28 / 109
本編
第4話_M大寮の一室で-1
しおりを挟む
その週の金曜日、蒼矢はコマ数が少なく早帰宅できることを利用して、いつものように図書館へは寄らずにすぐ大学を出た。
しかし自宅方面へは向かわず、電車でいつもの帰り道とは反対方向へ移動していく。
着いた場所は、蒼矢の通うT大からほど近い、私立M大の学生寮だった。
M大は影斗が通っている大学であり、学費や生活費を自力で捻出している彼は、入試合格するや否や実家を出、学生寮へと生活拠点を移してから、ずっとひとり暮らしをしている。
基本的に父親とは折り合いが悪いため、家へ帰ることはほぼないが、夫を婿として迎え、父と同居している姉とは年1,2ペースで定期的に会い、生存確認も兼ねて軽く近況報告をあげているらしい。
M大の学生寮は、敷地面積が非常に広いうえに寮らしからぬ高階層で、造りが近代的で洗練された雰囲気だった。
在学大の寮の外観だけは知っている蒼矢は、国立大と私立大の設備投資の格差を思い知らされ、エントランスを前にただただ圧倒されるように、うず高い寮棟を見上げていた。
実際、蒼矢がここを訪れたのはこれでまだ2度目である。
親しくしている影斗が住み、自分が通うT大からもわりと近いのだが、ふたりで会う場合は影斗が蒼矢の方まで迎えに来ることが大半で、蒼矢から影斗の側へ尋ねる機会がほぼ無かったためだった。
過去の記憶を辿ってエントランス脇の受付兼守衛所を訪ね、入館届へ記入し、寮の管理人が来るのを待つ。
「――お待たせ」
寒空のもと、手持ち無沙汰にあたりを眺め、整えられた緑地や全面ガラス張りの内廊下に目を奪われていると、後ろから声がかかり、蒼矢ははっとして受付側へふり向く。
視線の中央には、エントランスを背にして若い男がひとり立っていて、目が合うとにこりと笑った。
「寮長の廿日市です。今日は管理人さんが不在なんで、俺が応対するね」
「…髙城です。お手数をおかけします、よろしくお願いします」
挨拶を交わすと、廿日市は蒼矢へ首かけの入館証を渡し、さっそく温かな寮内へと誘っていく。
しかし自宅方面へは向かわず、電車でいつもの帰り道とは反対方向へ移動していく。
着いた場所は、蒼矢の通うT大からほど近い、私立M大の学生寮だった。
M大は影斗が通っている大学であり、学費や生活費を自力で捻出している彼は、入試合格するや否や実家を出、学生寮へと生活拠点を移してから、ずっとひとり暮らしをしている。
基本的に父親とは折り合いが悪いため、家へ帰ることはほぼないが、夫を婿として迎え、父と同居している姉とは年1,2ペースで定期的に会い、生存確認も兼ねて軽く近況報告をあげているらしい。
M大の学生寮は、敷地面積が非常に広いうえに寮らしからぬ高階層で、造りが近代的で洗練された雰囲気だった。
在学大の寮の外観だけは知っている蒼矢は、国立大と私立大の設備投資の格差を思い知らされ、エントランスを前にただただ圧倒されるように、うず高い寮棟を見上げていた。
実際、蒼矢がここを訪れたのはこれでまだ2度目である。
親しくしている影斗が住み、自分が通うT大からもわりと近いのだが、ふたりで会う場合は影斗が蒼矢の方まで迎えに来ることが大半で、蒼矢から影斗の側へ尋ねる機会がほぼ無かったためだった。
過去の記憶を辿ってエントランス脇の受付兼守衛所を訪ね、入館届へ記入し、寮の管理人が来るのを待つ。
「――お待たせ」
寒空のもと、手持ち無沙汰にあたりを眺め、整えられた緑地や全面ガラス張りの内廊下に目を奪われていると、後ろから声がかかり、蒼矢ははっとして受付側へふり向く。
視線の中央には、エントランスを背にして若い男がひとり立っていて、目が合うとにこりと笑った。
「寮長の廿日市です。今日は管理人さんが不在なんで、俺が応対するね」
「…髙城です。お手数をおかけします、よろしくお願いします」
挨拶を交わすと、廿日市は蒼矢へ首かけの入館証を渡し、さっそく温かな寮内へと誘っていく。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
借金背負ったので死ぬ気でダンジョン行ったら人生変わった件 やけくそで潜った最凶の迷宮で瀕死の国民的美少女を救ってみた
羽黒 楓
ファンタジー
旧題:借金背負ったので兄妹で死のうと生還不可能の最難関ダンジョンに二人で潜ったら瀕死の人気美少女配信者を助けちゃったので連れて帰るしかない件
借金一億二千万円! もう駄目だ! 二人で心中しようと配信しながらSSS級ダンジョンに潜った俺たち兄妹。そしたらその下層階で国民的人気配信者の女の子が遭難していた! 助けてあげたらどんどんとスパチャが入ってくるじゃん! ってかもはや社会現象じゃん! 俺のスキルは【マネーインジェクション】! 預金残高を消費してパワーにし、それを自分や他人に注射してパワーアップさせる能力。ほらお前ら、この子を助けたければどんどんスパチャしまくれ! その金でパワーを女の子たちに注入注入! これだけ金あれば借金返せそう、もうこうなりゃ絶対に生還するぞ! 最難関ダンジョンだけど、絶対に生きて脱出するぞ! どんな手を使ってでも!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる