4 / 62
本編
第1話_新しい風-2
しおりを挟む
少し前、遠方から生家であるこの神社へ帰ってきた苡月は当初、不必要なまでに伸ばした前髪に襟足も長く、彼が突然帰ってきたことの方に驚いた陽は初見では思い至らなかったものの、落ち着いて会話する頃には内心全頭バリカンを当てたいくらいにうざさを感じていた。
ほどなくしてこの神社の宮司である兄の手によりカットされ、前髪も襟足もすっきりと見える姿になっていた。
「これからまだやることあんの?」
「本殿廻りの掃き掃除で終わりだよ、今日は神事が入ってないから。…待ってて」
そう言うと、苡月は竹箒を拾って用具倉庫へ入り、もう片方の手にちりとりを持って本殿の方へぱたぱたと駆けていく。積んでいた落ち葉をちりとりへ集め、ひとつふたつこぼしながら焼却ボックスへ落とすと、再び駆け足で戻ってくる。
その仕草を目で追いながら、陽は満足気な表情を浮かべていた。
「陽君は、今日はどうしてここへ?」
「…あぁ!! そうそう、お前にこれ見て欲しくってさー」
苡月に問われ、本題を忘れていたらしい陽は目を丸くした後、背中のリュックを前に持ってくると中身を漁り、しわくちゃになった紙を突き出した。
「この前お前に見てもらった定理と解き方、まんま出たぜ! その結果、補講スルー達成!!」
どうやら数学の小テストらしいその用紙を指差しながら、陽は頬を上気させる。問題文と陽の解答に目を通し、苡月も嬉しそうに顔をあげた。
「…良かったね!」
「おう! いやー、まさかお前が理系人間に育ってるとは思わなかったぜ。兄貴は超文系なのになー。つか、中三なのに高校で習う数学まで出来んのすごくね?」
「好きで、高校でやる内容まで追っちゃうんだ。…役に立てて嬉しい」
「もうお前様々よ! 今まで俺の数学をどうにかしてくれるの蒼兄だけしかいなかったからさぁ…影兄は先にグロゲーやらないと教えてくれねぇし…っ」
「…苦労してたんだね」
少し前まで兄貴風吹かして勉強見てやるなどとのたまっていたのに、いつの間にやら逆に教えてもらう立場になり下がってしまっていた陽だったが、双方そんな違和感は全く気にしていない。
「今後もよろしく頼むぜ!」
「期待値が大き過ぎるよ…」
「お前も高校入る前に予習できるし、一石二鳥だろぉ? 俺の成績底上げに貢献してくれよ」
「うん、でも…」
陽の言を受け、苡月は少し目を見開かせた後、再び視線を下げた。
「多分、自分にはあまり役に立たないよ。…少しは一般教養としてやると思うけど」
苡月はそう、どこか言いにくそうに手遊びしながら漏らし、やや眉をひそめる陽を上目遣いで見る。
「…秘密だからね。…あっちの学校の保健の先生以外には、まだ誰にも言ってないんだ」
そして棒立ちの陽へ寄ると、耳打ちした。
ほどなくしてこの神社の宮司である兄の手によりカットされ、前髪も襟足もすっきりと見える姿になっていた。
「これからまだやることあんの?」
「本殿廻りの掃き掃除で終わりだよ、今日は神事が入ってないから。…待ってて」
そう言うと、苡月は竹箒を拾って用具倉庫へ入り、もう片方の手にちりとりを持って本殿の方へぱたぱたと駆けていく。積んでいた落ち葉をちりとりへ集め、ひとつふたつこぼしながら焼却ボックスへ落とすと、再び駆け足で戻ってくる。
その仕草を目で追いながら、陽は満足気な表情を浮かべていた。
「陽君は、今日はどうしてここへ?」
「…あぁ!! そうそう、お前にこれ見て欲しくってさー」
苡月に問われ、本題を忘れていたらしい陽は目を丸くした後、背中のリュックを前に持ってくると中身を漁り、しわくちゃになった紙を突き出した。
「この前お前に見てもらった定理と解き方、まんま出たぜ! その結果、補講スルー達成!!」
どうやら数学の小テストらしいその用紙を指差しながら、陽は頬を上気させる。問題文と陽の解答に目を通し、苡月も嬉しそうに顔をあげた。
「…良かったね!」
「おう! いやー、まさかお前が理系人間に育ってるとは思わなかったぜ。兄貴は超文系なのになー。つか、中三なのに高校で習う数学まで出来んのすごくね?」
「好きで、高校でやる内容まで追っちゃうんだ。…役に立てて嬉しい」
「もうお前様々よ! 今まで俺の数学をどうにかしてくれるの蒼兄だけしかいなかったからさぁ…影兄は先にグロゲーやらないと教えてくれねぇし…っ」
「…苦労してたんだね」
少し前まで兄貴風吹かして勉強見てやるなどとのたまっていたのに、いつの間にやら逆に教えてもらう立場になり下がってしまっていた陽だったが、双方そんな違和感は全く気にしていない。
「今後もよろしく頼むぜ!」
「期待値が大き過ぎるよ…」
「お前も高校入る前に予習できるし、一石二鳥だろぉ? 俺の成績底上げに貢献してくれよ」
「うん、でも…」
陽の言を受け、苡月は少し目を見開かせた後、再び視線を下げた。
「多分、自分にはあまり役に立たないよ。…少しは一般教養としてやると思うけど」
苡月はそう、どこか言いにくそうに手遊びしながら漏らし、やや眉をひそめる陽を上目遣いで見る。
「…秘密だからね。…あっちの学校の保健の先生以外には、まだ誰にも言ってないんだ」
そして棒立ちの陽へ寄ると、耳打ちした。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
つまりは相思相愛
nano ひにゃ
BL
ご主人様にイかないように命令された僕はおもちゃの刺激にただ耐えるばかり。
限界まで耐えさせられた後、抱かれるのだが、それもまたしつこく、僕はもう僕でいられない。
とことん甘やかしたいご主人様は目的達成のために僕を追い詰めるだけの短い話です。
最初からR表現です、ご注意ください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
産卵おじさんと大食いおじさんのなんでもない日常
丸井まー(旧:まー)
BL
余剰な魔力を卵として毎朝産むおじさんと大食らいのおじさんの二人のなんでもない日常。
飄々とした魔導具技師✕厳つい警邏学校の教官。
※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。全15話。
またのご利用をお待ちしています。
あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。
緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?!
・マッサージ師×客
・年下敬語攻め
・男前土木作業員受け
・ノリ軽め
※年齢順イメージ
九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮
【登場人物】
▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻
・マッサージ店の店長
・爽やかイケメン
・優しくて低めのセクシーボイス
・良識はある人
▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受
・土木作業員
・敏感体質
・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ
・性格も見た目も男前
【登場人物(第二弾の人たち)】
▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻
・マッサージ店の施術者のひとり。
・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。
・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。
・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。
▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受
・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』
・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。
・理性が強め。隠れコミュ障。
・無自覚ドM。乱れるときは乱れる
作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。
徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる