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本編

第7話_神域を侵す禍(わざわい)-10

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迫真の呼びかけに応じてもらえず、蒼矢ソウヤに通話を強制終了されたレツは、無音になったスマホを耳に当てたまま、トラックのガレージに立ち尽くした。
やがてスマホを持つ腕をだらりと下ろし、一点を見やったまま放心する。

「…なに…やってんだ、俺…」

直前に蒼矢と交わしたやり取りを思い起こし、真顔だった烈の面持ちが見る間に歪んでいく。

「…あれだけ思いっきり口走っといて、いざとなったらなんも出来ねぇじゃんか…っ!」

ついで目を硬く閉じ前傾すると、両手で頭を抱え、日焼けた猫毛を深く掴み込んだ。


――蒼矢こいつがいつどこにいようとも、すぐに駆けつけてみせます。どんな時も、必ず傍にいます――


ついこの間、蒼矢の隣で葉月ハヅキへ誓った言葉が、頭の中に木霊する。

「…っこの、大嘘つき野郎がぁ…っ!!」

おのずから宣言した通りに動けなかった自分へ、烈は震えながら暴言を吐きかけた。
誓ったはずの言葉をたった数日で反故にしてしまう信念の薄っぺらさに、激しく自分を嫌悪した。

「どこまでポンコツなんだよ、俺は…っ…!!」

悔しさと情けなさが感情を埋めていき、脚で地面を踏み鳴らしながらうち震えた。
大きく振れる自分の顔から地面へ滴るものが汗なのか涙なのか、わからなかった。

「……くそっ…、くそぉっ!!」

烈は髪をふり乱しながら、ひたすら自分を罵倒し続けた。

しかし、そんな深い悔恨に囚われる烈の頭の片隅から、ふと聴き慣れた声が聞こえてくる。


――神社のみんなを救えるのは、お前しかいないんだ――


「…っ…!」

記憶に新しい蒼矢の言葉が、制御を失いかけていた烈の感情を冷やしていく。
水面を波紋するような静謐な声が、烈の堅く閉じられた瞼を開かせ、愛しい面差しを瞳に映しだす。

瞳の中に浮かぶ蒼矢は、静かな面差しで、烈をまっすぐに見つめていた。


――みんなを頼む――


常に自分よりも他者、個よりも全を優先してきた、ひたすら役目に忠実な彼の心情が、烈の胸に響く。

「……」

今すべきことは何なのか。
みずからも幾度と蒼矢へ言い重ねてきた、『守護者』としての根本を思い出す。
そして、逃避したくなるような現実と向き合う覚悟を決める。

「…わかったよ、絶対間に合わせる。絶対に、"全員無事"で終えてみせる」

烈は屈ませていた上体を起こし、見据えた視線をくすのき神社の方角へと動かしていく。
目的地を見定めると、ぼさぼさになった髪からヘアゴムを外し、ひっつめて強く結び直した。

…だからお前も、絶対無事でいてくれよ…!!
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