ててとりなした蒼矢を、葉月は心配そうに見やる。その面差しに促されるように、蒼矢は小さく言葉を漏らした。
「なんとなく…自分の中でもやもやというか、切り替えることができない部分が残ってしまってて…」
「"操られてた"間のことは、記憶から抜けてしまってるんだもんね」
「はい、…恥ずかしながら。何を口走ってしまったのかわからないまま、お互いに何も無かったように過ぎてしまって、大丈夫なのかと。…泣かせてしまったことには変わりないわけですし」
「うーん…、こればかりは、あの子が話してくれない限り誰にもわからないからなぁ…。でも、僕にはあの子が気にしてる風には見えないよ。…言われた瞬間は多分ショックだったんだろうけど、彼の中ではもう解決してると思ってる」
「そうでしょうか」
「君の方だけいつまでも気にしてちゃ、別の意味であの子が気にしてしまうよ。…普段通り、これからまた話す機会をたくさん作っていって欲しいな」
「…はい」
早足で歩いてきたものの、石段の上にそびえる鳥居を前にして足を止め、しばらく立ち尽くした後意を決するように石段を上がり、緊張の滲む面持ちのまま楠瀬邸の呼び鈴を鳴らす。
「いらっしゃい」
玄関が開き、葉月はいつもと変わらず穏やかな笑顔で出迎えた。
「すみません、遅くに」
「いやいや。早速学校行ったみたいだけど、気分はどう? 疲れは?」
「大丈夫です」
「良かった」
昨日の再戦後の蒼矢の経過を確認し、にこりと笑った葉月は、脇へ目をやる。
葉月の背に隠れるように後方からこちらを見つめる苡月に気付き、蒼矢はやや反応をためらった後遠慮がちに笑みを送ると、苡月は少し頬を染めながらぺこりと頭を下げ、きびすを返し奥へ消えていった。
「…」
「…まぁ、あがってよ」
苡月の去っていった方を見つめたまま呆ける蒼矢の背に手を当てながら、葉月は居間へと連れていく。
「…昨日でわだかまり解決したんじゃなかったの?」
「! ええ、まぁ。…そうだとは思います」
「だよね、苡月もあれから元気になったし。今度、君の家に遊びに行かせてもらえるって喜んでたよ。…まぁでも、面と向かってだと、ちょっとまだぎこちないのかな?」
その他意の無い返しに蒼矢は浅くため息をつき、目を丸くした葉月はやや戸惑い気味に振り向いた。
「…珍しいね、君がため息をつくなんて。ごめんね、気に障った?」
「いえ…! そういうわけ、では」
慌ててとりなした蒼矢を、葉月は心配そうに見やる。その面差しに促されるように、蒼矢は小さく言葉を漏らした。
「なんとなく…自分の中でもやもやというか、切り替えることができない部分が残ってしまってて…」
「"操られてた"間のことは、記憶から抜けてしまってるんだもんね」
「はい、…恥ずかしながら。何を口走ってしまったのかわからないまま、お互いに何も無かったように過ぎてしまって、大丈夫なのかと。…泣かせてしまったことには変わりないわけですし」
「うーん…、こればかりは、あの子が話してくれない限り誰にもわからないからなぁ…。でも、僕にはあの子が気にしてる風には見えないよ。…言われた瞬間は多分ショックだったんだろうけど、彼の中ではもう解決してると思ってる」
「そうでしょうか」
「君の方だけいつまでも気にしてちゃ、別の意味であの子が気にしてしまうよ。…普段通り、これからまた話す機会をたくさん作っていって欲しいな」
「…はい」
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