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本編
第7話_神域を侵す禍(わざわい)-7
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蒼矢はとにかくひと気を避けようと、駅から遠ざかっていく。
あてもなく歩く間も、身体の震えがおさまる様子はない。
一時思考を巡らせた後に意を決し、着信履歴を探る。
『――おぅ、蒼矢』
かけた相手は烈だった。
受話口の向こうでガラス瓶が干渉しあう物音や彼の母・珠代の声が遠くに聞こえ、配達から急きょ戻り、今まさに楠神社へ向かう準備をしている様子がうかがえた。
「悪い、こんな時に電話して」
『ああ、平気。お前はもう家にいねぇよな?』
「…うん、ふた駅先にいる」
『そっか。とりあえず先転送してるから、慌てず急いで来いよ』
「……烈」
当然そう声をかけてくる烈へ、蒼矢はぼそりと続けた。
「俺は行けそうにない。…"遭遇"した」
『……は…!?』
しばしの沈黙を置き、烈が我が耳を疑ったような声を返す。
『…いや待てよ、それってどういう…、…マジなのか…!?』
「この状況で嘘だとしたら、不謹慎すぎるだろ」
『そ、そうだけど…、! じゃあ、陽の方が…!?』
「いや、陽の方もおそらく確かな情報だ…チャットに続きがない。訂正があるとしたら、あとから追加報告されててもいい頃合いだろ」
『…なんだよそれっ…、2箇所同時湧きしたってことなのか…!?』
みずから行きついた推論を受けとめられないのか声を荒げる烈へ、蒼矢は返答を返さないまま低く続けた。
「このまま俺が陽側に戻ったとしたら、今いるところに出来るだろう[狩場]を放置することになる。うまく呼び寄せることができたとしても、距離が離れすぎてて、そっちが接触して『転送』するまでには到底間に合わない」
『2箇所で分かれてやるしかねぇってのかよ…!? そんなの、前代未聞だぞ!?』
「起きてしまったものは仕方ない」
『っ…! わ、わかった…じゃあ、俺もそっちに』
「お前はそのまま陽の方に向かうんだ」
しだいに動揺に激しさを増す烈がそう口にすると、蒼矢はすかさず被せるように指示する。
『……そんなの無理に決まってんだろうが…!!』
受話器越しの烈の嘆き声を聞き、蒼矢は眉を歪めるが、すぐに面差しを戻す。
「無理なのはお前の感情だけだろ。今実家にいるお前が、わざわざこっちに来る必要がどこにある?」
『っ…だけどっ…、でもっ…!』
「落ち着け、烈。感情に任せて判断を誤るな。陽はきっと今頃、葉月さんや苡月を護りながらひとりで闘ってる。…俺たちを待つ陽に確実に追いつけるのは、お前しかいない…神社のみんなを救えるのは、お前しかいないんだ」
『蒼矢はどうなるんだよ!! お前だって…お前こそ、ひとりでやるってのか!?』
「…こっちは影斗先輩に来てもらえるよう頼んでみる。きっと先輩も移動中だろうけど、間に合うようなら」
『…っ…!!』
声を荒げる受話口の向こうへ、蒼矢は淡々と続けた。
もはや言葉もなくなる烈は、諭されても気持ちが整理できず、地面へとうつむいたまま肩を震わせた。
『……聞かなきゃよかった。聞きたくなかった…っ…』
「そうだな、連絡して悪かった。今の話は忘れろ、その方が俺も気が楽だ」
『蒼矢!!』
「間に合わなくなる、切るぞ。…みんなを頼む」
飛んでくる怒号を遮るように、蒼矢は通話を切った。
あてもなく歩く間も、身体の震えがおさまる様子はない。
一時思考を巡らせた後に意を決し、着信履歴を探る。
『――おぅ、蒼矢』
かけた相手は烈だった。
受話口の向こうでガラス瓶が干渉しあう物音や彼の母・珠代の声が遠くに聞こえ、配達から急きょ戻り、今まさに楠神社へ向かう準備をしている様子がうかがえた。
「悪い、こんな時に電話して」
『ああ、平気。お前はもう家にいねぇよな?』
「…うん、ふた駅先にいる」
『そっか。とりあえず先転送してるから、慌てず急いで来いよ』
「……烈」
当然そう声をかけてくる烈へ、蒼矢はぼそりと続けた。
「俺は行けそうにない。…"遭遇"した」
『……は…!?』
しばしの沈黙を置き、烈が我が耳を疑ったような声を返す。
『…いや待てよ、それってどういう…、…マジなのか…!?』
「この状況で嘘だとしたら、不謹慎すぎるだろ」
『そ、そうだけど…、! じゃあ、陽の方が…!?』
「いや、陽の方もおそらく確かな情報だ…チャットに続きがない。訂正があるとしたら、あとから追加報告されててもいい頃合いだろ」
『…なんだよそれっ…、2箇所同時湧きしたってことなのか…!?』
みずから行きついた推論を受けとめられないのか声を荒げる烈へ、蒼矢は返答を返さないまま低く続けた。
「このまま俺が陽側に戻ったとしたら、今いるところに出来るだろう[狩場]を放置することになる。うまく呼び寄せることができたとしても、距離が離れすぎてて、そっちが接触して『転送』するまでには到底間に合わない」
『2箇所で分かれてやるしかねぇってのかよ…!? そんなの、前代未聞だぞ!?』
「起きてしまったものは仕方ない」
『っ…! わ、わかった…じゃあ、俺もそっちに』
「お前はそのまま陽の方に向かうんだ」
しだいに動揺に激しさを増す烈がそう口にすると、蒼矢はすかさず被せるように指示する。
『……そんなの無理に決まってんだろうが…!!』
受話器越しの烈の嘆き声を聞き、蒼矢は眉を歪めるが、すぐに面差しを戻す。
「無理なのはお前の感情だけだろ。今実家にいるお前が、わざわざこっちに来る必要がどこにある?」
『っ…だけどっ…、でもっ…!』
「落ち着け、烈。感情に任せて判断を誤るな。陽はきっと今頃、葉月さんや苡月を護りながらひとりで闘ってる。…俺たちを待つ陽に確実に追いつけるのは、お前しかいない…神社のみんなを救えるのは、お前しかいないんだ」
『蒼矢はどうなるんだよ!! お前だって…お前こそ、ひとりでやるってのか!?』
「…こっちは影斗先輩に来てもらえるよう頼んでみる。きっと先輩も移動中だろうけど、間に合うようなら」
『…っ…!!』
声を荒げる受話口の向こうへ、蒼矢は淡々と続けた。
もはや言葉もなくなる烈は、諭されても気持ちが整理できず、地面へとうつむいたまま肩を震わせた。
『……聞かなきゃよかった。聞きたくなかった…っ…』
「そうだな、連絡して悪かった。今の話は忘れろ、その方が俺も気が楽だ」
『蒼矢!!』
「間に合わなくなる、切るぞ。…みんなを頼む」
飛んでくる怒号を遮るように、蒼矢は通話を切った。
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