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本編
第4話_M大寮の一室で-4
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一時沈黙が流れるが、廿日市はぱっと表情を戻して姿勢を正す。
「まぁいいや。…着いたよ、部屋」
急にトーンが変わったことに目を見張り、蒼矢が視線をあげると、廿日市がつり目を細め、とあるドア前を指でさし示していた。
あからさまに安堵した面持ちになる蒼矢を見て、廿日市は少し噴き出し、ドアをノックしてから応答なしに開ける。
「宮島ー、お客さんだよ」
半分開けられたドアからは、こぢんまりとしたワンルームが見え、ローテーブルに乗っかるPCへ向かってあぐらをかいていた黒髪の男が、ぐるりとふり向いた。
「…あ? なんでお前が連れてくんだよ」
「なんでって、お前彼に部屋番教えてなかったみたいじゃん。迷える来訪者を案内するのは、寮長として当然の務めだよ」
そう飄々と答え、廿日市は後ろに控えていた蒼矢を呼び入れて前へ進ませ、自分も一緒に部屋へ入る。
黒髪の男・宮島 影斗は、蒼矢とアイコンタクトを交わすと、引き続き廿日市をじろりと睨む。
「お前、寮長3年に引き継いだんじゃなかったのかよ?」
「それが、偶然にも今日までだったんだよ。髙城君の面会対応で仕事納めかな」
「そりゃ御苦労。用が済んだんならとっとと帰んな」
「つれないなー。せっかくお前の"大事な人"をエスコートして来てあげたのに。いやー、こんな有終の美を飾れるとは思ってなかったよ。最後に美人と幸せな時を過ごすことができて、感無量だった」
「うるせぇ、いいから帰れ」
影斗はぺらぺらと語る廿日市へはとりつくしまもなく、"しっしっ"と手を振る。
そんな同窓生からのつれない扱いにはものともせず、廿日市は蒼矢へとふり向き、やはり親しげににこりと笑った。
「…まぁ、いずれまた会う機会はあるかもしれないけどね…。髙城君、今後とも宜しく。宮島と蜜月の関係じゃないなら、俺との将来像も考えてみてね」
「はっ倒すぞ、お前」
冗談めかしにそう言い残し、廿日市は部屋から去っていった。
蒼矢は離れていく廿日市へ会釈しながらドアを閉め、スリッパを脱いで部屋の中へ進む。
「ありがとうございます、お時間つくってもらって」
「いや。こっちこそ、旅行中に水差すような真似しちまって悪かったな」
「いえ…時間を見計らって報せて下さったのは、理解してますから」
影斗は隅に転がっていたクッションを寄越し、蒼矢はその上に腰をおろした。
「さっきの廿日市さんとは、ずいぶん親しそうでしたね」
「そう見えたか? …まぁ、近からずも遠からずだ。金輪際きれいさっぱり忘れていいぞ」
「わかりました」
「あと…さっき廿日市が変なこと口走ってたが、あいつは完全にストレートだから気にすんな。なんならもう婚約してるから」
「はい…」
影斗からのフォローに、廿日市のペースに乗せられるだけだった蒼矢は、変わりばえのしない自身の脇の甘さを内でひそかに反省した。
「まぁいいや。…着いたよ、部屋」
急にトーンが変わったことに目を見張り、蒼矢が視線をあげると、廿日市がつり目を細め、とあるドア前を指でさし示していた。
あからさまに安堵した面持ちになる蒼矢を見て、廿日市は少し噴き出し、ドアをノックしてから応答なしに開ける。
「宮島ー、お客さんだよ」
半分開けられたドアからは、こぢんまりとしたワンルームが見え、ローテーブルに乗っかるPCへ向かってあぐらをかいていた黒髪の男が、ぐるりとふり向いた。
「…あ? なんでお前が連れてくんだよ」
「なんでって、お前彼に部屋番教えてなかったみたいじゃん。迷える来訪者を案内するのは、寮長として当然の務めだよ」
そう飄々と答え、廿日市は後ろに控えていた蒼矢を呼び入れて前へ進ませ、自分も一緒に部屋へ入る。
黒髪の男・宮島 影斗は、蒼矢とアイコンタクトを交わすと、引き続き廿日市をじろりと睨む。
「お前、寮長3年に引き継いだんじゃなかったのかよ?」
「それが、偶然にも今日までだったんだよ。髙城君の面会対応で仕事納めかな」
「そりゃ御苦労。用が済んだんならとっとと帰んな」
「つれないなー。せっかくお前の"大事な人"をエスコートして来てあげたのに。いやー、こんな有終の美を飾れるとは思ってなかったよ。最後に美人と幸せな時を過ごすことができて、感無量だった」
「うるせぇ、いいから帰れ」
影斗はぺらぺらと語る廿日市へはとりつくしまもなく、"しっしっ"と手を振る。
そんな同窓生からのつれない扱いにはものともせず、廿日市は蒼矢へとふり向き、やはり親しげににこりと笑った。
「…まぁ、いずれまた会う機会はあるかもしれないけどね…。髙城君、今後とも宜しく。宮島と蜜月の関係じゃないなら、俺との将来像も考えてみてね」
「はっ倒すぞ、お前」
冗談めかしにそう言い残し、廿日市は部屋から去っていった。
蒼矢は離れていく廿日市へ会釈しながらドアを閉め、スリッパを脱いで部屋の中へ進む。
「ありがとうございます、お時間つくってもらって」
「いや。こっちこそ、旅行中に水差すような真似しちまって悪かったな」
「いえ…時間を見計らって報せて下さったのは、理解してますから」
影斗は隅に転がっていたクッションを寄越し、蒼矢はその上に腰をおろした。
「さっきの廿日市さんとは、ずいぶん親しそうでしたね」
「そう見えたか? …まぁ、近からずも遠からずだ。金輪際きれいさっぱり忘れていいぞ」
「わかりました」
「あと…さっき廿日市が変なこと口走ってたが、あいつは完全にストレートだから気にすんな。なんならもう婚約してるから」
「はい…」
影斗からのフォローに、廿日市のペースに乗せられるだけだった蒼矢は、変わりばえのしない自身の脇の甘さを内でひそかに反省した。
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