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本編

第17話_決死-1

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サルファーが見守る中、闇の影斗オニキスと氷の蒼矢アズライトがそれぞれに周囲へ霧を漂わせ、地上と上空から装具を構えながら互いを睨み合う。
双方微動だにせず、沈黙を守ったまま相手の出方をうかがっていた。

その実、オニキスの体力は限界を迎えていた。
度重なるアズライトからの氷撃で、戦闘スーツは全身が割け、隙間から見える肌は擦傷と凍傷にまみれていた。
追撃を防げず、身体の自由が利かないまま落とされ、地に叩きつけられた節々に激痛が走っていた。
その上で、残る力の全てを使い、今までのセイバー人生で経験が無いほどの濃い毒霧を噴出した。

倒れそうな身体をこらえ、あがりそうな息を抑え、オニキスはアズライトを睨み上げる。

「!!」

アズライトが先に動く。
氷柱の切っ先をまっすぐオニキスへ向け、急降下する。
高速で迫る彼を、『暗虚』を前で交差させ、オニキスは迎え撃つ。

轟音と共に地表が剥がれる勢いで激突したふたりは、互いの霧を混ざり合わせながら装具で押し合う。
すぐさま暗虚の爪に霜が降り、手甲を伝い、両腕へと広がっていく。

「…っの野郎…!!」

オニキスは身体能力のみでじわじわと押し返し、鉤爪で氷柱の刀身を掴むと、剣先を逸らせてアズライトへ近寄っていく。
得物を捕らえられたアズライトはその手元を一瞥した後、オニキスへ視線を戻し、目を見開いた。
瞬間アズライトを纏う氷気が膨れ上がり、オニキスの毒霧を上空へ吹き飛ばしていく。
紫黒色の霧が空中へ散りぢりにかき消え、辺り一帯が凍てつく薄青の霧に満たされる。

「っ…まじでクソ強ぇな、お前…。…俺らにメイン張らせて、上手いこと隠しやがってたな…畜生が…っ…」

息を白くしながら、オニキスは悪態をく。
霜は氷の結晶へ変わり、腕を覆い、音をたてながら身体へと伝っていく。

「オニキス!! 駄目だ、離れろっ…!!!」

少しずつ凍り付いていくオニキスの姿に、サルファーは向かいたい気持ちを懸命に抑えながら、遠くから喚く。

サルファーの制止を無視するように、オニキスは凍らされながらも少しずつアズライトへ近付いていく。

「…お前の実力は、痛いほど解った。実際今、全身痛ぇしな。もう体の感覚ほぼねぇよ…」

アズライトは鼻先まで辿り着いた彼を、青白い面差しの中から冷たい瞳で見やっていた。

「もう、俺の負けでいいよ。いいから…、そろそろ終わりにしようぜ」

顔中に霜が降り、オニキスは青く染まった唇を震わせながら、いつもの調子で語りかける。

「なぁ、蒼矢…」

オニキスの瞳がうつろになり、足許がぐらついていく。

「オニキスー!!」

サルファーが『閃光せんこう』を構え、ふたりの元へ飛ぶ。
金色の瞳を歪ませながら、躊躇なく細剣の切っ先をアズライトへ向ける。

「アズライト、やめろー!! 正気に戻れ!!」

アズライトは膝をつくオニキスから猛接近するサルファーへと視線を流し、周りの氷気から眼力だけで氷の刃を造る。
宙に浮かぶ無数の刃の切っ先が、向かってくるサルファーへ向けて鋭く光る。

が、次の瞬間アズライトの眼がわずかに揺れ、冷たく生気の無い瞳が鮮やかな藍色を取り戻していく。
そのまま目が閉じられ、傾いていく身体をオニキスはわずかに残った意識で受け止め、そのまま双方崩れ落ちる。
氷の霧も刃も、一瞬その場に時が止まったように動かなくなり、四方へ霧散した。

「…オニキスっ…アズライト!!」
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