ガイアセイバーズ９ -萌える若葉を摘む獣-

本編

第4話_M大寮の一室で-2

靴をスリッパに履き替え、一旦蒼矢ソウヤは談話コーナーのソファへ座らされた。

廿日市ハツカイチは、クリップボードに挟んだ入館届へ目を落としながら口を開いた。

「宮島ミヤジマに会いに来たんだ」
「はい」
「部外者は本当はオープンスペースまでって決められてるんだけど、彼に限っては特別に、来る者は誰入れてもいいって話になってるから、部屋入って問題ないよ。番号わかる？」
「308だったと思います」
「それは今年の3月までだね。入退寮時期でもあるから、部屋割りの関係で4月で一度引っ越してるんだ」
「！　そうでしたか…」

M大の寮で会う約束を交わしたものの、詳細な部分まで打ち合わせていなかったため、蒼矢は数年前に初めて訪れた時、つまり影斗エイトが引っ越す前までの部屋番号しか知らなかった。
少し焦りの顔色を浮かべる蒼矢を見、廿日市は気さくに続ける。

「部屋まで案内するよ」
「えっ…いえ、ご迷惑なので」
「いやいや全然、あいつの部屋には普段からよく行ってるし。…ちょっと順路複雑だから、寮長としては寮内で迷子が出る方が困るんだよね」

その口振りから察するに、どうやら廿日市は影斗と同学年らしく、学部まで一緒かはわからないが、同じ寮生だからかよく知った間柄のようだった。
彼の進言に一旦遠慮する蒼矢だったが、冗談を交えてさらりと言い進める自然体な所作に、つられて気を許す。

「…じゃあ、お願いします」
「OKー」

ふたりは再び立ちあがり、影斗の部屋へ移動していく。

廿日市は葉月と同じほどの背丈があり、すらりと痩せ型で、少しつり目ですっきりとした塩顔は、笑むと誰と対面しても好印象を残すような人懐っこさがあった。
栗色の髪に明るい色合いの上下、縁なしのスクエア型眼鏡や両耳の小さなフープピアスからもファッションへの気遣いが見てとれ、トータルで清潔感あるさわやか青年、という雰囲気が感じられた。