ガイアセイバーズ4 -狭間に咲く蒼の華-

独楽 悠

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本編

第1話_シークレット・ヒーロー

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某月某日。
地球である『現実世界』と次元を異にする『転異空間』と呼ばれる場所に、3人の人間が降り立っていた。
周囲には、おびただしい数の人――否、[人の形を模した何か・・・・・・・・・]が彼らを円状に取り囲み、おぼつかない足取りでじわじわとその距離を詰めていた。見てくれは頭部があり、四肢もあるようだが着衣は無く、全身を茶褐色の粘性のある組織で覆われ、動くたびに前肢の先から糸を引きながら地に滴らせ、後肢のたどった跡を残す。高熱を持つのか体中から漏れ出す蒸気は、空気と混ざって腐臭を放っていた。
「臭ーー!! 鼻曲がっちまう、スーツに臭いバリアは付いてねぇのかよ!!」
「…これでも抑えられてる方だったりして」
「げろげろまじかよ。あー頭痛くなってきた」
「おい、よそ見してるなちゃんとやれ。先手取られるぞ」
そう3人が言葉を交わす最中、距離を詰めきった[異形・・]の群れが、体長の数倍はあるかという高さにまで跳躍し、一挙に彼らへ向け襲い掛かってくる。
鼻先をつまみながら"臭い"アピールしていたひとりが、その突如とした挙動に目をぱちくりとさせると、次いでにやりと笑う。
「あらら後手後手? …上等じゃん」
そう言うと同時に、彼ら3人へ向かっていた群れの最前から後ろ数列まで、頭部が後方へ飛び散った。思考器官を失った身体は後列に落ち、重みと墜落した衝撃で隊列が押し潰されていく。
ひるんだ[異形]達の眼前に、不敵な笑みを浮かべる標的・・と、その手に握られた金色に輝く巨大な弓が映し出されていた。
「触れるもんなら触ってみろよ。…お前ら、『俺』のカモだぜ」
挑発じみた台詞を吐きながら、彼は巨大弓を引き絞る。矢のつがえられていないそれは、数多の光を放射状に放ち、指が弦から離れると一斉に射出されていく。光弾は体勢を立て直しきれていない敵へ向けて万遍なく浴びせかけられ、ぐちゃぐちゃと組織を飛散させながら崩れていく。
その様子を見、弓を降ろすと彼は悦な表情を浮かべた。
「…快感」
「油断するな、サルファー。守ってやらないぞ」
「お前の助けなんざいらねぇよ。『』は黙って見てろ!!」
『サルファー』と呼ばれた光の弓使いは、そう吠え弓を手放すと、両手に別の武器を呼び出す。握った対の細剣を勢いよく振るうと、無数にうごめく敵の群れに突っ込んでいく。手から離れた巨大弓はいつの間にか彼の頭上に浮き、横向きに座す。そして意思を持つように弦が引かれ360度に光弾を生みだすと、彼を中心にマシンガンのように高速射出し始めた。サルファーは光弾に貫かれる異形たちを横目に、撃ちもらした者を走りながら細剣でさばいていく。
そんな彼を、[異形]たちは先ほどのように高く跳躍し、真上から狙う。
「うぜー。 …!」
ちらりと上へ視線をやると、襲いかけていた者たちの体が空中で何かに阻まれ、次々と自身の勢いで潰れていった。まるで透明なガラスのようなものに当たったかのような挙動に、サルファーは舌打ちした。
「余計なことすんじゃねぇよ、ロード。興が冷めるだろーが」
「…防御技持ってないくせに、調子に乗るんじゃない」
「お前馬鹿か? 俺の攻撃は防御も兼ねてんだよ。加えてサルファーは『俺たち』の中で一番攻撃力がある。つまり、俺が一番強い」
『ロード』と呼ばれた彼に鼻を鳴らしてみせた後、サルファーは我に返ったように周囲を見渡し、細剣で肩を軽くトントンと叩いた。
「…とはいえ、面倒臭くなってきたなー。エピドート、雷頼むわ」
「……」
真顔で閉口するロードの隣から『エピドート』と呼ばれたもう一人が歩みだし、手に持つ柄の長い斧を振り上げる。すると、彼の動作に呼応するように上空から空間一帯に稲妻がはしり始めた。雨のように降り注ぐ無数の雷撃に、[異形]はばたばたと地に落ちていく。
「いいーね、派手で」
エピドートへ向けてにやっと口角をあげると、サルファーは雷の雨の中を再び縦横無尽に走り回っていった。
こうして数えきれないほどの群れを成していた[異形]たちは、それを上回る手数を駆る『彼ら』の際限無い攻撃に、それほどかからずに全滅してしまった。
辺り一面に広がる茶色い残骸を見渡しながら、その中心に立つ『3人』は手にしていた得物を空中へかき消した。
「――ひとまず終わりでいい?」
「…[侵略者]が出てこなかったけどな。…仕方ない」
「早く帰ろーぜ、長居してると身体にこいつらの臭い染みついちまいそー」
「そうだね。…お疲れ」
片側の勢力を失った『転異空間』がその役目を終え、『現実世界』へ溶けて消えていく。



『転異空間』がなくなったあとの『現実世界』に、『3人』が戻ってきていた。
先ほど『サルファー』と呼ばれていた男――咲原 晃司サキハラ コウシは戻ってきた地点である神社の参道脇にあった置石に腰を落とすと、広げた片足に頬杖をつく。
「…まーた来なかったな、あの黒助・・
「ああ。…連絡は…、無いよな」
晃司のつぶやきを受け、『ロード』と呼ばれていた咲原 灯サキハラ アカリがもう一人の方へ振り向く。その先に立っていた『エピドート』――楠瀬 葉月クスノセ ハヅキは、黙ったまま頷いた。
「あいつどうやってサボってんの? この辺いるだろ?」
「…『起動装置ペンダント』外してるんじゃないかと思う。だいぶ前たまたま会った時に、首から下がってなかった気がする」
「まじかよぉ!? それアリ!?」
灯の推測に、晃司は目を見開きながら声を荒げた。が、すぐに表情を素に戻すと足許へ視線を投げた。
「あいつならアリか。…不良小僧が」
「…よくやるよな。よほど来たくないんだろうが、そもそも使命感が薄いのかもな」
「毎度ふざけた真似しやがるなー…今度会ったら最低一発は殴る」
「…ごめん。僕が動ければ…こんなことには」
二人のやり取りを黙って聞いていた葉月が、ぽつりと口をもらす。
「! いや、お前を責めてる訳じゃないよ。元々お前だけに頼りきりだった俺たちにも落ち度はある」
「そうだよ。しかも、それ言ったら圧倒的にあいつが悪いだけだからな。くっそー、俺だって就活しながらやってんだぞ…!」
「それはお前が勝手に浪人したからだろ」
「うるせー!! お前とは出来が違うんだよ、悪かったな!」
涼しい顔で水を差す灯へ向けてがなった後、晃司は葉月へ視線をやった。
「どうにしろ、あいつ無しでどうにかなってるからいい。…気にすんな、ただの愚痴だ」
「…そうだな。俺たち3人とも『後発』まで発現してるし、頭数足りなくても現状大きな隙は無いし…あいつの持つ『カード』が使えないのは少し痛いが、倒せれば問題無い」
「…足りねぇと言やぁさぁ、」
灯の物言いに晃司が顔をあげる。
もう一人・・・・いるんだったよな、『俺たち』」
「…ああ」
灯と葉月もそれぞれに反応を返し、3人がお互いを見回した。
「…"水のアズライト"か。長らく空席の『5人目』」
「情報少な過ぎな。『回想』にもほとんど引っかかってこねぇんだろ?」
「うん…全部を洗ったわけじゃないけど、他4人に比べて圧倒的に記録が無い。判ってるのは使う属性くらいで、あとは…攻撃型なのか防御型なのかもはっきりしないんだ」
やはりすまなそうに話す葉月を気遣いながら、灯が再び推測を述べる。
「何か特殊な能力を持ってるのかもな。それで適合者がほとんど出てこない」
「おいおい、期待しちまうじゃねぇかよ。俺らの代で出てこねぇかなってさ」
「そうだね。…5人揃って初めて『セイバーズ』なんだからね」
葉月の柔らかい言葉に、晃司がにやっと笑ってみせた。
「まーな。…来たらラッキーくらいに思っとくわ。現状でも4人いるはずのとこ3人でやりくりしてるんだからな、高望みはしねぇよ」
そして晃司が腰をあげ、解散の流れになる。
神社敷地内の自宅へ戻りかける葉月に、灯が声を掛けた。
「葉月、気をつけてろよ。次の出現場所も"神社ここ"だ、少しでも異変感じたらすぐ連絡しろ」
「わかった、ありがとう」
「あー、葉月悪い風呂貸してくれ。今すぐ入りてぇ。なんか体が汚くなってる気がする…おえぇ」
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