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本編
第8話_地中からの怪異-7
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身体を崩れおとす蒼矢の挙動を見、影斗が目を見張りながら烈へ声をなげる。
「! …おい、大丈夫なのかそりゃ。どこか怪我してんじゃねぇのか?」
「ソウヤは…彼はさっき、今の虫みたいな生物に投げ飛ばされてっ…」
すると、腕に掴まるカレンが見上げてそう訴え、影斗は彼女へ視線を落とし、静かに問いかける。
「…あんた、蒼矢の連れ?」
切迫の面持ちで細かく頷き返すカレンの仕草に、内で大体の状況を想定し把握したらしい影斗は、軽く息をついて頷き返した。
ついで、緊張が解けたせいか恐怖感を募らせ涙目になる彼女へ、ニッと笑いかけてやる。
「…怖かったな。でももう大丈夫だ。随分混乱したみたいだが、徐々に収まってくる。これ以上被害が広がることはないだろうから安心しな」
そして、蒼矢へも聞こえるように言葉を続ける。
「この先の駐車場で、イベントの運営が怪我人の一時受け入れしはじめてる。そこに行きゃ、救急車なりタクシーなり順番に手配してくれると思うから、あんたらも行って保護してもらってくれ」
「…はい…!」
「俺たちはこの先の怪我人たちにも伝えてまわるから、わるいけどこの場はカレンに頼む。ひとりで連れて行けるか?」
「大丈夫です!」
落ちついた声がけを聞いてカレンは少しずつ平静をとり戻し、彼女がはっきりと応じる様子に影斗も満足気に笑った。
彼らの会話を耳にしながら烈は膝をつき、座りこむ蒼矢にささやく。
「…お前は来るな」
「……!」
ぼんやりと漂っていた蒼矢の視線が止まり、烈を見あげる。
「その形じゃ無理だ。今回はおとなしく『現実世界』で待ってろ」
「…っ…でも…」
想定外の指示に蒼矢は戸惑い、目で拒絶を訴えるが、烈は面差しを冷やし淡々と続けた。
「でもじゃねぇ、来んな。自分の怪我の程度くらい理解しろよ…ちゃんと病院行って、すぐにでも治療受けろ」
「烈、話を…」
「聞き分けろ。お前、『転送』して彼女ひとりここに残してくつもりかよ?」
そう低く問われ、蒼矢は目を見張り、口をつぐむ。
いつもとは違う、強い圧を感じる烈の口調と態度に、蒼矢はなにも言い返すことができなくなり、眉を歪めて視線を落とした。
そのやるせない表情に、烈はちくりと胸に痛みを感じたが、すぐに切り替える。
「…"今"のお前がやらなきゃならねぇことは何なのか、落ち着いて考えろ」
そしてそう伝え、蒼矢を置いて立ちあがる。
ついで様子を見守っていた影斗へ視線を送り、ふたりで軽く頷き合った。
「――じゃ、あと任せたぜ」
カレンへひと言投げ、影斗と烈は駐車場とは逆方向へ走り去っていった。
「ソウヤっ…」
彼らの足音が遠ざかっていく中、カレンは蒼矢へかけ寄る。
烈から『現実世界』での待機を言い渡され、蒼矢は頭の中で思考が続けられなくなっていて、放心した面持ちのまま地面を見つめていた。
しかし視界に入った彼女を見ると、先ほどの烈の言葉が頭の中に戻ってきた。
「…」
蒼矢は一旦瞼を落とし、気持ちを落ち着かせる。
そして頭をもたげ、自分を不安気に見やるカレンと目を合わせ、ぽつりと問いかける。
「……無事?」
「! 私は全然平気よ! ソウヤが守ってくれたからっ…」
「…良かった」
衰弱する表情からこぼれる微笑と、こちらを安心させるような声がけに、カレンは薄い色の瞳に再び涙を浮かべる。
「…っ、…ごめんなさい、私のせいで…っ…」
「君はなにもわるくない」
懺悔しはじめる彼女へ小さくそう返し、蒼矢は目元を緩ませる。
彼の柔らかな面差しを受けとめたカレンは、瞼にたまる涙を引っこめて表情を正す。
そして、どこかしらに怪我を負っているだろう蒼矢の身体へ慎重に腕を回し、ゆっくりと持ちあげる。
「…駐車場へ向かいましょう。歩ける?」
「…うん」
「痛むかもしれないけど、我慢してね」
「…うん、…ありがとう」
「! …おい、大丈夫なのかそりゃ。どこか怪我してんじゃねぇのか?」
「ソウヤは…彼はさっき、今の虫みたいな生物に投げ飛ばされてっ…」
すると、腕に掴まるカレンが見上げてそう訴え、影斗は彼女へ視線を落とし、静かに問いかける。
「…あんた、蒼矢の連れ?」
切迫の面持ちで細かく頷き返すカレンの仕草に、内で大体の状況を想定し把握したらしい影斗は、軽く息をついて頷き返した。
ついで、緊張が解けたせいか恐怖感を募らせ涙目になる彼女へ、ニッと笑いかけてやる。
「…怖かったな。でももう大丈夫だ。随分混乱したみたいだが、徐々に収まってくる。これ以上被害が広がることはないだろうから安心しな」
そして、蒼矢へも聞こえるように言葉を続ける。
「この先の駐車場で、イベントの運営が怪我人の一時受け入れしはじめてる。そこに行きゃ、救急車なりタクシーなり順番に手配してくれると思うから、あんたらも行って保護してもらってくれ」
「…はい…!」
「俺たちはこの先の怪我人たちにも伝えてまわるから、わるいけどこの場はカレンに頼む。ひとりで連れて行けるか?」
「大丈夫です!」
落ちついた声がけを聞いてカレンは少しずつ平静をとり戻し、彼女がはっきりと応じる様子に影斗も満足気に笑った。
彼らの会話を耳にしながら烈は膝をつき、座りこむ蒼矢にささやく。
「…お前は来るな」
「……!」
ぼんやりと漂っていた蒼矢の視線が止まり、烈を見あげる。
「その形じゃ無理だ。今回はおとなしく『現実世界』で待ってろ」
「…っ…でも…」
想定外の指示に蒼矢は戸惑い、目で拒絶を訴えるが、烈は面差しを冷やし淡々と続けた。
「でもじゃねぇ、来んな。自分の怪我の程度くらい理解しろよ…ちゃんと病院行って、すぐにでも治療受けろ」
「烈、話を…」
「聞き分けろ。お前、『転送』して彼女ひとりここに残してくつもりかよ?」
そう低く問われ、蒼矢は目を見張り、口をつぐむ。
いつもとは違う、強い圧を感じる烈の口調と態度に、蒼矢はなにも言い返すことができなくなり、眉を歪めて視線を落とした。
そのやるせない表情に、烈はちくりと胸に痛みを感じたが、すぐに切り替える。
「…"今"のお前がやらなきゃならねぇことは何なのか、落ち着いて考えろ」
そしてそう伝え、蒼矢を置いて立ちあがる。
ついで様子を見守っていた影斗へ視線を送り、ふたりで軽く頷き合った。
「――じゃ、あと任せたぜ」
カレンへひと言投げ、影斗と烈は駐車場とは逆方向へ走り去っていった。
「ソウヤっ…」
彼らの足音が遠ざかっていく中、カレンは蒼矢へかけ寄る。
烈から『現実世界』での待機を言い渡され、蒼矢は頭の中で思考が続けられなくなっていて、放心した面持ちのまま地面を見つめていた。
しかし視界に入った彼女を見ると、先ほどの烈の言葉が頭の中に戻ってきた。
「…」
蒼矢は一旦瞼を落とし、気持ちを落ち着かせる。
そして頭をもたげ、自分を不安気に見やるカレンと目を合わせ、ぽつりと問いかける。
「……無事?」
「! 私は全然平気よ! ソウヤが守ってくれたからっ…」
「…良かった」
衰弱する表情からこぼれる微笑と、こちらを安心させるような声がけに、カレンは薄い色の瞳に再び涙を浮かべる。
「…っ、…ごめんなさい、私のせいで…っ…」
「君はなにもわるくない」
懺悔しはじめる彼女へ小さくそう返し、蒼矢は目元を緩ませる。
彼の柔らかな面差しを受けとめたカレンは、瞼にたまる涙を引っこめて表情を正す。
そして、どこかしらに怪我を負っているだろう蒼矢の身体へ慎重に腕を回し、ゆっくりと持ちあげる。
「…駐車場へ向かいましょう。歩ける?」
「…うん」
「痛むかもしれないけど、我慢してね」
「…うん、…ありがとう」
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