ガイアセイバーズ９ -萌える若葉を摘む獣-

本編

第6話_それぞれがいるべき場所-7

少し眉をゆがめ、なにかをこらえるような面差しになる栞奈カンナを、葉月ハヅキはわずかに笑んだまま見つめ返した。

「…僕の口からは、簡単に"うんいいよ"、とは言わない」

一時の沈黙を経、葉月はそう静かに返す。

「苡月イツキは将来の目標があって、この家に帰ってきた。苡月の夢に僕はほとんど手助けできないけど、毎日頑張って勉強してる…だから僕も、毎日応援してる。…栞奈にも同じように、僕が応援できるような夢や目標を持って、帰ってきて欲しいんだ」

黙って聞く栞奈へ、葉月は静かに続ける。

「もちろんそうあって欲しいってだけで、なにも無くたっていい。でも、栞奈が毎日いたずらにこの家で過ごすようになることは望んでないんだ」
「…」
「移り住むだけの理由があって欲しい。…この家で過ごす時間を、有意義に使っていて欲しいから」

兄をじっと見つめていた栞奈は、再び手元へ視線を落とした。

「…お兄ちゃんは、私には厳しい気がする」
「そんなことないよ。苡月のことだって、毎日ビシバシしごいてるよ？　そりゃもう、あの子が毎日へとへとになるくらい」
「嘘つき」

寄る眉と膨らむ頬が横顔からでもわかり、葉月は少しふき出した。

「あはは。でも、厳しいって思ってもらってもいい。その分栞奈は、父さんや母さんに甘えればいいんだから」
「…私は、お父さんたちを頼れってことね」
「うん、今の栞奈はきっとそうした方がいい。自分が選んだ今の高校にしっかり通って、進路のことでも将来のことでも、隠さずなんでも父さんたちに相談しなさい」
「…わかった」
「もちろん、僕もいつでも力になるつもりだよ。…そのうえでなにか定まったものができて、東京こっちに来る必要が出てきたら、その時は喜んで歓迎するから」
「…うん」

栞奈はキッチン台から手を外し、傍らの葉月の身体に寄りかかった。
懐へ頬をすり寄せ、物言わぬまま寂しさを訴えてくる妹の肩を、葉月はやはり黙ったまま優しく包み込んだ。