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本編
第8話_地中からの怪異-5
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「…! ソ……っ」
蒼矢がなぎ倒される光景を間近で目にしたカレンは、ショックで顔面を蒼白にさせて声を失い、空色の瞳は瞬きを忘れたまま硬直する。
思考が停止しかける中、周囲の地面がにわかに暗くなり、カレンは細かく震えながら少しずつ後ろへと振り向く。
「……ひっ…!」
ふたりをつけ狙う3体の[蠕虫]は、しゃがみこむカレンを中心にしていつの間にか至近距離にまで詰め、幾多の黄色い触手を怖気がたつほどしなやかにうねらせていた。
「…ぃ……ゃ…」
絶望的状況に、身体はもはやまともに動かせなくなり、腰が砕けて立てなくなった足でいたずらに地面をひっかく。
逃げる力を失った彼女に、体液で艶めく無数の触手が迫る。
再び触手がカレンを捕える直前、蒼矢の指先がぴくりと動く。
半分閉じかけていた目を見開き、力なく垂れていた頭をもたげ、手のひらで地面をついて瞬時に身を起こすと背に転がる鉄管を掴む。
そして体のばねを全開に駆使し、正面にうごめく[蠕虫]めがけてまっすぐ放った。
「ぁああああっ!!」
痩躯から放たれたとは思えないほど速度の乗った鉄管は、[蠕虫]の頭部に突き刺さる。
瞬間、攻撃を喰らった[蠕虫]が耳を刺すような悲鳴をあげ、灰色の粉塵をまき散らしながら体躯を大き
くのけ反って後退する。
他の[蠕虫]も怯んで後ずさる中、蒼矢は新たな鉄管を手にカレンの前へ走り出て、腰を低く落として立つ。
「……ソ…ヤ…っ」
身構えた蒼矢は、3体の巨体の[異形]を前に、射殺すような視線を送る。
面差しからは血の気が失せ、全身が氷をまとうかのように冷たくなっていく。
身体の中心にだけ熱さを感じ、喉元近くに伝わる心臓の鼓動は早まり、呼吸は肩を弾ませるほど変に荒くなる。
そんな興奮状態にありながらも頭の中は冷えきっていて、身体中が訴えているだろう痛みは感じられなくなっていた。
目前の怪物からカレンを、ひとを守るという使命だけが、極限下におかれた今の蒼矢の精神力を支配していた。
こめかみから赤い筋が白い輪郭をつたい、流れ落ちていく。
正面の[蠕虫]が体躯をくねらせ、頭部に刺さった鉄管をふるい落として体勢を整える。
そのまま双方しばらく睨み合っていたが、士気を取り戻したか、[蠕虫]の触手がうねり始める。
蒼矢は目を凝視させて殺気を増し、相手の初手に備える。
蒼矢がなぎ倒される光景を間近で目にしたカレンは、ショックで顔面を蒼白にさせて声を失い、空色の瞳は瞬きを忘れたまま硬直する。
思考が停止しかける中、周囲の地面がにわかに暗くなり、カレンは細かく震えながら少しずつ後ろへと振り向く。
「……ひっ…!」
ふたりをつけ狙う3体の[蠕虫]は、しゃがみこむカレンを中心にしていつの間にか至近距離にまで詰め、幾多の黄色い触手を怖気がたつほどしなやかにうねらせていた。
「…ぃ……ゃ…」
絶望的状況に、身体はもはやまともに動かせなくなり、腰が砕けて立てなくなった足でいたずらに地面をひっかく。
逃げる力を失った彼女に、体液で艶めく無数の触手が迫る。
再び触手がカレンを捕える直前、蒼矢の指先がぴくりと動く。
半分閉じかけていた目を見開き、力なく垂れていた頭をもたげ、手のひらで地面をついて瞬時に身を起こすと背に転がる鉄管を掴む。
そして体のばねを全開に駆使し、正面にうごめく[蠕虫]めがけてまっすぐ放った。
「ぁああああっ!!」
痩躯から放たれたとは思えないほど速度の乗った鉄管は、[蠕虫]の頭部に突き刺さる。
瞬間、攻撃を喰らった[蠕虫]が耳を刺すような悲鳴をあげ、灰色の粉塵をまき散らしながら体躯を大き
くのけ反って後退する。
他の[蠕虫]も怯んで後ずさる中、蒼矢は新たな鉄管を手にカレンの前へ走り出て、腰を低く落として立つ。
「……ソ…ヤ…っ」
身構えた蒼矢は、3体の巨体の[異形]を前に、射殺すような視線を送る。
面差しからは血の気が失せ、全身が氷をまとうかのように冷たくなっていく。
身体の中心にだけ熱さを感じ、喉元近くに伝わる心臓の鼓動は早まり、呼吸は肩を弾ませるほど変に荒くなる。
そんな興奮状態にありながらも頭の中は冷えきっていて、身体中が訴えているだろう痛みは感じられなくなっていた。
目前の怪物からカレンを、ひとを守るという使命だけが、極限下におかれた今の蒼矢の精神力を支配していた。
こめかみから赤い筋が白い輪郭をつたい、流れ落ちていく。
正面の[蠕虫]が体躯をくねらせ、頭部に刺さった鉄管をふるい落として体勢を整える。
そのまま双方しばらく睨み合っていたが、士気を取り戻したか、[蠕虫]の触手がうねり始める。
蒼矢は目を凝視させて殺気を増し、相手の初手に備える。
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