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本編
第6話_それぞれがいるべき場所-5
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ひたすら委縮する弟を無言のまま真顔で眺め続ける姉、という図を前に、沈黙がいたたまれなくなった陽が口を割る。
「あ…あのさ、栞奈。まぁ許してやれよ、心広くさ。苡月だって悪気があったわけじゃねぇんだし…」
横からおそるおそるかけられた言葉に、やはり栞奈が黙ったまま目だけを向けると、視線を浴びた陽は気圧されて冷や汗を流す。
「あいやっ、怒るのは無理もねぇ。それはもう重々承知してる! っけどな、苡月には苡月なりの事情があってだな」
「…わかってるわよ、そんなこと」
視線に射殺されるような心地になった陽がうろたえてしどろもどろになり、彼の動揺が感染ったか苡月も更に身体を震えあがらせるなか、栞奈は軽くため息をつきながらそう返した。
「一日中部屋に引きこもりっぱなし、学校に行けば保健室から出られない。母方の実家に行ってからずーっとそんなんでなにもできなかった奴が、急にお父さんたち説得しだして転校手続きさせて、ひとりで新幹線乗ってお兄ちゃん家に転がりこんでいったんだから、それだけの理由があったんでしょ。…それくらい想像出来るわよ」
「…!」
彼女からの思わぬ言葉に、苡月は顔をあげ、目を見張った。
「お兄ちゃんからも色々教えてもらってたしね、普段のあんたのこと。いつもどう過ごしてるのか、学校はちゃんと通えてるのか、家でお兄ちゃんの手を煩わせてないか、とか」
ついで、この場を見守っていた葉月へとふり向く。
戸惑う面持ちを浮かべる苡月へ、葉月は黙ったまま笑顔を送っていた。
「…実家にいた時からは想像もつかない変わりようで、お兄ちゃんから聞かされても正直半信半疑だったわよ。なんだかひとが変わっちゃったみたいでさ…やれば出来るんじゃない」
「…! かん、…お姉ちゃん…」
「…そっか、月兄から実家に話いってたんだな、苡月の様子」
話を聞くうちに陽も緊張がとけ、彼から小声で問いかけられた葉月は穏やかに笑いつつ、うんうんと頷いてみせた。
「髪だって伸び放題で、私やお母さんがさんざん切ろうとしても絶対触らせなかったのに、お兄ちゃん相手なら素直に切らせるのね。…逆に、今までのあの意固地っぷりと引きこもりっぷりはなんだったのかと思うわ。まるでこっちに非があったみたい」
「! そんなわけない、それは、僕がっ…」
「当然でしょ、お父さんたちが悪い訳ないじゃない。こっちはこっちで、みんなあんたのこと考えて、どうにかしようとしてたんだから」
姉の言い草に反論しかけた苡月へ、すかさず栞奈はぴしゃりと言い重ねた。
そして再び頬杖をつき、声を詰まらせる弟を緩い視線で見やった。
「…もちろん、あんたが悪いってことでもないのよ。癪だけど、それだけ今のお兄ちゃんとの暮らしの方が、あんたに合ってるってことなんでしょ」
「…っ…!」
「いいわよ、それで。…ちゃんと学校行けて自分で進路も決められて、お父さんやお母さんの心配事が減った方がいいに決まってるんだから」
普段叱責されてばかりだった姉からそう静かな口調で認められ、苡月の涙腺がみるみる緩んでいく。
「…勝手なことして…、迷惑かけて、ごめんなさい…」
「本当にそう思ってるんならちゃんと中学卒業して、目指してた高校に確実に進学しなさいよね」
「うん…」
両手を涙で濡らしながらうつむく苡月のつむじを、栞奈は安堵したなかに、わずかな羨望をまじえたような面持ちで眺めていた。
「あ…あのさ、栞奈。まぁ許してやれよ、心広くさ。苡月だって悪気があったわけじゃねぇんだし…」
横からおそるおそるかけられた言葉に、やはり栞奈が黙ったまま目だけを向けると、視線を浴びた陽は気圧されて冷や汗を流す。
「あいやっ、怒るのは無理もねぇ。それはもう重々承知してる! っけどな、苡月には苡月なりの事情があってだな」
「…わかってるわよ、そんなこと」
視線に射殺されるような心地になった陽がうろたえてしどろもどろになり、彼の動揺が感染ったか苡月も更に身体を震えあがらせるなか、栞奈は軽くため息をつきながらそう返した。
「一日中部屋に引きこもりっぱなし、学校に行けば保健室から出られない。母方の実家に行ってからずーっとそんなんでなにもできなかった奴が、急にお父さんたち説得しだして転校手続きさせて、ひとりで新幹線乗ってお兄ちゃん家に転がりこんでいったんだから、それだけの理由があったんでしょ。…それくらい想像出来るわよ」
「…!」
彼女からの思わぬ言葉に、苡月は顔をあげ、目を見張った。
「お兄ちゃんからも色々教えてもらってたしね、普段のあんたのこと。いつもどう過ごしてるのか、学校はちゃんと通えてるのか、家でお兄ちゃんの手を煩わせてないか、とか」
ついで、この場を見守っていた葉月へとふり向く。
戸惑う面持ちを浮かべる苡月へ、葉月は黙ったまま笑顔を送っていた。
「…実家にいた時からは想像もつかない変わりようで、お兄ちゃんから聞かされても正直半信半疑だったわよ。なんだかひとが変わっちゃったみたいでさ…やれば出来るんじゃない」
「…! かん、…お姉ちゃん…」
「…そっか、月兄から実家に話いってたんだな、苡月の様子」
話を聞くうちに陽も緊張がとけ、彼から小声で問いかけられた葉月は穏やかに笑いつつ、うんうんと頷いてみせた。
「髪だって伸び放題で、私やお母さんがさんざん切ろうとしても絶対触らせなかったのに、お兄ちゃん相手なら素直に切らせるのね。…逆に、今までのあの意固地っぷりと引きこもりっぷりはなんだったのかと思うわ。まるでこっちに非があったみたい」
「! そんなわけない、それは、僕がっ…」
「当然でしょ、お父さんたちが悪い訳ないじゃない。こっちはこっちで、みんなあんたのこと考えて、どうにかしようとしてたんだから」
姉の言い草に反論しかけた苡月へ、すかさず栞奈はぴしゃりと言い重ねた。
そして再び頬杖をつき、声を詰まらせる弟を緩い視線で見やった。
「…もちろん、あんたが悪いってことでもないのよ。癪だけど、それだけ今のお兄ちゃんとの暮らしの方が、あんたに合ってるってことなんでしょ」
「…っ…!」
「いいわよ、それで。…ちゃんと学校行けて自分で進路も決められて、お父さんやお母さんの心配事が減った方がいいに決まってるんだから」
普段叱責されてばかりだった姉からそう静かな口調で認められ、苡月の涙腺がみるみる緩んでいく。
「…勝手なことして…、迷惑かけて、ごめんなさい…」
「本当にそう思ってるんならちゃんと中学卒業して、目指してた高校に確実に進学しなさいよね」
「うん…」
両手を涙で濡らしながらうつむく苡月のつむじを、栞奈は安堵したなかに、わずかな羨望をまじえたような面持ちで眺めていた。
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