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本編
第4話_水底の罠-2
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「私は『セイバーズ』を、『現実世界』の姿のうちからよく観察していてね。長年お前たちを追ってきた中で、こうして私のテリトリーへ入って来れる者はおそらく『アズライト』だけだという考えに至った。…結果、予測通りお前だけがここまでおびき寄せられたわけだ」
「…!」
「面白いほど私の思惑通りに動いてくれたよ。…仇の手の中で転がされた気分はいかがかな?」
嫌らしく嗤う[侵略者]を前に、蒼矢は刺すような視線を返しながら『水面』を逆手に構える。
戦闘態勢へ入るセイバーへ、[霆蛇]は深くため息をついてみせた。
「…やめておいた方がいい、お前の力の程も把握済だ。氷の力も宿しているようだが、水中で使えはしないだろう?」
[霆蛇]の言う"氷の力"とは、『アズライト』の第二の属性である『凍氷』のことで、攻撃性が非常に高く、初期属性まで攻撃手段がほぼ無かったアズライトの地力を大幅に底上げする後発属性である。当代アズライトの宿主である蒼矢にこのほど発現し、それまで攻撃担当としてはほぼ参加できなかった彼は、戦闘補助から攻撃手まで担えるポジションを大幅に広げることが出来るようになった。
が、『凍氷』に切り替えると属性が変わるため水中での呼吸が不可能となるうえ、随分深くまで潜ってきてしまい、水圧の影響をどれだけ受けるかも計り知れない。
離脱出来ず、地上で待つ仲間との通信も途絶えている今、アズライトには『凍氷』の能力を頼れないまま目の前の[侵略者]と対峙するしか道が残されていなかった。
しかし[霆蛇]は彼に対し、もう一つの選択肢を提示してきた。
「"待っていた"と言っただろう。私は『お前』を迎え入れたのだ。[異界]」では最も厄介な邪魔者である『アズライト』に、興味がある。…おそらく私の手足となるに相応しい力を持っているとね」
「…!?」
「見ての通り、私はこのように水中でしか存在を維持できない。動くことも億劫ゆえ、"狩り"をするにしてもこうして誘い寄せられる獲物だけを搾取し、この身をなんとか保っているのだ。…水陸の移動が出来、小回りの利くお前を、私の手駒として手に入れたい」
[霆蛇]はその巨体宜しく緩慢な口ぶりで口上を述べるものの、大きくぎらつかせた両眼は射止めるようにアズライトへ注がれ、滲み出る執着心を表出していた。
「お前に害を与えるわけではない。まぁ…少し意識を支配はするがな。望むのなら今まで通り、『現実世界』で人間としての活動も、『セイバー』としての活動も続けさせてやるぞ。…お前はここから無事、上で待つ者たちの元へ戻れるし、悪い話ではないだろう?」
無言のまま聞いていたアズライトはその欲にまみれた視線を受け止めると、怒りを表出して水を蹴る。
「…世迷い言を!!」
「…交渉決裂か」
[霆蛇]は再び呆れたようにため息をついてみせ、猛接近する水の戦士を目を細めて見やった。
「…!」
「面白いほど私の思惑通りに動いてくれたよ。…仇の手の中で転がされた気分はいかがかな?」
嫌らしく嗤う[侵略者]を前に、蒼矢は刺すような視線を返しながら『水面』を逆手に構える。
戦闘態勢へ入るセイバーへ、[霆蛇]は深くため息をついてみせた。
「…やめておいた方がいい、お前の力の程も把握済だ。氷の力も宿しているようだが、水中で使えはしないだろう?」
[霆蛇]の言う"氷の力"とは、『アズライト』の第二の属性である『凍氷』のことで、攻撃性が非常に高く、初期属性まで攻撃手段がほぼ無かったアズライトの地力を大幅に底上げする後発属性である。当代アズライトの宿主である蒼矢にこのほど発現し、それまで攻撃担当としてはほぼ参加できなかった彼は、戦闘補助から攻撃手まで担えるポジションを大幅に広げることが出来るようになった。
が、『凍氷』に切り替えると属性が変わるため水中での呼吸が不可能となるうえ、随分深くまで潜ってきてしまい、水圧の影響をどれだけ受けるかも計り知れない。
離脱出来ず、地上で待つ仲間との通信も途絶えている今、アズライトには『凍氷』の能力を頼れないまま目の前の[侵略者]と対峙するしか道が残されていなかった。
しかし[霆蛇]は彼に対し、もう一つの選択肢を提示してきた。
「"待っていた"と言っただろう。私は『お前』を迎え入れたのだ。[異界]」では最も厄介な邪魔者である『アズライト』に、興味がある。…おそらく私の手足となるに相応しい力を持っているとね」
「…!?」
「見ての通り、私はこのように水中でしか存在を維持できない。動くことも億劫ゆえ、"狩り"をするにしてもこうして誘い寄せられる獲物だけを搾取し、この身をなんとか保っているのだ。…水陸の移動が出来、小回りの利くお前を、私の手駒として手に入れたい」
[霆蛇]はその巨体宜しく緩慢な口ぶりで口上を述べるものの、大きくぎらつかせた両眼は射止めるようにアズライトへ注がれ、滲み出る執着心を表出していた。
「お前に害を与えるわけではない。まぁ…少し意識を支配はするがな。望むのなら今まで通り、『現実世界』で人間としての活動も、『セイバー』としての活動も続けさせてやるぞ。…お前はここから無事、上で待つ者たちの元へ戻れるし、悪い話ではないだろう?」
無言のまま聞いていたアズライトはその欲にまみれた視線を受け止めると、怒りを表出して水を蹴る。
「…世迷い言を!!」
「…交渉決裂か」
[霆蛇]は再び呆れたようにため息をついてみせ、猛接近する水の戦士を目を細めて見やった。
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