ガイアセイバーズ4 -狭間に咲く蒼の華-

独楽 悠

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本編

第16話_下される制裁、心にかかる圧力

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ショッピングモールを離れた晃司コウシ影斗エイトは、幹線道路を数本入ったひと気の少ない貸し倉庫の敷地裏へ入り、先導していた晃司が振り返った。
「…ここなら誰も来ねぇだろ、通報でもされちゃたまんねぇからな」
「くだらねぇことするつもりなら帰るぞ」
「くだらなくなるかはお前次第だぜ、不良小僧」
少し眼を剥く影斗へ、晃司は至って涼しい顔つきで続ける。
「お前、今まで散々フケてたくせに何で今回は顔出した?」
「…」
「前回も出てたんだってなぁ…重役待遇がご苦労なこった。…どういう風の吹き回しだ?」
「…あんたに理由話す必要はねぇ」
「いーや、是非聞きてぇな、お前の"プライベート"ってやつを。あの新人…"蒼矢ソウヤ"って奴が絡んでるんだろ」
晃司は、影斗の表情が僅かに変わったことを見逃さなかった。
「相変わらず連絡はしてこねぇ癖して、最後だけかっさらっていきやがってよ。後輩相手にそんなに良いトコ見せたいんか? まぁ見てくれすげぇ可愛いもんな、あいつ」
「…うるせぇな、結果やることやってんだからいいだろ、とやかく言われる筋合いねぇよ」
「うぬぼれてんじゃねぇ。さっきの一戦、俺はお前に助けられたなんて毛ほども思っちゃいねーぞ。むしろ、来るか来ねぇかわからねぇ奴に戦況引っ掻き回されるなんざ、うぜぇ以外のなにもんでもねぇからな」
そう言い捨てると、軽い調子だった晃司の声色が、すっと圧を増す。
「つーわけで、お前は次戦から来なくていいわ。…しばらく謹慎だ」
「…は?」
思わず素の声が漏れてしまった影斗を、晃司は変わらず真顔で眺めていた。
「なんでだよ、勝手に決めんじゃねぇ…どうせあんたの独断なだけだろ!」
「あぁ? 今まで散々勝手な真似してたのはてめぇだろ。自己中な文句ばっか吐いてんじゃねぇ」
「……!」
影斗は急な戦力外通告に抗議しかけたが、正論を突かれて口をつぐむ。晃司は変わらず冷ややかな視線を送りながら続けた。
葉月ハヅキと揉めて顔合わせたくねぇからサボってた野郎が、お気に入りの奴が入ったからって、なんの落とし前もつけねぇままいけしゃあしゃあと戻ってくるとか、周りが納得できると思ってんの? そんな適当こいてる奴にセイバー面されても、こちとら面倒なだけなんだよ」
「……」
「お前は私情挟み過ぎだ。葉月の件もそうだろ、腹いせみてぇにいつまでも突っかかりやがって。そんな暇あるならお前の力で姉ちゃん取り返してこいよ」
「…!!」
晃司の口からやにわに出てきたその・・キーワードに、影斗の目が剥く。
「まぁ無理だろうけどな。絶縁してるお前の親父がまとめた縁談となっちゃあ、高校生の坊主がキャンキャン文句言ったところで相手して貰えるわけがねぇ」
「その話は出すなっ…あんたは関係ねぇだろ!!」
さえぎるように声を荒げるが、晃司はお構いなしに続けた。
「あるよ、お前らのいざこざのせいでこっちだって迷惑こうむってんだ。葉月もずーっとシケたオーラ振り撒いてるしよ。まぁ、あいつが一番の被害者ってことにはなるからな。…お前の親父からの圧力で別れさせられたんだろ?」
「……!」
「慰めてやれよ、逆に。義理の弟・・・・予定だったんだから、それが筋ってもんだろうが」
晃司の言い草を、影斗は拳を震わせながら黙って受けとめていた。あからさまな煽りだということを頭では理解っていたが、またたく間に負の感情に内を満たされ、溢れ、許容しきれずに流れ出していく。
「とっとと諦めて葉月と和解しろよ。所詮お前は当事者じゃねぇ。…姉貴がてめぇの気に食わねぇ奴に寝取られたくらいで、いつまでもねちっこく恨み節垂れてんじゃねぇぞ」
そう言い切る前に、我慢ならなくなった影斗の拳が繰り出された。真正面から顔面を襲ったそれを、晃司は周囲に音を響かせながら左掌で受け止めた。
葉月あいつだから・・・認めてたんだろうがよ。…拳の行き先間違えてんじゃねぇよ」
やり場を失った怒りを噴出させる彼の眼を眺めながら、晃司はそう低く言い放つと、掴んだ影斗の手を強く引き、至近距離に迫った顔面に右の拳を合わせた。同時に手を解放された影斗の身体が後方へ吹っ飛ばされる。
「…ったくよー、どいつもこいつも…、…!」
軽く息をついてから晃司は悪態をつきかけたが何事かに気付き、片眉を上げる。
己の中で何かが整理できたのか、コンクリートに転がる黒い身体へ視線をやった。
「お前さぁ、葉月が姉ちゃんのことあっさり諦めたから親父の刺客・・に奪われたと思ってんだろうけどさ、違うからな」
「……」
ふらふらと起き上がり、なおもこちらを睨む影斗を、晃司は挑発じみた風でもなく、至って冷静な面差しで見返していた。
「ろくに話も出来てねぇんだろ、お前ら。…わーった、その辺の誤解解けたら、参加していいってことにするわ。当人に聞きにくいんなら当たってみな。俺からは言わねぇぞ、面倒くせぇ」
そう言い残すと、晃司はポケットに両手を突っ込み、ガニ股で歩き去っていった。
立ちあがった影斗は彼を追うことはなく、その後ろ姿が見えなくなるまでぼんやりと眺めていた。



アカリと蒼矢が楠神社へ着き、参道へ続く階段をあがると、丁度裏に車を停めて玄関へ回ってきた葉月とはち合わせる。
挨拶もそこそこに二人はそのまま家に案内され、ひとまず怪我の程度が重い蒼矢が客間のソファに寝かされた。攻撃を受けた箇所は、防御力の高い戦闘スーツの働きにより大事には至っていなかったが、皮膚がみみず腫れのように浮きあがって、周囲まで肌が赤く染まっていた。
「ひどいね…、痕が残らなければいいけど…」
「…そうだな」
"綺麗だからな"と言いたい気持ちを飲み込んで、灯は蒼矢の上裸を眺めながら頷いた。
「すみません…またご迷惑を…」
「迷惑なんかじゃないよ、元々僕がセイバーになってからは、大体ここで治療してるから。みんなよく怪我するしね」
うつ伏せの痩躯から漏れるか細い言葉に、葉月は優しい口調で返しながら軟膏を塗り、上から保護テープを施す。痣を作った顔も、冷やした後にテープを貼ってあげる。
どこか浮かない表情の彼を気遣いつつ、葉月は灯の治療へ移る。数か所打撲した身体にテーピングをしながら、灯から語られる今戦の簡単なあらましに耳を傾けていた。
「…多分、特徴だけで考えれば、人数が揃っていたら難は無い相手だと思うけど…」
「次戦は間違いなくを絞ってくるだろうな。…それこそ捨て身で仕掛けてくるかもしれない」
続けた灯の言に、葉月は重い表情で頷いた。
彼らの顔色を窺っていた蒼矢は、うつむいて小さくつぶやいた。
「…次は…いない方がいいでしょうか」
「…!」
その言葉に二人は蒼矢へ顔を向け、葉月は何か言いたげに口を開きかけるが、考えあぐねるように再び閉ざして視線をそらす。しかし灯は彼を見つめたまま、真剣な面差しを送っていた。
「いや、参戦するんだ。今戦の葉月のように物理的に行けない場合はその限りではないが、感情だけの"行けない"は、『俺たち』には許されない」
「っでも…、また足手まといに…」
「俺たちのことを考えるなら、居てくれ。固有能力も含めて、セイバーの使う技は[侵略者]と戦うことでしか身に付かないし、伸びていくことはない。晃司が言ったように、今の君が使える・・・ようになるには、ひたすら実戦を積んでいくしかないんだ」
「……」
「それに…何度も言うが、君の『索敵』は間違いなく有用だ。…時間は可能な限り作る、[奴]の急所を見つけて欲しい。それが君自身を救うことになるだろうし、おしなべてそこに俺たちの勝機がある」
少しずつ潤んでいく大きな瞳へ目元を緩ませ、その頭をくしゃりと撫でると、治療を終えた灯は軽快な所作で立ちあがった。
「泊めるのか? 帰すなら送ってく」
「! いや、泊めるよ。その方が不自由しないだろうし…」
そう返して蒼矢へアイコンタクトを送り、頷いたのを確認すると葉月は玄関へと向かう灯を追う。
「見送りはいらないぞ」
「ううん、ちょっと外まで」
徐々に小さくなっていく二人の会話を耳の端で聞きながら、蒼矢は手元へ視線を落としていた。
「……」
たまった涙が零れ落ちそうになる寸前、眼鏡を外し、袖で目を強くぬぐう。
虚空を見つめる双眸に、少しずつ内の意思が宿っていった。
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