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本編
第4話_M大寮の一室で-9
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蒼矢が日本を離れて海外へ居住地を移すことは、同時に彼の『セイバー』としての活動が休止することを意味する。
後発属性まで発現済の『アズライト』が、年単位で不在になるということである。
一番の古株の防御役・『エピドート』が抜けた直後という不安定な時期の内に、いまや攻撃役の一翼であり、かつ希少にして唯一のバッファーでもあるアズライトが欠けるという事実は、更なる戦力の低下だけにとどまらず、数年かけて固めてきた『セイバーズ』の戦闘方法そのものを変えざるを得なくなるおそれをもはらむものだった。
しかし、だからといって、それを理由に留学を諦めさせて蒼矢を国内へ縛りつけることは、『セイバーズ』の方針としてはタブーにあたる。
活動年齢が人生の大事な時期である15歳から25歳を占めるセイバーは、学業や就職活動に集中すべき時期はそちらを優先し、引退後に訪れる"普通のひと"としての将来に差し障ることがないよう、常にチームで支え合ってきている。
影斗自身も大学卒業が控えている身として、ここしばらくはセイバーズの活動縮小を融通してもらっていた。
また元々、居住地も他メンバーとやや離れているため、活動縮小以前からも度々不参加のままスルーしてきている。
彼の立場的には、たとえ蒼矢が留学を選んだとしても、NOを突きつけることはとてもできなかった。
「…お前は、どうしたいんだ?」
「…」
影斗からぽつりと問われ、蒼矢は一時沈黙し、手元を見つめた。
「…母にこの話題を出される前までは、留学は頭の片隅にもありませんでした。ただ、そこから先…自分の中で迷いができてしまって…断って、今まで描いてた通りに国内で4年間大学を終えるか、新たな選択肢の方へ進むか、自分にとってどちらが必要なのか、正しいのか、決められなくなってしまった」
「…展望はさておいても、お前ならどっちでも全然アリだしな」
「それに…俺の将来だけでなく、母のこともあるんです。母は、俺と同居したいと言っていて…英国で一緒に暮らすなら、忙しい父よりも自分の方が、俺のそばにいてやることができると」
「まぁ現状、親父さんはお前のこと放ったらかしではあるからな。結子さんはそれを心配してくれてるって話だな? 実際そこんとこ、お前はどう思ってるんだ?」
「…特に不足には感じてません。SNSなどで日頃からコミュニケーションはとれてますし、困りごとがあれば遠隔でもサポートしてもらえてます」
「一般家庭としちゃ、たぶん特異な方だと思うが…お前がポジティブに受けとめてるならまぁ問題ねぇな」
「ただ…俺が母のそばにいるべきなのかな、とは思うんです」
「! ふん?」
「ずっと独りで英国で暮らしてきたなかで、最近交流を深めている友人の家庭を見て、自分と比較して寂しさを感じるようになったみたいで」
「…ふーん」
「帰国してくる時も、いつも嬉しそうではあるんです。たまにビデオ通話もするんですが、直接会った時の方がひときわ高揚してますし、戻る日はだいたい駄々こねてますし。…基本、人恋しく過ごしてるのかなと」
後発属性まで発現済の『アズライト』が、年単位で不在になるということである。
一番の古株の防御役・『エピドート』が抜けた直後という不安定な時期の内に、いまや攻撃役の一翼であり、かつ希少にして唯一のバッファーでもあるアズライトが欠けるという事実は、更なる戦力の低下だけにとどまらず、数年かけて固めてきた『セイバーズ』の戦闘方法そのものを変えざるを得なくなるおそれをもはらむものだった。
しかし、だからといって、それを理由に留学を諦めさせて蒼矢を国内へ縛りつけることは、『セイバーズ』の方針としてはタブーにあたる。
活動年齢が人生の大事な時期である15歳から25歳を占めるセイバーは、学業や就職活動に集中すべき時期はそちらを優先し、引退後に訪れる"普通のひと"としての将来に差し障ることがないよう、常にチームで支え合ってきている。
影斗自身も大学卒業が控えている身として、ここしばらくはセイバーズの活動縮小を融通してもらっていた。
また元々、居住地も他メンバーとやや離れているため、活動縮小以前からも度々不参加のままスルーしてきている。
彼の立場的には、たとえ蒼矢が留学を選んだとしても、NOを突きつけることはとてもできなかった。
「…お前は、どうしたいんだ?」
「…」
影斗からぽつりと問われ、蒼矢は一時沈黙し、手元を見つめた。
「…母にこの話題を出される前までは、留学は頭の片隅にもありませんでした。ただ、そこから先…自分の中で迷いができてしまって…断って、今まで描いてた通りに国内で4年間大学を終えるか、新たな選択肢の方へ進むか、自分にとってどちらが必要なのか、正しいのか、決められなくなってしまった」
「…展望はさておいても、お前ならどっちでも全然アリだしな」
「それに…俺の将来だけでなく、母のこともあるんです。母は、俺と同居したいと言っていて…英国で一緒に暮らすなら、忙しい父よりも自分の方が、俺のそばにいてやることができると」
「まぁ現状、親父さんはお前のこと放ったらかしではあるからな。結子さんはそれを心配してくれてるって話だな? 実際そこんとこ、お前はどう思ってるんだ?」
「…特に不足には感じてません。SNSなどで日頃からコミュニケーションはとれてますし、困りごとがあれば遠隔でもサポートしてもらえてます」
「一般家庭としちゃ、たぶん特異な方だと思うが…お前がポジティブに受けとめてるならまぁ問題ねぇな」
「ただ…俺が母のそばにいるべきなのかな、とは思うんです」
「! ふん?」
「ずっと独りで英国で暮らしてきたなかで、最近交流を深めている友人の家庭を見て、自分と比較して寂しさを感じるようになったみたいで」
「…ふーん」
「帰国してくる時も、いつも嬉しそうではあるんです。たまにビデオ通話もするんですが、直接会った時の方がひときわ高揚してますし、戻る日はだいたい駄々こねてますし。…基本、人恋しく過ごしてるのかなと」
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