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本編
第7話_神域を侵す禍(わざわい)-11
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烈は母へ手早く断ってから、目的地へ向けて全速力で駆ける。
大柄な体躯から伸び出す長い脚がアスファルトを軽快に蹴り、瞬く間に地下道を越え、入り組む市街地を正確に縫っていく。
「!」
そしてあと少しで到着というところで、烈は前方に、見知ったシルエットの後ろ姿を捉えた。
自分と同じ方向へ歩を進めるその人物に気付くと、血相を変えた。
「栞奈ぁ!!」
住宅街のなかで大声で呼ばれ、前を歩いていた栞奈は動揺と困惑を表情に出しながらふり返った。
「…烈君…!?」
スーパーの袋を手に下げた栞奈は、後ろを向いた時には追いついていた烈に目を見張り、肩を上下させる彼を驚きながら見あげた。
「どうしたの? そんなに息切らせて…」
「…お、お前、なんでここに…っ?」
「ああ…今日の誕生パーティ、私も参加する予定だったの。苡月が逃げちゃうかもしれないから、葉月とふたりで秘密にしてたんだ。烈君、お仕事終わったの? お疲れ様」
呼吸を乱しながら問いかける烈へ、栞奈は簡単にいきさつを話しながら笑顔で彼を労う。
「これから楠瀬家に来る予定? パーティ始まるまで、まだ少し時間あるけど…」
「…ならお前、うちの母ちゃんに挨拶してきてくれねぇか…?」
「え?」
「…や、前々から母ちゃんにお前のこと話してて…、たまに神社に帰ってくるんだって言ったら、"話してみたいから連れて来てくれ"って頼まれてさ…」
烈は酸素の欠乏する脳内をフル回転させ、鬼気迫る内情を押しとどめ表情をつとめて明るく保ちながら、栞奈へ依頼する。
「…まだ準備の手伝い、残ってるんだけど…」
急な頼みごとに、栞奈は戸惑った面持ちを浮かべて手に下げた袋を眺めていたが、すぐに苦笑しながら息をつく。
「そうね。珠代おばさんとはだいぶ前に会ったきりだし、私もご挨拶したいかも。…わかったわ」
栞奈は一時逡巡したのちにそう快諾し、持っていた袋を烈へ手渡す。
「お兄ちゃんに渡してね。お手伝いよろしく」
「! …おう」
栞奈は烈へにこりと笑いかけると、豊かなポニーテールを揺らしながらきびすを返し、てくてくと歩き去っていった。
「……!!」
栞奈が花房酒店へ向かっていくのを見届けた烈は、スマホを取り出して素早く母・珠代へ言付ける。
彼女が今日実家から楠神社へ帰ってくることはもちろん知らず、この期に及んで重なった予想外のアクシデントに、烈は身体中から冷や汗を噴き出した。
とはいえ、今なにが起きているかわからない神社へ栞奈が行きつく前に確保し退避させることができ、結果的に接触できたことに心から安堵した。
ことが済むまで、栞奈を神社へ近付けさせるわけにはいかない。
「…っ!」
気を鎮めたところでふいに、Tシャツの中のペンダント『起動装置』の鉱石が、黄色い光を放ちだす。
援護要請を出した陽が、おそらく単独で『転異空間』へ入ったことを悟る。
胸元の異変を受けて再び走り出そうとしたところで、鉱石はついで青く輝き始めた。
冷酷ともいうべきその挙動に烈は面差しを凍らせるが、既に固まった決意が揺らぐことはなかった。
烈は流れる汗を拭い、緩く明滅するペンダントを握りしめたまま駆けだした。
大柄な体躯から伸び出す長い脚がアスファルトを軽快に蹴り、瞬く間に地下道を越え、入り組む市街地を正確に縫っていく。
「!」
そしてあと少しで到着というところで、烈は前方に、見知ったシルエットの後ろ姿を捉えた。
自分と同じ方向へ歩を進めるその人物に気付くと、血相を変えた。
「栞奈ぁ!!」
住宅街のなかで大声で呼ばれ、前を歩いていた栞奈は動揺と困惑を表情に出しながらふり返った。
「…烈君…!?」
スーパーの袋を手に下げた栞奈は、後ろを向いた時には追いついていた烈に目を見張り、肩を上下させる彼を驚きながら見あげた。
「どうしたの? そんなに息切らせて…」
「…お、お前、なんでここに…っ?」
「ああ…今日の誕生パーティ、私も参加する予定だったの。苡月が逃げちゃうかもしれないから、葉月とふたりで秘密にしてたんだ。烈君、お仕事終わったの? お疲れ様」
呼吸を乱しながら問いかける烈へ、栞奈は簡単にいきさつを話しながら笑顔で彼を労う。
「これから楠瀬家に来る予定? パーティ始まるまで、まだ少し時間あるけど…」
「…ならお前、うちの母ちゃんに挨拶してきてくれねぇか…?」
「え?」
「…や、前々から母ちゃんにお前のこと話してて…、たまに神社に帰ってくるんだって言ったら、"話してみたいから連れて来てくれ"って頼まれてさ…」
烈は酸素の欠乏する脳内をフル回転させ、鬼気迫る内情を押しとどめ表情をつとめて明るく保ちながら、栞奈へ依頼する。
「…まだ準備の手伝い、残ってるんだけど…」
急な頼みごとに、栞奈は戸惑った面持ちを浮かべて手に下げた袋を眺めていたが、すぐに苦笑しながら息をつく。
「そうね。珠代おばさんとはだいぶ前に会ったきりだし、私もご挨拶したいかも。…わかったわ」
栞奈は一時逡巡したのちにそう快諾し、持っていた袋を烈へ手渡す。
「お兄ちゃんに渡してね。お手伝いよろしく」
「! …おう」
栞奈は烈へにこりと笑いかけると、豊かなポニーテールを揺らしながらきびすを返し、てくてくと歩き去っていった。
「……!!」
栞奈が花房酒店へ向かっていくのを見届けた烈は、スマホを取り出して素早く母・珠代へ言付ける。
彼女が今日実家から楠神社へ帰ってくることはもちろん知らず、この期に及んで重なった予想外のアクシデントに、烈は身体中から冷や汗を噴き出した。
とはいえ、今なにが起きているかわからない神社へ栞奈が行きつく前に確保し退避させることができ、結果的に接触できたことに心から安堵した。
ことが済むまで、栞奈を神社へ近付けさせるわけにはいかない。
「…っ!」
気を鎮めたところでふいに、Tシャツの中のペンダント『起動装置』の鉱石が、黄色い光を放ちだす。
援護要請を出した陽が、おそらく単独で『転異空間』へ入ったことを悟る。
胸元の異変を受けて再び走り出そうとしたところで、鉱石はついで青く輝き始めた。
冷酷ともいうべきその挙動に烈は面差しを凍らせるが、既に固まった決意が揺らぐことはなかった。
烈は流れる汗を拭い、緩く明滅するペンダントを握りしめたまま駆けだした。
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