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本編
第11話_不確かな同盟-2
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おのれの確実性をアピールしつつ、[犲牙]は逆に問う。
「きみの方こそ、行き詰まってしまったんじゃないのかな? きみは俺以上に、『水使い』との相性が悪い…標的だということが露呈した以上、警戒されて余計やりづらくなったように感じるなぁ」
「…」
「俺に対するきみの評価は下がってるかもしれないけど、それは俺も同様だ。目的を果たすつもりなら、俺との共同戦線は破棄しない方が得策だと思うよ。自分から話を持ちかけた手前、俺も多少は義理堅くありたいと思っているけどね…」
「…もとより、"渡り"の時機を重ねるというだけであって、汝と結託した覚えはない」
「つれないなぁ。失敗した者同士、互いの手落ちは補っていこうよって提案してあげてるのに」
会話の主導権を握り、上から目線で話を進める[犲牙]を、[浬]は鼻を鳴らしながら睨んだ。
「…『奴ら』に対し、我の側に後れを取るものはなにもない。"成果"は得ている」
「…え?」
『セイバー』との戦闘で、[浬]側はなにも得られていないと目算していた[犲牙]は、低くもれた彼の言葉に、呆けた面様を晒す。
そして、多くは語らない[浬]へ問いかける。
「…"凍結"できたってこと?」
「そうだ。『水使い』の『索敵』は封じた。…警戒されたとて、もはや奴の手足はもがれたも同義…隙はいくらでも出来よう」
みずからの内では最低限のことと評価してか、さほど興味も無げに口にする[浬]だったが、[犲牙]の顔つきは、目に見えて変化していく。
「……そうか、封じてはいたんだ。そうか…そうか!」
[犲牙]を目の前にしていながら、視線を逸らしていてそれに気付かなかった[浬]は、対面でにわかに大きくなっていく声量を聞き、眉を寄せながら再び睨んだ。
「…先ほどの口ぶりでは、汝は"次"も時機を我と合わせるつもりではいるのだな?」
「! え? ああ、時機ね。もちろんだよ。目的が違う者同士、戦線を二分する価値は変わらずあるからね」
なにやらうわの空になっていた[犲牙]は、問いかけへ軽い調子で同意を返すと、ささっと立ちあがって腰かけていた物体を消す。
「それでは、"次"もよろしく頼むよ。俺にはやはり、きみの力が必要だ。きみにとっての俺も、等しくそうあろうと思っている。…俺たちそれぞれの利益に向けて、お互い上手くやっていこう」
そしてにやりと口角をあげながらそう言い残し、[浬]の寝所から姿を溶かした。
異質なる気配が少しずつ薄れ、もとの静寂が取り戻されていく深海色の領域で、[浬]は憮然とした顔貌を浮かべつつ、口元でごちた。
「…どうにもあてにならぬ奴よ。…もとより、[我ら]の間に"信用"などという不確定極まりない概念は成立し得ないがな」
「きみの方こそ、行き詰まってしまったんじゃないのかな? きみは俺以上に、『水使い』との相性が悪い…標的だということが露呈した以上、警戒されて余計やりづらくなったように感じるなぁ」
「…」
「俺に対するきみの評価は下がってるかもしれないけど、それは俺も同様だ。目的を果たすつもりなら、俺との共同戦線は破棄しない方が得策だと思うよ。自分から話を持ちかけた手前、俺も多少は義理堅くありたいと思っているけどね…」
「…もとより、"渡り"の時機を重ねるというだけであって、汝と結託した覚えはない」
「つれないなぁ。失敗した者同士、互いの手落ちは補っていこうよって提案してあげてるのに」
会話の主導権を握り、上から目線で話を進める[犲牙]を、[浬]は鼻を鳴らしながら睨んだ。
「…『奴ら』に対し、我の側に後れを取るものはなにもない。"成果"は得ている」
「…え?」
『セイバー』との戦闘で、[浬]側はなにも得られていないと目算していた[犲牙]は、低くもれた彼の言葉に、呆けた面様を晒す。
そして、多くは語らない[浬]へ問いかける。
「…"凍結"できたってこと?」
「そうだ。『水使い』の『索敵』は封じた。…警戒されたとて、もはや奴の手足はもがれたも同義…隙はいくらでも出来よう」
みずからの内では最低限のことと評価してか、さほど興味も無げに口にする[浬]だったが、[犲牙]の顔つきは、目に見えて変化していく。
「……そうか、封じてはいたんだ。そうか…そうか!」
[犲牙]を目の前にしていながら、視線を逸らしていてそれに気付かなかった[浬]は、対面でにわかに大きくなっていく声量を聞き、眉を寄せながら再び睨んだ。
「…先ほどの口ぶりでは、汝は"次"も時機を我と合わせるつもりではいるのだな?」
「! え? ああ、時機ね。もちろんだよ。目的が違う者同士、戦線を二分する価値は変わらずあるからね」
なにやらうわの空になっていた[犲牙]は、問いかけへ軽い調子で同意を返すと、ささっと立ちあがって腰かけていた物体を消す。
「それでは、"次"もよろしく頼むよ。俺にはやはり、きみの力が必要だ。きみにとっての俺も、等しくそうあろうと思っている。…俺たちそれぞれの利益に向けて、お互い上手くやっていこう」
そしてにやりと口角をあげながらそう言い残し、[浬]の寝所から姿を溶かした。
異質なる気配が少しずつ薄れ、もとの静寂が取り戻されていく深海色の領域で、[浬]は憮然とした顔貌を浮かべつつ、口元でごちた。
「…どうにもあてにならぬ奴よ。…もとより、[我ら]の間に"信用"などという不確定極まりない概念は成立し得ないがな」
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