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本編
第21話_引き継がれるもの
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次の日、いつも通り学校へ登校し、帰宅した蒼矢が自宅へさしかかると、玄関前で階段に腰かける学ラン姿の烈が視界に入った。同時に彼もこちらへ気付いたようで、立ちあがると、あり余る体力を発散させるように腕をぶんぶんと振ってみせた。
「よーっ!」
2日前、身体の不調を晒したまま別れたものの、その日の内に無事を伝えていたため余計な気苦労は与えていないと思われたが、面と向かうのは事が起きて以来だからか、やはり烈は心配していたようだった。会うなり至近距離から注意深く顔色を覗い、蒼矢の身体のあちこちを見回した。
「…もう大丈夫だよ、さすがに。一昨日連絡しただろ」
「念のためだよ! そもそもお前、連絡無精過ぎ。こっちが母ちゃんのスマホ借りてまでまめにメッセ送ってんのに"OK"スタンプばっかりって、適当にも程があるからな? 逆に不安になるわ!」
「…悪かったって」
入念なボディチェックとSNSに対する温度差を感じる苦情にうんざりする蒼矢だったが、逆側から近付いてくる二つの人影に気付くと視線を向け、会釈した。
「邪魔したか?」
「いえ…」
軽く手を振ってみせた灯の隣で、晃司は同じように手を振りつつも横を向き、片割れへ声を潜めた。
「…やっぱり"野郎"なんだな。ようやく納得できた気がするわ」
「一昨日の時点で確定しただろうが。お前の中の不確定要素はなんだったんだ」
「! いや、まぁ見たけどさぁ…、なんつーか、見た目もそうだけど感触も際どかったんだよなぁ…」
昨日蒼矢を抱えた左手をわきわきさせる晃司を、灯は呆れた風に眺める。
「戦闘中に邪念が多過ぎるだろ。…どちらにせよお前の射程範囲外だ、手を出したら犯罪だからな」
「!! おまっ、そんなんじゃっ…」
「? あの…」
「いや、こっちの話だ」
首を傾げる蒼矢へ制するように手をあげた灯は、ふと彼の傍らから頬が焦がされるような気配を感じる。目を向けると、ツンツン頭の男子高校生が、こちらの顔に穴が開きそうなくらい凝視してきていた。
「…。…何だ?」
「…そっくりだ!」
「……」
「すげー! あんちゃん双子だったんだな!!」
烈は二人を交互に見比べ、面識のある晃司の方へ鼻息を荒くしながらそうのたまった。
「おいおい、興奮すんなよ。そんな珍しいもんでもねぇだろ」
「俺の周りにいたことなかったからさ、あんちゃんたちが初めてだよ。おんなじ顔だと何かミラクル感じるなぁ…!」
「よく見ろって、俺の方がこのイケてるファッションで3割増し色男だろうが」
「…確かに、フリマのあんちゃんの方が遠くからでも目立つ!」
「やめろ烈、失礼だぞ」
テンションが上がっていく烈を蒼矢がたしなめる中、灯はわざとらしく咳払いした。
「…そろそろ本題に入っていいか?」
「! そういえば、お二人はどうしてここへ…」
そう問いかける蒼矢の前に、灯は手に持っていたビニール袋を差し出した。そのまま中を見るよう視線で促され、蒼矢は中身へ手を伸ばす。引き抜かれて出てきたのは、一昨日フリマ会場で手に取ったあのレコードだった。
「…!」
「君にやるよ」
灯にあっさりそう言われたものの、一昨日のやり取りを思い出した蒼矢は困惑しながら彼を見上げた。
「でもこれは、灯さんの大切なコレクションなのでは…」
「惰性で集めてるだけで、この一枚に君ほどの思い入れは無い。君の所にあった方が、こいつも幸せだろう」
「……大切にします、ありがとうございます」
蒼矢は少しためらっていたが、どこか満ち足りたような彼の表情を見、頬を染めながら遠慮がちに頷いた。横から烈も、嬉しそうにレコードジャケットを眺める。
「良かったな、蒼矢。そっちのあんちゃん太っ腹っすね!」
「身近に手癖の悪い奴がいてな、そいつに盗られて知らない奴に転売されるよりは、とも考えた上だ。…これ以上の盗難被害を防ぐためにも、そろそろ家を出ようかと思ってる」
「へぇー…なんか苦労してんだなぁ。まったく、許せねぇな!その盗人」
二人のやり取りをそっぽを向きながら聞き流していた晃司は、ふと気付いて蒼矢へ視線をやる。
「そういや、お前んちハードあんの?」
「はい、父がプレーヤーを持ってます」
「やっぱオヤジ趣味だよなー、っあででで…」
「…お前は何しに来たんだ? 俺の用にただくっついて来たわけじゃないんだろうな」
手ひどく尻をつねられた晃司は灯にそう睨まれ、蒼矢へ向けてそれなりに姿勢を正してみせた。
「…"使えねぇ"扱いして悪かったな。ちょっと苛立ってたもんだから、当たり強くしちまった」
「…!」
思わぬ謝罪に、蒼矢は驚いて彼を見返す。
「『あっち』の伸びしろの方はわからねぇにしても、お前には度胸がある。…しばらく胸貸してやっから、慣れるまで思いっきりやってみろ」
やはり気恥ずかしそうに頭を掻きながら、晃司はストレートな物言いで蒼矢を評価した。
「…ありがとうございます、精一杯やります」
「あいや、あんま大胆なのはやめとけよ!? 昨日みてぇのは肝冷えっからな?」
「はい、これから色々学ばせて頂きます」
無垢な表情から生真面目な回答をもらい、しどろもどろになる晃司に灯は思わず噴き出した。
「…用件は済んだ、そろそろお暇しよう。急に割り込んですまなかった。…君にも」
そう話を締めると、会話の意味が読めずにぽかんとなっていた烈へも視線を送る。はたと気づき、烈は顔を左右に細かく振ってみせた。
「! いや、平気っす…」
手を軽くあげながら、灯は晃司と元来た道を戻っていく。
ちらちらと後ろを振り返りつつ、晃司は軽く鼻を鳴らした。
「あんな"真反対"でも、ダチンコできるもんなんだなー。意外と相性良かったりするのかね」
「幼馴染かなにかなんじゃないか。それに人のこと言えた義理じゃないな、お前と葉月だってかなり真逆だぞ」
「! まぁそっか。…葉月と言ゃ、あっちサイドは解決すんのかね?」
「さぁな。今頃神社にいるんじゃないのか。気になるなら見てくればいい」
「やだよ、葉月に見つかったらどうなるか怖ぇもん。腕っぷしだけなら、俺らん中で間違いなくあいつが最強だからな」
「同感だ」
適当に返しながら、灯は内でひとり思案していた。
次代のセイバーは、現役セイバーと繋がりのある人物から選ばれる。
…彼が、次の『ロードナイト』になる可能性は…
…俺が抜けた後のことを考えても、意味は無いな…
「よーっ!」
2日前、身体の不調を晒したまま別れたものの、その日の内に無事を伝えていたため余計な気苦労は与えていないと思われたが、面と向かうのは事が起きて以来だからか、やはり烈は心配していたようだった。会うなり至近距離から注意深く顔色を覗い、蒼矢の身体のあちこちを見回した。
「…もう大丈夫だよ、さすがに。一昨日連絡しただろ」
「念のためだよ! そもそもお前、連絡無精過ぎ。こっちが母ちゃんのスマホ借りてまでまめにメッセ送ってんのに"OK"スタンプばっかりって、適当にも程があるからな? 逆に不安になるわ!」
「…悪かったって」
入念なボディチェックとSNSに対する温度差を感じる苦情にうんざりする蒼矢だったが、逆側から近付いてくる二つの人影に気付くと視線を向け、会釈した。
「邪魔したか?」
「いえ…」
軽く手を振ってみせた灯の隣で、晃司は同じように手を振りつつも横を向き、片割れへ声を潜めた。
「…やっぱり"野郎"なんだな。ようやく納得できた気がするわ」
「一昨日の時点で確定しただろうが。お前の中の不確定要素はなんだったんだ」
「! いや、まぁ見たけどさぁ…、なんつーか、見た目もそうだけど感触も際どかったんだよなぁ…」
昨日蒼矢を抱えた左手をわきわきさせる晃司を、灯は呆れた風に眺める。
「戦闘中に邪念が多過ぎるだろ。…どちらにせよお前の射程範囲外だ、手を出したら犯罪だからな」
「!! おまっ、そんなんじゃっ…」
「? あの…」
「いや、こっちの話だ」
首を傾げる蒼矢へ制するように手をあげた灯は、ふと彼の傍らから頬が焦がされるような気配を感じる。目を向けると、ツンツン頭の男子高校生が、こちらの顔に穴が開きそうなくらい凝視してきていた。
「…。…何だ?」
「…そっくりだ!」
「……」
「すげー! あんちゃん双子だったんだな!!」
烈は二人を交互に見比べ、面識のある晃司の方へ鼻息を荒くしながらそうのたまった。
「おいおい、興奮すんなよ。そんな珍しいもんでもねぇだろ」
「俺の周りにいたことなかったからさ、あんちゃんたちが初めてだよ。おんなじ顔だと何かミラクル感じるなぁ…!」
「よく見ろって、俺の方がこのイケてるファッションで3割増し色男だろうが」
「…確かに、フリマのあんちゃんの方が遠くからでも目立つ!」
「やめろ烈、失礼だぞ」
テンションが上がっていく烈を蒼矢がたしなめる中、灯はわざとらしく咳払いした。
「…そろそろ本題に入っていいか?」
「! そういえば、お二人はどうしてここへ…」
そう問いかける蒼矢の前に、灯は手に持っていたビニール袋を差し出した。そのまま中を見るよう視線で促され、蒼矢は中身へ手を伸ばす。引き抜かれて出てきたのは、一昨日フリマ会場で手に取ったあのレコードだった。
「…!」
「君にやるよ」
灯にあっさりそう言われたものの、一昨日のやり取りを思い出した蒼矢は困惑しながら彼を見上げた。
「でもこれは、灯さんの大切なコレクションなのでは…」
「惰性で集めてるだけで、この一枚に君ほどの思い入れは無い。君の所にあった方が、こいつも幸せだろう」
「……大切にします、ありがとうございます」
蒼矢は少しためらっていたが、どこか満ち足りたような彼の表情を見、頬を染めながら遠慮がちに頷いた。横から烈も、嬉しそうにレコードジャケットを眺める。
「良かったな、蒼矢。そっちのあんちゃん太っ腹っすね!」
「身近に手癖の悪い奴がいてな、そいつに盗られて知らない奴に転売されるよりは、とも考えた上だ。…これ以上の盗難被害を防ぐためにも、そろそろ家を出ようかと思ってる」
「へぇー…なんか苦労してんだなぁ。まったく、許せねぇな!その盗人」
二人のやり取りをそっぽを向きながら聞き流していた晃司は、ふと気付いて蒼矢へ視線をやる。
「そういや、お前んちハードあんの?」
「はい、父がプレーヤーを持ってます」
「やっぱオヤジ趣味だよなー、っあででで…」
「…お前は何しに来たんだ? 俺の用にただくっついて来たわけじゃないんだろうな」
手ひどく尻をつねられた晃司は灯にそう睨まれ、蒼矢へ向けてそれなりに姿勢を正してみせた。
「…"使えねぇ"扱いして悪かったな。ちょっと苛立ってたもんだから、当たり強くしちまった」
「…!」
思わぬ謝罪に、蒼矢は驚いて彼を見返す。
「『あっち』の伸びしろの方はわからねぇにしても、お前には度胸がある。…しばらく胸貸してやっから、慣れるまで思いっきりやってみろ」
やはり気恥ずかしそうに頭を掻きながら、晃司はストレートな物言いで蒼矢を評価した。
「…ありがとうございます、精一杯やります」
「あいや、あんま大胆なのはやめとけよ!? 昨日みてぇのは肝冷えっからな?」
「はい、これから色々学ばせて頂きます」
無垢な表情から生真面目な回答をもらい、しどろもどろになる晃司に灯は思わず噴き出した。
「…用件は済んだ、そろそろお暇しよう。急に割り込んですまなかった。…君にも」
そう話を締めると、会話の意味が読めずにぽかんとなっていた烈へも視線を送る。はたと気づき、烈は顔を左右に細かく振ってみせた。
「! いや、平気っす…」
手を軽くあげながら、灯は晃司と元来た道を戻っていく。
ちらちらと後ろを振り返りつつ、晃司は軽く鼻を鳴らした。
「あんな"真反対"でも、ダチンコできるもんなんだなー。意外と相性良かったりするのかね」
「幼馴染かなにかなんじゃないか。それに人のこと言えた義理じゃないな、お前と葉月だってかなり真逆だぞ」
「! まぁそっか。…葉月と言ゃ、あっちサイドは解決すんのかね?」
「さぁな。今頃神社にいるんじゃないのか。気になるなら見てくればいい」
「やだよ、葉月に見つかったらどうなるか怖ぇもん。腕っぷしだけなら、俺らん中で間違いなくあいつが最強だからな」
「同感だ」
適当に返しながら、灯は内でひとり思案していた。
次代のセイバーは、現役セイバーと繋がりのある人物から選ばれる。
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