109 / 109
本編
第12話_封じられた眼-11(当作最終ページ)
しおりを挟む
またたく間に髙城邸3階へ行き着いた烈は、正面のドアを開け放つ。
「蒼矢!!」
すると部屋へ足を踏み入れてすぐに、ベッドに仰向けになる裸体が、視界の真ん中間近に飛び込んできた。
寝具は床に落ち、外気に冷やされた部屋のなか、蒼矢はなにも身につけずに横たわっていた。
白皙の肌には前日の戦闘でつくった痣が点々と残るほか、首や胸などがつい先ほどまでなにかに強く圧迫されていたのか、うっすらと赤く染まっていた。
額や首筋には汗がにじみ、顔周りやうなじに流れる髪が濡れていた。
烈のたてた騒音にぴくりとも動かず、目を閉じたままの彼を見、呼吸を止めそうになる烈の脳内に、つい昨日まの当たりにした葉月の姿がフラッシュバックする。
顔貌を固まらせたまま、烈はベッドへ駆け寄る。
「蒼矢っ…蒼矢っ!!」
声を潜めながらも耳のすぐ近くで呼びかけ、肩や上腕を揺り動かす。
すると、眉毛がぴくりと動いて薄くまぶたが開き、天井へとうつろいだあと、烈の方へ視線を合わせた。
「…れ……つ…」
「…っ蒼矢…っ!!」
ほどなく意識が戻った蒼矢は、か細い声で烈の名を呼んだ。
烈は反応が返ってきたことに一旦安堵するも、触れていた彼の身体が冷えきっていることに遅ればせながら気がつき、慌てて風の入る窓へとんでいく。
窓を閉めると、上半身を起こしながらもいまだぼんやりと視線を漂わせている蒼矢を、優しく抱き寄せた。
「…っごめん…、遅くなっちまって…、ごめんな…っ…!」
裸の彼の身になにが起きたのか、おおよその察しがついてしまった烈は、ことが起きる前に間に合わなかった自分を悔やみ、震える声で懺悔した。
しばらく抱擁したあと、烈は落ちていた毛布で蒼矢の身体を包んでやる。
「…蒼矢…、ここでなにがあったんだ…? 『起動装置』が外に落ちてたぞ?」
「…」
「[侵略者]がここに現れたんだろ? 気配わからなかったのか…?」
無事を確認でき、少しずつ落ち着きを取り戻していく烈は、おおよその予測をたてながら、蒼矢へゆっくり問いかけていく。
蒼矢は、呆けた面持ちのまま烈を見やっていたが、問いかけを聞くたび次第に焦点が戻り、面差しが強張っていく。
被せられていた毛布をはね退け、遠慮がちに見守っていた烈の腕を強く掴む。
そして、ふいなことに面食らう彼を正面から見据えた。
「!? そう、や…?」
「……封じられた」
言葉の意図が読めず、眉を寄せつつ困惑の表情を浮かべる烈へ、蒼矢は顔をみるみる蒼白に変えながら、声を荒げた。
「[異界のもの]のなにも、感じ取れなくなった…っ」
「…? …ぇ…」
「昨日の[侵略者]に、『視界』を奪われたんだ…!」
至近距離で視線を合わす蒼矢の瞳は、いつもの光に透けるような薄茶が、上からベールが被さったように透明度を失い、わずかに白く濁っていた。
眼前の異変と彼の緊迫の表情に、烈も少しずつ事態をのみ込んでいくなか、蒼矢は大きな瞳を震わせながら、ベッドへ視線を落とした。
「…この眼では、『索敵』出来ない」
―― 続 ――
「蒼矢!!」
すると部屋へ足を踏み入れてすぐに、ベッドに仰向けになる裸体が、視界の真ん中間近に飛び込んできた。
寝具は床に落ち、外気に冷やされた部屋のなか、蒼矢はなにも身につけずに横たわっていた。
白皙の肌には前日の戦闘でつくった痣が点々と残るほか、首や胸などがつい先ほどまでなにかに強く圧迫されていたのか、うっすらと赤く染まっていた。
額や首筋には汗がにじみ、顔周りやうなじに流れる髪が濡れていた。
烈のたてた騒音にぴくりとも動かず、目を閉じたままの彼を見、呼吸を止めそうになる烈の脳内に、つい昨日まの当たりにした葉月の姿がフラッシュバックする。
顔貌を固まらせたまま、烈はベッドへ駆け寄る。
「蒼矢っ…蒼矢っ!!」
声を潜めながらも耳のすぐ近くで呼びかけ、肩や上腕を揺り動かす。
すると、眉毛がぴくりと動いて薄くまぶたが開き、天井へとうつろいだあと、烈の方へ視線を合わせた。
「…れ……つ…」
「…っ蒼矢…っ!!」
ほどなく意識が戻った蒼矢は、か細い声で烈の名を呼んだ。
烈は反応が返ってきたことに一旦安堵するも、触れていた彼の身体が冷えきっていることに遅ればせながら気がつき、慌てて風の入る窓へとんでいく。
窓を閉めると、上半身を起こしながらもいまだぼんやりと視線を漂わせている蒼矢を、優しく抱き寄せた。
「…っごめん…、遅くなっちまって…、ごめんな…っ…!」
裸の彼の身になにが起きたのか、おおよその察しがついてしまった烈は、ことが起きる前に間に合わなかった自分を悔やみ、震える声で懺悔した。
しばらく抱擁したあと、烈は落ちていた毛布で蒼矢の身体を包んでやる。
「…蒼矢…、ここでなにがあったんだ…? 『起動装置』が外に落ちてたぞ?」
「…」
「[侵略者]がここに現れたんだろ? 気配わからなかったのか…?」
無事を確認でき、少しずつ落ち着きを取り戻していく烈は、おおよその予測をたてながら、蒼矢へゆっくり問いかけていく。
蒼矢は、呆けた面持ちのまま烈を見やっていたが、問いかけを聞くたび次第に焦点が戻り、面差しが強張っていく。
被せられていた毛布をはね退け、遠慮がちに見守っていた烈の腕を強く掴む。
そして、ふいなことに面食らう彼を正面から見据えた。
「!? そう、や…?」
「……封じられた」
言葉の意図が読めず、眉を寄せつつ困惑の表情を浮かべる烈へ、蒼矢は顔をみるみる蒼白に変えながら、声を荒げた。
「[異界のもの]のなにも、感じ取れなくなった…っ」
「…? …ぇ…」
「昨日の[侵略者]に、『視界』を奪われたんだ…!」
至近距離で視線を合わす蒼矢の瞳は、いつもの光に透けるような薄茶が、上からベールが被さったように透明度を失い、わずかに白く濁っていた。
眼前の異変と彼の緊迫の表情に、烈も少しずつ事態をのみ込んでいくなか、蒼矢は大きな瞳を震わせながら、ベッドへ視線を落とした。
「…この眼では、『索敵』出来ない」
―― 続 ――
0
お気に入りに追加
5
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
借金背負ったので死ぬ気でダンジョン行ったら人生変わった件 やけくそで潜った最凶の迷宮で瀕死の国民的美少女を救ってみた
羽黒 楓
ファンタジー
旧題:借金背負ったので兄妹で死のうと生還不可能の最難関ダンジョンに二人で潜ったら瀕死の人気美少女配信者を助けちゃったので連れて帰るしかない件
借金一億二千万円! もう駄目だ! 二人で心中しようと配信しながらSSS級ダンジョンに潜った俺たち兄妹。そしたらその下層階で国民的人気配信者の女の子が遭難していた! 助けてあげたらどんどんとスパチャが入ってくるじゃん! ってかもはや社会現象じゃん! 俺のスキルは【マネーインジェクション】! 預金残高を消費してパワーにし、それを自分や他人に注射してパワーアップさせる能力。ほらお前ら、この子を助けたければどんどんスパチャしまくれ! その金でパワーを女の子たちに注入注入! これだけ金あれば借金返せそう、もうこうなりゃ絶対に生還するぞ! 最難関ダンジョンだけど、絶対に生きて脱出するぞ! どんな手を使ってでも!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる