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本編
第3話_新たに選ばれし者-3
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陽にとって苡月は、親しく付き合っている交友範囲でいえば、特別な存在だった。
ごく近しい立場であるセイバーズだけに絞った時、退いたばかりの葉月を含め、全員陽より年上である。
セイバー歴をとっても、彼は覚醒してからまだ数か月で、他メンバーはみな年単位で先輩にあたる。
場数が足りないゆえの危なっかしさや無防備さを常に心配され、フォローされ、逐一指導を受ける、という状況はまだまだ続いている。
過保護さを疎ましく思ったり、叱責に辟易することはあるものの、まだまだ"守られている"立場だということも理解しているため、先輩セイバーから言われることには基本的に大人しく従っている。
そもそも、陽自身はひとりっ子だが、従兄の烈とその友人の蒼矢から始まり、年上に囲まれる環境に慣れ親しんできたため、気質的には弟タイプに育ってきていた。
年下の特権とばかりに、好き勝手甘えたりわがままを垂れてみるという経験は数多く重ねて来こそすれ、年上然とふるまう機会は無いに等しかった。
そんな陽にとっての苡月は、彼の周囲で唯一"弟分"と呼べる存在だった。
性格にはだいぶ温度差があるし、理知的で思慮深い苡月を弟と位置付けするには無理な部分も多いが、彼の自然体に甘えや弱さを見せるところや、人の懐に入りこむのがうまいところは、陽よりよほど"真の弟"気質だった。
希少な弟分相手についつい先輩風をふかせたくなりはするが、根の部分では可愛がってやりたい、守ってやりたい。
そう素直に思えるのが苡月だった。
そんな、今まで一般人だった、文字通り守るべき対象だった苡月が、自分と同列になる。
彼もまた、"異形なる人外からの守護者"というステージへあがり、自分と同じようにその不可思議な非日常を括目することになる。
陽の胸中は、到底穏やかにはいられなかった。
「なんだろなー。喜んでいいことなんだろうけど、嬉しくはねぇって感じかな。自分の中でせめぎ合ってる感じ」
「…そうだな、その感覚は正しいよ」
未熟な自分を常に後ろから見守り支えてくれた、葉月の引退。
兄貴分としても、セイバーの立場からも守ろうと思っていた苡月の、次期『エピドート』というほぼ確定的な事実。
ごく近くでたて続けに起こった関係性の変化に、蒼矢は彼が抱く心情を察し、静かに寄り添った。
「今は急にいろんな情報が入ってきて、きっと戸惑いが勝ってしまってるということもあると思う。…残念だけど、状況を拒絶することはできない。だから…時間をかけて少しずつ受け容れていこう」
「うん…」
「葉月さんの代わりにはなれないけど、俺もできる限りお前を支えるから」
「うん、ありがと蒼兄。気持ちだけ受け取っとく」
生真面目さのにじむ蒼矢の励ましに、陽は控えめに笑った。
ごく近しい立場であるセイバーズだけに絞った時、退いたばかりの葉月を含め、全員陽より年上である。
セイバー歴をとっても、彼は覚醒してからまだ数か月で、他メンバーはみな年単位で先輩にあたる。
場数が足りないゆえの危なっかしさや無防備さを常に心配され、フォローされ、逐一指導を受ける、という状況はまだまだ続いている。
過保護さを疎ましく思ったり、叱責に辟易することはあるものの、まだまだ"守られている"立場だということも理解しているため、先輩セイバーから言われることには基本的に大人しく従っている。
そもそも、陽自身はひとりっ子だが、従兄の烈とその友人の蒼矢から始まり、年上に囲まれる環境に慣れ親しんできたため、気質的には弟タイプに育ってきていた。
年下の特権とばかりに、好き勝手甘えたりわがままを垂れてみるという経験は数多く重ねて来こそすれ、年上然とふるまう機会は無いに等しかった。
そんな陽にとっての苡月は、彼の周囲で唯一"弟分"と呼べる存在だった。
性格にはだいぶ温度差があるし、理知的で思慮深い苡月を弟と位置付けするには無理な部分も多いが、彼の自然体に甘えや弱さを見せるところや、人の懐に入りこむのがうまいところは、陽よりよほど"真の弟"気質だった。
希少な弟分相手についつい先輩風をふかせたくなりはするが、根の部分では可愛がってやりたい、守ってやりたい。
そう素直に思えるのが苡月だった。
そんな、今まで一般人だった、文字通り守るべき対象だった苡月が、自分と同列になる。
彼もまた、"異形なる人外からの守護者"というステージへあがり、自分と同じようにその不可思議な非日常を括目することになる。
陽の胸中は、到底穏やかにはいられなかった。
「なんだろなー。喜んでいいことなんだろうけど、嬉しくはねぇって感じかな。自分の中でせめぎ合ってる感じ」
「…そうだな、その感覚は正しいよ」
未熟な自分を常に後ろから見守り支えてくれた、葉月の引退。
兄貴分としても、セイバーの立場からも守ろうと思っていた苡月の、次期『エピドート』というほぼ確定的な事実。
ごく近くでたて続けに起こった関係性の変化に、蒼矢は彼が抱く心情を察し、静かに寄り添った。
「今は急にいろんな情報が入ってきて、きっと戸惑いが勝ってしまってるということもあると思う。…残念だけど、状況を拒絶することはできない。だから…時間をかけて少しずつ受け容れていこう」
「うん…」
「葉月さんの代わりにはなれないけど、俺もできる限りお前を支えるから」
「うん、ありがと蒼兄。気持ちだけ受け取っとく」
生真面目さのにじむ蒼矢の励ましに、陽は控えめに笑った。
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