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本編
第9話_選ばれた者が在るべき場所-4
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数分後、紙コップふたつ分の水を両手に持ったカレンが戻ってくる。
「…っ!?」
しかし、つい今しがた自分と蒼矢が並んで座っていた場所には、誰もいない空白だけが残されていた。
一瞬戻ってくる場所を間違えたかと思ったが、歩道端の縁石の上にボアコートが畳んで置かれていることに気づき、確信をもって走り寄る。
「ソウヤ…!?」
コートを拾ってきょろきょろとあたりへ視線をやったが、蒼矢は見当たらない。
「…!? どこへ…」
事態がのみ込めず、混乱と不安が一気に襲ってくる中、斜めがけにしていたスマホストラップが震える。
反射的に手にとると、画面には蒼矢から送られたSNSの通知が表示されていて、アプリを開いたカレンは目を見張る。
――勝手に動いてしまってごめん。救急車に乗る順番が回ってきたから病院に行ってくる。君用にタクシーを手配しておいたので、駐車場から敷地外に出てすぐに見える大通りの交差点で待っててください。じきに迎車がきます――
――終わったら必ず会いに行くから、ホテルで待ってて――
そうしたためられていたものの、どこか違和感を覚えたカレンはいてもたってもいられなくなり、その場から離れて方々を見てまわる。
「…ソウヤ…!」
コートを握り締めたまま、ここまで蒼矢と来た道を戻るように歩き、四方へ視線を巡らせる。
やがて、小さな曲がり角とその先にあるひと気のない路地が視界の端に入り、その異質な空気を醸す空間へ、誘われるかのように歩み寄っていく。
「……!!」
その狭く薄暗い路地に足を踏み入れた途端、地面にぽつんと落ちる黄色いトリアージタグに気付く。
しかし、奥に見える路地をぬけた先の光る景色まで、カレンの視界に見えるものはなにもなかった。
蒼矢は、カレンが『見えている世界』から忽然と姿を消していた。
「…っ!?」
しかし、つい今しがた自分と蒼矢が並んで座っていた場所には、誰もいない空白だけが残されていた。
一瞬戻ってくる場所を間違えたかと思ったが、歩道端の縁石の上にボアコートが畳んで置かれていることに気づき、確信をもって走り寄る。
「ソウヤ…!?」
コートを拾ってきょろきょろとあたりへ視線をやったが、蒼矢は見当たらない。
「…!? どこへ…」
事態がのみ込めず、混乱と不安が一気に襲ってくる中、斜めがけにしていたスマホストラップが震える。
反射的に手にとると、画面には蒼矢から送られたSNSの通知が表示されていて、アプリを開いたカレンは目を見張る。
――勝手に動いてしまってごめん。救急車に乗る順番が回ってきたから病院に行ってくる。君用にタクシーを手配しておいたので、駐車場から敷地外に出てすぐに見える大通りの交差点で待っててください。じきに迎車がきます――
――終わったら必ず会いに行くから、ホテルで待ってて――
そうしたためられていたものの、どこか違和感を覚えたカレンはいてもたってもいられなくなり、その場から離れて方々を見てまわる。
「…ソウヤ…!」
コートを握り締めたまま、ここまで蒼矢と来た道を戻るように歩き、四方へ視線を巡らせる。
やがて、小さな曲がり角とその先にあるひと気のない路地が視界の端に入り、その異質な空気を醸す空間へ、誘われるかのように歩み寄っていく。
「……!!」
その狭く薄暗い路地に足を踏み入れた途端、地面にぽつんと落ちる黄色いトリアージタグに気付く。
しかし、奥に見える路地をぬけた先の光る景色まで、カレンの視界に見えるものはなにもなかった。
蒼矢は、カレンが『見えている世界』から忽然と姿を消していた。
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