ガイアセイバーズ6 -妖艶の糸繰り人形-

独楽 悠

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本編

第8話_翻弄される憧れ-4

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蒼矢ソウヤの容体に問題は無く、話を終えると全員解散となった。

ひと足先に1階へ降り、飲み物を貰おうとキッチンへ向かったアキラだったが、冷蔵庫を開けたところで居間から見える境内の景色の中に、隅の方でぽつんとしゃがむ灰茶色の丸い頭が見えた。
コップに注いだ麦茶を一気飲みすると、玄関へと廊下を駆け、境内へ回り込む。

苡月イツキー?」

背を向けて座り込む苡月が振り向いてくる様子は無く、声をかけた陽は眉を寄せ、歩み寄って隣に立った。

「おーい。まさかお前も具合悪くしたとかじゃねぇよな?」

腰を曲げて顔を覗き見ると、苡月は少し頬を染め、物憂げな面持ちのなか目だけを陽へ見上げ、すぐに視線を足元へと外す。そんな様子にいよいよ眉をひそめると、陽は彼の隣にしゃがんだ。

「…どうしたよ。さっきから様子おかしくねぇか?」

そう問われ、苡月は再び横目で彼へちらりと視線をやると、腕にうずめた口からくぐもった声を出す。

「…蒼矢君て、最近どこか変わった…?」
「あ?」

間の抜けた声を返すと、苡月は紅潮させた頬を少し膨らませた。

「…陽君じゃ、わかんないよね…」
「!? お前、目に見えて"使えねぇ奴"って顔すんなよ! …変わってねぇだろ、別に。お前より俺の方がずっとあお兄の近くに居るんだぞ、間違いないっ」
「…」
「納得してねぇって顔だな。お前は蒼兄がどう変わったってんだよ?」

そう詰められ、苡月はしばしの沈黙の後、両腕にしまっていた口元を出した。

「どうって…具体的には言えないけど…、蒼矢君て、こんな人だったかなぁって。…こっちに帰ってる時に毎回会えてたわけじゃなかったけど、僕の中に蒼矢君への印象みたいなものが出来上がってたんだ。でも、それとなんだか違う気がして…」

その言葉に、陽は昨日の蒼矢に対する彼のリアクションと、それについての葉月の注釈を思い出す。

「思ってたのと違ったってことか? そりゃ蒼兄は俺も好きだけど、お前にとっちゃだいぶ"特別"みたいだからな…。よく会うようになって、現実が見えてきたってか、蒼兄にお前の理想を押し付け過ぎてただけなんじゃねぇか?」
「……」

陽は努めて必死に頭の中で考えを凝らしつつ、自分なりの考察を話して聞かせた。
しかしその彼らしくもないまともな返しに、黙ったまま聞いていた苡月の焦茶の瞳は潤んでいき、涙が零れた。
まさかの落涙に、陽はぎょっと目を見開く。

「…!? ごっ…ごめ、…え!? ちょ、泣くなって…っ」
「ふたりとも、どうしたの? そんなところで薄着のまま座って。風邪ひくよ」

慌てふためき始めたところで、帰宅する蒼矢を見送った葉月ハヅキがふたりに気付き、後ろから近寄ってくる。

「!! つ、つき兄っ…、あのっ…」

なにやら狼狽する陽を見、葉月は動かない苡月の肩に手を置く。

「…苡月?」
「っ…」

兄の優しい声掛けに苡月は立ち上がり、その胸に飛び込んでいく。

「…ごめん。泣かすつもりじゃなかったんだ…」

眉を下げ、すっかり気落ちした顔を晒す陽に、葉月はいつも通りの笑みを返すと、弟の腕を抱き、家へと連れていく。

「陽、朝からありがとうね。…あとで連絡するから、今日は帰りなさい」
「…うん」

境内にひとり残された陽は、やがて肩を落としながらとぼとぼと、隅に停めたロードバイクへと歩いていった。
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