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本編
第7話_神域を侵す禍(わざわい)-1
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前日から取り組んでいた誕生パーティーの飾りつけ準備に、根を詰め過ぎたせいで寝不足だった苡月は、眠気が限界に達し、本番まであと数時間というところだったが、兄・葉月の勧めで仮眠をとることにした。
今すぐにでもベッドへ倒れ込みたい睡眠欲をこらえつつ、一旦トイレで用を済ませてからゆっくりと階段をあがり、2階の自室へ向かう。
と、ドアを開け、部屋の電気をつけようとしたところでわずかな違和感に気付く。
「…あれ?」
薄暗い部屋の中で、カーテン越しの淡い陽差しのほかに感じる、かすかな光源。
苡月は照明をつけないまま部屋へ入り、自分の勉強机へ歩み寄る。
光源は机の上にあり、苡月は視線を釘付けにされたまま、吸い寄せられるように手に取った。
「…!」
それは前日の土曜日、楠神社の石段手前で拾いあげた、透明なドッグチャームだった。
太陽光を反射するでもなく、自発的に発光するそれは、苡月の手の中で蛍のようにほのかに光り、彼の瞳を照らす。
直後、後ろで空気が動く気配を感じ、苡月ははっとしてふり向く。
が、視界には半開きになったドアだけが見え、気配は忽然と消えていた。
薄暗い中に、苡月ひとりだけが立ち尽くす。
確かに感じた、足元をかすめるような気配。
些細ではあるがやり過ごせない違和感に気をとられ、ぼんやりと漂っていた視界が、突然暗闇に覆われる。
「…"扉"を持ち帰ってくれてありがとう、無垢な子犬」
闇のなかで、どこかで聞いたことのある声が響き、苡月の目が見開く。
しかし、闇に誘われるように、瞼が少しずつ落ちていく。
立つ力を失いその場に崩れる身体は、背後にいた黒い人影に受けとめられた。
苡月の目を手で覆っていた黒い人影は、ぐたりと身を預ける彼の耳元に口を寄せ、低く囁く。
「お前が"あれ"を拾うことは算段していたよ…人間の気を惹くような外見にしておいたからね。…お陰でここへも難なく侵入できたし、こうして欲しいものも手に入った」
妖しくあがった口角からは、鋭利に光る犬歯が覗く。
獣のように鋭く爪の伸びた指先が、苡月の滑らかな頬をたどり、薄く開く唇を撫ぜた。
「…まぁ、もう聞こえてないだろうけどね」
暗黒の世界に五感を閉ざされた苡月は、意識をも闇へ沈められていった。
今すぐにでもベッドへ倒れ込みたい睡眠欲をこらえつつ、一旦トイレで用を済ませてからゆっくりと階段をあがり、2階の自室へ向かう。
と、ドアを開け、部屋の電気をつけようとしたところでわずかな違和感に気付く。
「…あれ?」
薄暗い部屋の中で、カーテン越しの淡い陽差しのほかに感じる、かすかな光源。
苡月は照明をつけないまま部屋へ入り、自分の勉強机へ歩み寄る。
光源は机の上にあり、苡月は視線を釘付けにされたまま、吸い寄せられるように手に取った。
「…!」
それは前日の土曜日、楠神社の石段手前で拾いあげた、透明なドッグチャームだった。
太陽光を反射するでもなく、自発的に発光するそれは、苡月の手の中で蛍のようにほのかに光り、彼の瞳を照らす。
直後、後ろで空気が動く気配を感じ、苡月ははっとしてふり向く。
が、視界には半開きになったドアだけが見え、気配は忽然と消えていた。
薄暗い中に、苡月ひとりだけが立ち尽くす。
確かに感じた、足元をかすめるような気配。
些細ではあるがやり過ごせない違和感に気をとられ、ぼんやりと漂っていた視界が、突然暗闇に覆われる。
「…"扉"を持ち帰ってくれてありがとう、無垢な子犬」
闇のなかで、どこかで聞いたことのある声が響き、苡月の目が見開く。
しかし、闇に誘われるように、瞼が少しずつ落ちていく。
立つ力を失いその場に崩れる身体は、背後にいた黒い人影に受けとめられた。
苡月の目を手で覆っていた黒い人影は、ぐたりと身を預ける彼の耳元に口を寄せ、低く囁く。
「お前が"あれ"を拾うことは算段していたよ…人間の気を惹くような外見にしておいたからね。…お陰でここへも難なく侵入できたし、こうして欲しいものも手に入った」
妖しくあがった口角からは、鋭利に光る犬歯が覗く。
獣のように鋭く爪の伸びた指先が、苡月の滑らかな頬をたどり、薄く開く唇を撫ぜた。
「…まぁ、もう聞こえてないだろうけどね」
暗黒の世界に五感を閉ざされた苡月は、意識をも闇へ沈められていった。
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