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本編
第6話_それぞれがいるべき場所-3
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栞奈はついで早々と靴を脱ぎ、上がり口で固まる陽を横へどかし、灰茶色のポニーテールをなびかせながら奥へ歩いていく。
彼女が過ぎ去っていってから、陽ははっと我に返って硬直を解き、慌ててあとを追う。
「っちょ、おま、待てって…」
「なに? 変に慌てちゃって。私、じぶん家に帰ってきただけなんだけど」
「いいから、一旦止まれって…!」
「なんで余所者のあんたに引き止められなきゃなんないのよ」
必死に制止させようとしてくる陽へ、栞奈はどこか冷めた風に言い捨て、すたすたと廊下を進んでいく。
そして、居間へと続くふすまを、音もなくすらりと開けた。
栞奈が開けた先には、ちょうど真ん中に苡月が立っていた。
苡月は、真顔で自分を眺めてくる彼女の顔を一時ぼんやりと見返してから、両目を瞬きもせずに見開いたまま、みるみる顔を青ざめさせていく。
「…っか…栞奈ちゃん…!!」
「"お姉ちゃん"って呼びなさいって、いつも言ってるでしょ? 苡月」
そう言いながら栞奈が一歩歩み寄ると、固まっていた苡月は垂直に飛びあがり、今までに見せたことのない素早さで脇から彼女の横を抜け、後ろに立っていた陽の背中に隠れた。
気を抜きかけていた陽は、背後から急にしがみつかれ、反動で前へつんのめりそうになる。
「!? うぉちょっ…」
「ちょっと。久しぶりに会いにきた姉に、挨拶のひとつもできないの?」
「っ! お、おかえり…なさい…」
「そんな蚊が鳴くみたいな声で言われたって、聞こえないわよ。陽を盾にしてないで、ちゃんと出てきなさい!」
「やぁ、まだ、心の準備が…っ」
「失礼ね、まるでひとのことを鬼か化け物みたいに。ちょっと陽、邪魔よ!」
「うわっ、やめ、お前ら…」
なんとか陽の陰に隠れようとする苡月と、それを引き剥がそうとする栞奈がぐるぐると周りを動き、真ん中に挟まれた陽は掴まれたり押されたりしながら、もみくちゃになっていく。
「――はいはい、そこまで」
と、ふいにパンパンと手が叩かれ、栞奈と苡月の動きはぴたりと止まる。
絞り雑巾にさせられそうになっていた陽は急に身を解放され、やれやれとその場で膝に手をついた。
手拍子ふたつでその場を制した葉月は、一同へ柔らかな笑顔を送る。
「おかえり、栞奈。…久々にきょうだい揃ったね」
感慨深そうな兄のひと言を聞き、栞奈は縮こまる苡月へじとっと視線を投げたあと、葉月へ笑顔を返した。
「…うん、ただいま」
彼女が過ぎ去っていってから、陽ははっと我に返って硬直を解き、慌ててあとを追う。
「っちょ、おま、待てって…」
「なに? 変に慌てちゃって。私、じぶん家に帰ってきただけなんだけど」
「いいから、一旦止まれって…!」
「なんで余所者のあんたに引き止められなきゃなんないのよ」
必死に制止させようとしてくる陽へ、栞奈はどこか冷めた風に言い捨て、すたすたと廊下を進んでいく。
そして、居間へと続くふすまを、音もなくすらりと開けた。
栞奈が開けた先には、ちょうど真ん中に苡月が立っていた。
苡月は、真顔で自分を眺めてくる彼女の顔を一時ぼんやりと見返してから、両目を瞬きもせずに見開いたまま、みるみる顔を青ざめさせていく。
「…っか…栞奈ちゃん…!!」
「"お姉ちゃん"って呼びなさいって、いつも言ってるでしょ? 苡月」
そう言いながら栞奈が一歩歩み寄ると、固まっていた苡月は垂直に飛びあがり、今までに見せたことのない素早さで脇から彼女の横を抜け、後ろに立っていた陽の背中に隠れた。
気を抜きかけていた陽は、背後から急にしがみつかれ、反動で前へつんのめりそうになる。
「!? うぉちょっ…」
「ちょっと。久しぶりに会いにきた姉に、挨拶のひとつもできないの?」
「っ! お、おかえり…なさい…」
「そんな蚊が鳴くみたいな声で言われたって、聞こえないわよ。陽を盾にしてないで、ちゃんと出てきなさい!」
「やぁ、まだ、心の準備が…っ」
「失礼ね、まるでひとのことを鬼か化け物みたいに。ちょっと陽、邪魔よ!」
「うわっ、やめ、お前ら…」
なんとか陽の陰に隠れようとする苡月と、それを引き剥がそうとする栞奈がぐるぐると周りを動き、真ん中に挟まれた陽は掴まれたり押されたりしながら、もみくちゃになっていく。
「――はいはい、そこまで」
と、ふいにパンパンと手が叩かれ、栞奈と苡月の動きはぴたりと止まる。
絞り雑巾にさせられそうになっていた陽は急に身を解放され、やれやれとその場で膝に手をついた。
手拍子ふたつでその場を制した葉月は、一同へ柔らかな笑顔を送る。
「おかえり、栞奈。…久々にきょうだい揃ったね」
感慨深そうな兄のひと言を聞き、栞奈は縮こまる苡月へじとっと視線を投げたあと、葉月へ笑顔を返した。
「…うん、ただいま」
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