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本編
第9話_惨劇のあと-7
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「…」
影斗に諭された烈は眉を寄せ、それきり沈黙した。
彼の助言がなにを意図しているのか、おおむね察することはできたものの、内でまだ思考がくすぶっているようだった。
黙りこむ烈を見、影斗は呆れた風に息をついてから、丸まるその背を叩く。
「…話聞いてる限り、お前は一日よくやったと思うぜ。誰も責めやしねぇんだから、素直に自分を褒めてやれよ」
「…」
「まぁ、俺から労われたところで響くまい。…落ち込んで枕涙で濡らすくらいなら、慰めてもらいに行けば?」
影斗のひと言に、烈は顔をあげる。
「あっちも今頃、お前に会いたがってるだろうし。ここ来るにも、"ついてく"って散々せっつかれたからな。余力残ってるなら帰りに寄ってってやれ」
影斗が誰のことを言っているのか容易に当たりがつき、烈は一瞬頬を染めたものの、再び難しい顔になる。
「なんだその顔、せっかく喜ばせようとしてやったのに。嬉しくねぇのか?」
「…や、嬉しいけど…」
言葉じりを濁す烈の面持ちをうかがう影斗は、ふと目を細めた。
「…お前もしかして、蒼矢に"引け目"感じてんのか?」
少し落ちたトーンの問いかけに、烈の表情が止まる。
「…なるほどな。最近謎に悩ましげになってんのはそれか」
反応を見て全てを察した影斗は、視線に鋭さを込めたまま続けた。
「今までも、なにかにつけ褒めちぎってる風はあったけど…なんだ、つき合い始めて余計自分と比べるようになっちまったか?」
「う…」
「図星か。お前はまた、足りねぇ頭で余計なことを考えてからに…」
恥ずかしそうに顔を赤くし眉を寄せる烈を見、影斗は今度は盛大にため息をついてみせた。
「あのさぁ、そうやって特別視されるのを一番嫌ってるのは蒼矢なんじゃねぇの?」
「…!」
「お前が色眼鏡使わねぇ純粋な気持ちから言ってて、あいつもそれが解ってるから、お前の褒め言葉は素直に受け止める気になれるんだろ。自分を等身大に見てくれる奴だから、あいつはお前に惚れたんだと思うんだけど?」
「!? 惚…っ!?」
「なんだよ、事実だろ」
うろたえる烈を、影斗は少し不機嫌そうにじろりと見やった。
「お前なら、もっとあいつを理解してやってると思ったけど。ガキんちょの頃から散々見てるだろうに、気付いてやれねぇほど鈍感なの?」
「わかってる! 蒼矢の性格は…よく理解してる、はず」
「じゃあ、別に今のままでいいんじゃね?」
詰められても自信なさげな烈へ、影斗は吐き捨てるように続ける。
「なにも変わらなくていい。意識して変える必要はねぇんだよ」
「…!」
「あいつが惚れたのは、お前が羨む俺でも、そんな風に悶々としてるお前でもねぇだろ。自分けなすのも今より高み目指すのもいいけど、ひとり相撲してるうちに肝心なこと忘れて、大事なもの置いてけぼりにしちまうぞ」
「……ん」
あまり直接的には言わない影斗の言葉に、わかってか否か、烈は小さく頷き返すにとどまった。
「…お前はとっくに蒼矢の横に並んでるよ。じゃなけりゃ選ばれてねぇからな」
いまだ実感していないような複雑な面持ちを浮かべる烈を見、影斗は軽く鼻を鳴らしながらそう言い捨てると、再びその背を強めに叩いてやった。
「今日の仕事納めだ。慰め合ってこい」
「っ!!」
「その反応そろそろやめろ、腹立つ」
影斗に諭された烈は眉を寄せ、それきり沈黙した。
彼の助言がなにを意図しているのか、おおむね察することはできたものの、内でまだ思考がくすぶっているようだった。
黙りこむ烈を見、影斗は呆れた風に息をついてから、丸まるその背を叩く。
「…話聞いてる限り、お前は一日よくやったと思うぜ。誰も責めやしねぇんだから、素直に自分を褒めてやれよ」
「…」
「まぁ、俺から労われたところで響くまい。…落ち込んで枕涙で濡らすくらいなら、慰めてもらいに行けば?」
影斗のひと言に、烈は顔をあげる。
「あっちも今頃、お前に会いたがってるだろうし。ここ来るにも、"ついてく"って散々せっつかれたからな。余力残ってるなら帰りに寄ってってやれ」
影斗が誰のことを言っているのか容易に当たりがつき、烈は一瞬頬を染めたものの、再び難しい顔になる。
「なんだその顔、せっかく喜ばせようとしてやったのに。嬉しくねぇのか?」
「…や、嬉しいけど…」
言葉じりを濁す烈の面持ちをうかがう影斗は、ふと目を細めた。
「…お前もしかして、蒼矢に"引け目"感じてんのか?」
少し落ちたトーンの問いかけに、烈の表情が止まる。
「…なるほどな。最近謎に悩ましげになってんのはそれか」
反応を見て全てを察した影斗は、視線に鋭さを込めたまま続けた。
「今までも、なにかにつけ褒めちぎってる風はあったけど…なんだ、つき合い始めて余計自分と比べるようになっちまったか?」
「う…」
「図星か。お前はまた、足りねぇ頭で余計なことを考えてからに…」
恥ずかしそうに顔を赤くし眉を寄せる烈を見、影斗は今度は盛大にため息をついてみせた。
「あのさぁ、そうやって特別視されるのを一番嫌ってるのは蒼矢なんじゃねぇの?」
「…!」
「お前が色眼鏡使わねぇ純粋な気持ちから言ってて、あいつもそれが解ってるから、お前の褒め言葉は素直に受け止める気になれるんだろ。自分を等身大に見てくれる奴だから、あいつはお前に惚れたんだと思うんだけど?」
「!? 惚…っ!?」
「なんだよ、事実だろ」
うろたえる烈を、影斗は少し不機嫌そうにじろりと見やった。
「お前なら、もっとあいつを理解してやってると思ったけど。ガキんちょの頃から散々見てるだろうに、気付いてやれねぇほど鈍感なの?」
「わかってる! 蒼矢の性格は…よく理解してる、はず」
「じゃあ、別に今のままでいいんじゃね?」
詰められても自信なさげな烈へ、影斗は吐き捨てるように続ける。
「なにも変わらなくていい。意識して変える必要はねぇんだよ」
「…!」
「あいつが惚れたのは、お前が羨む俺でも、そんな風に悶々としてるお前でもねぇだろ。自分けなすのも今より高み目指すのもいいけど、ひとり相撲してるうちに肝心なこと忘れて、大事なもの置いてけぼりにしちまうぞ」
「……ん」
あまり直接的には言わない影斗の言葉に、わかってか否か、烈は小さく頷き返すにとどまった。
「…お前はとっくに蒼矢の横に並んでるよ。じゃなけりゃ選ばれてねぇからな」
いまだ実感していないような複雑な面持ちを浮かべる烈を見、影斗は軽く鼻を鳴らしながらそう言い捨てると、再びその背を強めに叩いてやった。
「今日の仕事納めだ。慰め合ってこい」
「っ!!」
「その反応そろそろやめろ、腹立つ」
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