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本編
第1話_新たな歩み-1
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11月半ば。
少しばかり湿気た空気の残る秋が終わりを告げ、冬の訪れをしらせる冷たい木枯らしが、石畳を埋める乾いた落ち葉を舞いちらせ、灰色のアスファルトを黄色くまばらに染めていた。
都内某所・都心のどまん中に、広大な敷地を構え、周囲のビル群と肩を並べる悠然としたメインタワーを擁する私立M大があった。
そして、某日昼時間過ぎという比較的閑散とした時間帯に、ふたりの青年がその敷地内へと足をふみ入れようとしていた。
彼らの在学校の見慣れた歴史深い風景とは一線を画す、整然とデザイニングされた近代的景観とマジックミラーガラスが眩しい教室棟群。
心おどるようなそれらの中にあってもなお一際目を引く、青空のもとにそびえ建つメインタワーを、彼らのひとりが首めいっぱいに見上げる。
「…すげぇ、高ぇ…!」
「一見すると商社ビルみたいな外観だよな。地上23階建、高さは120mくらいあるらしい」
「さすがは私大だな、めっちゃ綺麗だ…!!」
「まだ建てられて比較的新しいみたいだよ。中には普通に講義室や演習室もあるし、講演ホールや食堂、地下に体育館もあるんだって」
見上げている青年・沖本は、隣から入る注釈を耳の遠くで聞きつつ、口元で感嘆の声をもらし続けていた。
そして、初見が欲しいだろう情報を的確に与えているのは彼の相棒・川崎で、少しばかりだが事前にリサーチしておいて間違いなかったと安堵しつつ、もはや顎下しか見えない沖本へ苦笑した。
「沖本、上ばっかり見てると疲れるから。悪目立ちしちゃうし、そろそろ前見て」
「許してくれよ、ちょっとくらい。田舎者丸出しって思われたって俺は構わねぇ。実際そうだしな」
「細かい時間の約束はしてないけど、待たせちゃわるいだろ?」
「! そうだった。どこ来いって言ってたっけ?」
「このタワーとは別の棟にある、1階カフェだって。名前は…、…あ」
スマホの画面を確認しながら目的の方へと視線を流した川崎は、前方に見えた人の姿に気付き、手をふる。
「エイト先輩っ」
川崎が手を振った男は、彼が気付く前から見当がついていたようで、手を振り返しはしなかったがゆるりとした足取りでまっすぐ近付いてくる。
ふたりは軽く頭を下げながら、小走りで駆け寄っていった。
「よぉ」
「生ではお久し振りです!」
「あぁ…そうだな。スマホでは何度かやり取りしてたけど、直接会うのは久々か」
「出迎えありがとうございます」
「原則待つの嫌いだから、俺」
そう明け透けなく言い、にやりと愛想良く笑ってみせる男――宮島 影斗の様子に、把握しうる限りで今までに感じてきた空気感を得、川崎と沖本はやはりいつもと変わらない笑顔を返した。
少しばかり湿気た空気の残る秋が終わりを告げ、冬の訪れをしらせる冷たい木枯らしが、石畳を埋める乾いた落ち葉を舞いちらせ、灰色のアスファルトを黄色くまばらに染めていた。
都内某所・都心のどまん中に、広大な敷地を構え、周囲のビル群と肩を並べる悠然としたメインタワーを擁する私立M大があった。
そして、某日昼時間過ぎという比較的閑散とした時間帯に、ふたりの青年がその敷地内へと足をふみ入れようとしていた。
彼らの在学校の見慣れた歴史深い風景とは一線を画す、整然とデザイニングされた近代的景観とマジックミラーガラスが眩しい教室棟群。
心おどるようなそれらの中にあってもなお一際目を引く、青空のもとにそびえ建つメインタワーを、彼らのひとりが首めいっぱいに見上げる。
「…すげぇ、高ぇ…!」
「一見すると商社ビルみたいな外観だよな。地上23階建、高さは120mくらいあるらしい」
「さすがは私大だな、めっちゃ綺麗だ…!!」
「まだ建てられて比較的新しいみたいだよ。中には普通に講義室や演習室もあるし、講演ホールや食堂、地下に体育館もあるんだって」
見上げている青年・沖本は、隣から入る注釈を耳の遠くで聞きつつ、口元で感嘆の声をもらし続けていた。
そして、初見が欲しいだろう情報を的確に与えているのは彼の相棒・川崎で、少しばかりだが事前にリサーチしておいて間違いなかったと安堵しつつ、もはや顎下しか見えない沖本へ苦笑した。
「沖本、上ばっかり見てると疲れるから。悪目立ちしちゃうし、そろそろ前見て」
「許してくれよ、ちょっとくらい。田舎者丸出しって思われたって俺は構わねぇ。実際そうだしな」
「細かい時間の約束はしてないけど、待たせちゃわるいだろ?」
「! そうだった。どこ来いって言ってたっけ?」
「このタワーとは別の棟にある、1階カフェだって。名前は…、…あ」
スマホの画面を確認しながら目的の方へと視線を流した川崎は、前方に見えた人の姿に気付き、手をふる。
「エイト先輩っ」
川崎が手を振った男は、彼が気付く前から見当がついていたようで、手を振り返しはしなかったがゆるりとした足取りでまっすぐ近付いてくる。
ふたりは軽く頭を下げながら、小走りで駆け寄っていった。
「よぉ」
「生ではお久し振りです!」
「あぁ…そうだな。スマホでは何度かやり取りしてたけど、直接会うのは久々か」
「出迎えありがとうございます」
「原則待つの嫌いだから、俺」
そう明け透けなく言い、にやりと愛想良く笑ってみせる男――宮島 影斗の様子に、把握しうる限りで今までに感じてきた空気感を得、川崎と沖本はやはりいつもと変わらない笑顔を返した。
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