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本編

第7話_神域を侵す禍(わざわい)-5

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「……!!」

葉月ハヅキは、黒い影の気配が部屋から消え、窓の外に見える景色のなかで下方へ失せるまで、眼球だけでその姿を追っていた。

そして一寸後に弾かれたように動き出し、窓の桟へ跳び移ってへ身体を滑り込ませ、身投げするかのような体位で飛び出す。
数メートル下への落下を一切考慮しない挙動でありながら、綺麗に弧を描き、寸分狂わない足さばきで着地した。

神社の本殿を避けるように裏手の駐車場へ歩いていた[犲牙サイガ]は、後方の玉砂利が蹴散らされる音に、再びふり返る。

「…あらら、結局追いかけてきたんだ? 大人しそうな顔をして、なかなか無茶をする」

変わらず余裕の顔貌で見やってくる[犲牙]へ、追いついた葉月は殺気を帯びた視線で低く言い放つ。

「…弟を返してもらおう」
「…ふーん」

腰を落として身構える葉月を、[犲牙]は値踏みするようにねめ回す。

「充分脅威を与えたつもりだったんだけど、それなりの精神力は持ち合わせているみたいだね。さすがは『守護者』かな」
「…」

ほとんど余裕のない思考回路のなかで、葉月は対峙するこの[侵略者]が、自分が『セイバー』だった・・・と知っていることをかろうじて理解する。

『セイバーズ』に関して、[異界のもの彼ら]がどこまで把握しているものなのか、たとえ現役セイバーだとしてもこちら側に知る術はない。
にもかかわらず、なんの特別なことでもないようにこちらの素性を言い当ててくる[侵略者]を目前に、葉月は全神経を使って動揺をおさえ込んでいた。

セイバーを降り、ただの人間になった自分の素性などわかったところで、[侵略者]が得られるものも、こちらが失うものもない。
が、どれだけの情報を持っているかはかり知れない[敵]へ、これ以上・・・・のこと――苡月が次のエピドート候補者であることを気取られてはならない。

黙ったまま睨み続ける葉月へ、[犲牙]は息をつき、少し眉を寄せてみせた。

「俺としては、"この領域"に長く居たくはないんだけど…、諦めてくれそうにないね。仕方ない」

[犲牙]は空いている腕をあげ、長い五指を広げて関節を鳴らし、鉤爪に陽光を反射させる。

「遺恨を残すより、繋がりを断ち切ってやる方が[捕食者]たる者としての情けか。…運がよければ・・・・・・、一緒に連れていってあげよう。飼い犬は多い方が、"渡り"も少なく済むしね」

葉月の瞳の殺気が濃さを増し、筋肉の収縮した脚が砂利を蹴った。
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