ガイアセイバーズ6 -妖艶の糸繰り人形-

独楽 悠

文字の大きさ
上 下
26 / 62
本編

第8話_翻弄される憧れ-4

しおりを挟む
蒼矢ソウヤの容体に問題は無く、話を終えると全員解散となった。

ひと足先に1階へ降り、飲み物を貰おうとキッチンへ向かったアキラだったが、冷蔵庫を開けたところで居間から見える境内の景色の中に、隅の方でぽつんとしゃがむ灰茶色の丸い頭が見えた。
コップに注いだ麦茶を一気飲みすると、玄関へと廊下を駆け、境内へ回り込む。

苡月イツキー?」

背を向けて座り込む苡月が振り向いてくる様子は無く、声をかけた陽は眉を寄せ、歩み寄って隣に立った。

「おーい。まさかお前も具合悪くしたとかじゃねぇよな?」

腰を曲げて顔を覗き見ると、苡月は少し頬を染め、物憂げな面持ちのなか目だけを陽へ見上げ、すぐに視線を足元へと外す。そんな様子にいよいよ眉をひそめると、陽は彼の隣にしゃがんだ。

「…どうしたよ。さっきから様子おかしくねぇか?」

そう問われ、苡月は再び横目で彼へちらりと視線をやると、腕にうずめた口からくぐもった声を出す。

「…蒼矢君て、最近どこか変わった…?」
「あ?」

間の抜けた声を返すと、苡月は紅潮させた頬を少し膨らませた。

「…陽君じゃ、わかんないよね…」
「!? お前、目に見えて"使えねぇ奴"って顔すんなよ! …変わってねぇだろ、別に。お前より俺の方がずっとあお兄の近くに居るんだぞ、間違いないっ」
「…」
「納得してねぇって顔だな。お前は蒼兄がどう変わったってんだよ?」

そう詰められ、苡月はしばしの沈黙の後、両腕にしまっていた口元を出した。

「どうって…具体的には言えないけど…、蒼矢君て、こんな人だったかなぁって。…こっちに帰ってる時に毎回会えてたわけじゃなかったけど、僕の中に蒼矢君への印象みたいなものが出来上がってたんだ。でも、それとなんだか違う気がして…」

その言葉に、陽は昨日の蒼矢に対する彼のリアクションと、それについての葉月の注釈を思い出す。

「思ってたのと違ったってことか? そりゃ蒼兄は俺も好きだけど、お前にとっちゃだいぶ"特別"みたいだからな…。よく会うようになって、現実が見えてきたってか、蒼兄にお前の理想を押し付け過ぎてただけなんじゃねぇか?」
「……」

陽は努めて必死に頭の中で考えを凝らしつつ、自分なりの考察を話して聞かせた。
しかしその彼らしくもないまともな返しに、黙ったまま聞いていた苡月の焦茶の瞳は潤んでいき、涙が零れた。
まさかの落涙に、陽はぎょっと目を見開く。

「…!? ごっ…ごめ、…え!? ちょ、泣くなって…っ」
「ふたりとも、どうしたの? そんなところで薄着のまま座って。風邪ひくよ」

慌てふためき始めたところで、帰宅する蒼矢を見送った葉月ハヅキがふたりに気付き、後ろから近寄ってくる。

「!! つ、つき兄っ…、あのっ…」

なにやら狼狽する陽を見、葉月は動かない苡月の肩に手を置く。

「…苡月?」
「っ…」

兄の優しい声掛けに苡月は立ち上がり、その胸に飛び込んでいく。

「…ごめん。泣かすつもりじゃなかったんだ…」

眉を下げ、すっかり気落ちした顔を晒す陽に、葉月はいつも通りの笑みを返すと、弟の腕を抱き、家へと連れていく。

「陽、朝からありがとうね。…あとで連絡するから、今日は帰りなさい」
「…うん」

境内にひとり残された陽は、やがて肩を落としながらとぼとぼと、隅に停めたロードバイクへと歩いていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※毎週、月、水、金曜日更新 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。 ※追放要素、ざまあ要素は第二章からです。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...