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本編
第11話_不確かな同盟-1
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次元の理から外れた空間に存在する、[異界]。
薄闇のなか、"景色"という概念を表すには単純にして非自然的過ぎる巨大な直方体だけが、人知の域を越えた作用をもって浮かんでいる。
その、一種異様な[異界のもの]たちの住処は、混沌とした重苦しい空気に満たされながらも、内部にただよう"気配"が秩序的に間仕切られ、静寂に包まれている。
しかし、常に均衡が保たれているその一角が、ふと空気の流れを生じ、不干渉を是とする[彼ら]の境界が乱れた。
空気を乱されたその住処は、鏡面のごとく磨きあげられていたはずの床に亀裂を走らせ、外圧がかかって隆起した塊が、鋭い破片をむき出しにしていた。
いつぞやと同じように侵入した別の領域の[主]は、それらを軽い足取りでひょいひょいと避けつつ内部へ進み、最奥の寝所手前で立ちどまった。
「やぁやぁ、ひどい荒れようだね」
そう、やや仰々しい抑揚で台詞を吐くと、外域から侵犯した侵略者[犲牙]は、ゆるりと玉座を見据える。
「さぞや虫の居所が悪いだろうきみに、どう"開門"を請おうかと思ってたけど、やすやすと入れてしまった。これじゃ、末端の[侵略者]から名もない[異形]に至るまで、きみに会いたい放題だよ」
玉座に座っていた侵略者[浬]は、投げられた言葉に反応を返すことはなく、彫刻のように固まったまま真顔で侵入者へ視線を注いでいた。
「……まぁ、その視界に入る前に塵にされてしまうだろうけどね」
[犲牙]は、その無言の佇まいに気圧されるようにおどけながらそう流すと、やはりいつぞやと同じく着座する物体を呼び出し、玉座に対面して座った。
一抹の沈黙のあと、[犲牙]から口火を切る。
「…どうやら、失敗したようだね」
「…」
「きみともあろう存在が、『守護者』相手に苦戦を強いられ、あろうことか目的未達で終わるとは。きみとしても、想定外だっただろう。この領域の様相が、きみの今の内情をありありと物語っている」
「…」
「俺も意外だったよ…きみほどの実力者であれば、手数を欠いた奴らに遅れをとる、…なんてことにはまさか、よもや」
「くどい。汝の口振りには妙に殺意が湧く」
「ああ、それは失敬。あくまできみへの敬意が前提にあっての感想なんだ。戯言と流してくれて構わないよ」
つらつらと思いの丈を述べていると、[浬]から射殺すような視線を浴びせられ、[犲牙]はやんわりと言いやめた。
まるで"楽"以外の感情が欠落したかのように飄々としている[犲牙]へ、[浬]は厳しい視線を注ぐ。
「…汝も仕損じたのであろう。そのように多弁にものを語れる立場か」
「あはぁ~…ばれてたか。まぁ、筒抜けだよね」
[浬]から当然の指摘を受け、[犲牙]はきまりが悪そうに困り顔をつくってみせる。
「"利確"とふんで、調子に乗ってしまったよ。折角きみに他所から介入してもらったのに…完全に油断した」
「巫山戯けた奴よ。汝の力量を過信し、浅慮な策謀にのった我が愚かであった」
「いやいや、見限るのはまだ早いよ? 今回仕損じたにしても"利確"はしてるから、次は必ず捕獲できる。雛が孵る前に『候補』を潰せることは揺るぎないよ」
薄闇のなか、"景色"という概念を表すには単純にして非自然的過ぎる巨大な直方体だけが、人知の域を越えた作用をもって浮かんでいる。
その、一種異様な[異界のもの]たちの住処は、混沌とした重苦しい空気に満たされながらも、内部にただよう"気配"が秩序的に間仕切られ、静寂に包まれている。
しかし、常に均衡が保たれているその一角が、ふと空気の流れを生じ、不干渉を是とする[彼ら]の境界が乱れた。
空気を乱されたその住処は、鏡面のごとく磨きあげられていたはずの床に亀裂を走らせ、外圧がかかって隆起した塊が、鋭い破片をむき出しにしていた。
いつぞやと同じように侵入した別の領域の[主]は、それらを軽い足取りでひょいひょいと避けつつ内部へ進み、最奥の寝所手前で立ちどまった。
「やぁやぁ、ひどい荒れようだね」
そう、やや仰々しい抑揚で台詞を吐くと、外域から侵犯した侵略者[犲牙]は、ゆるりと玉座を見据える。
「さぞや虫の居所が悪いだろうきみに、どう"開門"を請おうかと思ってたけど、やすやすと入れてしまった。これじゃ、末端の[侵略者]から名もない[異形]に至るまで、きみに会いたい放題だよ」
玉座に座っていた侵略者[浬]は、投げられた言葉に反応を返すことはなく、彫刻のように固まったまま真顔で侵入者へ視線を注いでいた。
「……まぁ、その視界に入る前に塵にされてしまうだろうけどね」
[犲牙]は、その無言の佇まいに気圧されるようにおどけながらそう流すと、やはりいつぞやと同じく着座する物体を呼び出し、玉座に対面して座った。
一抹の沈黙のあと、[犲牙]から口火を切る。
「…どうやら、失敗したようだね」
「…」
「きみともあろう存在が、『守護者』相手に苦戦を強いられ、あろうことか目的未達で終わるとは。きみとしても、想定外だっただろう。この領域の様相が、きみの今の内情をありありと物語っている」
「…」
「俺も意外だったよ…きみほどの実力者であれば、手数を欠いた奴らに遅れをとる、…なんてことにはまさか、よもや」
「くどい。汝の口振りには妙に殺意が湧く」
「ああ、それは失敬。あくまできみへの敬意が前提にあっての感想なんだ。戯言と流してくれて構わないよ」
つらつらと思いの丈を述べていると、[浬]から射殺すような視線を浴びせられ、[犲牙]はやんわりと言いやめた。
まるで"楽"以外の感情が欠落したかのように飄々としている[犲牙]へ、[浬]は厳しい視線を注ぐ。
「…汝も仕損じたのであろう。そのように多弁にものを語れる立場か」
「あはぁ~…ばれてたか。まぁ、筒抜けだよね」
[浬]から当然の指摘を受け、[犲牙]はきまりが悪そうに困り顔をつくってみせる。
「"利確"とふんで、調子に乗ってしまったよ。折角きみに他所から介入してもらったのに…完全に油断した」
「巫山戯けた奴よ。汝の力量を過信し、浅慮な策謀にのった我が愚かであった」
「いやいや、見限るのはまだ早いよ? 今回仕損じたにしても"利確"はしてるから、次は必ず捕獲できる。雛が孵る前に『候補』を潰せることは揺るぎないよ」
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