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本編
第1話_功労者の格言_11
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その後蒼矢の電話は切られ、なぜあの早朝に通話をしていたのか、相手は誰だったのか、問いかける機会を逸したまま時は過ぎ、そのうち影斗から葉月に関する連絡が入って、より重要で急務な要件が重なったことで、早朝の出来事はそのままうやむやになってしまった。
しかし烈の記憶の中にははっきりと、目覚めた時の蒼矢の表情が焼きついていて、のどに小骨が引っかかったように、頭の中でずっと気になり続けていた。
蒼矢の変化は一瞬で、烈がきちんと視界に捉える頃には、普段と変わらない静かな面差しへ戻っていた。
「…ああ、母さんからだった」
「? 結子おばさん?」
「うん。英国の友人親子の帰国報告を受けたんだ」
「ああ…! お前が観光案内してた子って、おばさんの英国の友達だったんだっけ?」
「彼女のお母さんがね。…ふたりとも無事戻ってきたって、その連絡だけ」
「…そっか」
そう言葉を交わしたあと、再びふたりそろって口を閉ざす。
住宅街の庭に棲む虫の鳴く声だけが囁くなか、烈から沈黙を破る。
「…いやま、ちょっと気になってたってだけだから」
明るい調子でそう言い、烈はにっと笑うと、ヘルメットを被り直す。
「そいじゃ、明日よろしくな」
「うん、おやすみ」
バイクの車体を旋回させ、烈はバイザーを閉めると、髙城家から見る間に遠ざかっていった。
玄関前に立ち尽くす蒼矢は、烈が曲がり角を曲がって見えなくなるまで、その後ろ姿を目で追っていた。
「…」
辺りに誰もいなくなると、蒼矢は視線を地面へ落とす。
透き通るような肌に浮かぶ涼しげな面差しは、次第に陰りを帯び、形の整った眉が歪んだ。
――英国でお母さんと暮らしましょう、蒼矢――
記憶の片隅にしまいこんでいた母の声が、頭の中に響いた。
しかし烈の記憶の中にははっきりと、目覚めた時の蒼矢の表情が焼きついていて、のどに小骨が引っかかったように、頭の中でずっと気になり続けていた。
蒼矢の変化は一瞬で、烈がきちんと視界に捉える頃には、普段と変わらない静かな面差しへ戻っていた。
「…ああ、母さんからだった」
「? 結子おばさん?」
「うん。英国の友人親子の帰国報告を受けたんだ」
「ああ…! お前が観光案内してた子って、おばさんの英国の友達だったんだっけ?」
「彼女のお母さんがね。…ふたりとも無事戻ってきたって、その連絡だけ」
「…そっか」
そう言葉を交わしたあと、再びふたりそろって口を閉ざす。
住宅街の庭に棲む虫の鳴く声だけが囁くなか、烈から沈黙を破る。
「…いやま、ちょっと気になってたってだけだから」
明るい調子でそう言い、烈はにっと笑うと、ヘルメットを被り直す。
「そいじゃ、明日よろしくな」
「うん、おやすみ」
バイクの車体を旋回させ、烈はバイザーを閉めると、髙城家から見る間に遠ざかっていった。
玄関前に立ち尽くす蒼矢は、烈が曲がり角を曲がって見えなくなるまで、その後ろ姿を目で追っていた。
「…」
辺りに誰もいなくなると、蒼矢は視線を地面へ落とす。
透き通るような肌に浮かぶ涼しげな面差しは、次第に陰りを帯び、形の整った眉が歪んだ。
――英国でお母さんと暮らしましょう、蒼矢――
記憶の片隅にしまいこんでいた母の声が、頭の中に響いた。
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