上 下
22 / 23
本編

第21話_覚醒める藍銅鉱

しおりを挟む
「…っうぅっ…あ…」
まるで焼け石を押し付けられているかのように、左胸が高温の掌に焦がされていった。鮮やかな青い刻印が、[蔓]の手の中でその色を鈍らせていく。
「…いや…だ…っ…」
苦悶の表情を浮かべながら、アズライトは弱々しく頭を左右に振り続けていた。
…もう、失いたくない…!!
その時、身体の奥底で、温かな何かが鼓動した。
…"アズライト"…
頭の中に、自分のものではない声が響く。

「ぐあああぁぁっ!!!」

にわかに空間に響き渡った野太い咆哮に、セイバー達の目が見開かれる。
彼らを遮るようにうごめいていた巨木の[異形]達が、その咆哮が聞こえた途端驚くように一瞬どよめいた後、動きが緩慢になっていく。
四人は枝根を払い、装具を構えながら[蔓]とアズライトの元へ距離を詰めていく。
「っぐおおぉぉっ…!!」
咆哮は、[蔓]から発せられたものだった。アズライトの左胸に当てていた手を振り上げ、逆の手でその腕を抑えつつ、何かをこらえるように体を震わせている。
そして、未だ疲弊しきった面持ちで吊り下げられているアズライトへ、驚愕と疑念が入り混じったような顔を向ける。
「なん…ダ、」
次の瞬間、[蔓]の胸部に何かが撃ち込まれ、背面へと貫かれた。
徐々に距離を詰めていた四人にも、その瞬間ははっきり確認できた。度重なる異変に、思わず挙動が止まる。
「…!?」
「何だ…あれ」
[蔓]の背面から突き出たそれは、鋭く伸びる巨大な氷塊だった。その氷塊を起点とし、小さな結晶柱がパキパキと音をたてながら放射状に広がり、[蔓]の胴体を見る間に侵食していく。
「あ……ガ、ァ」
[蔓]は凄まじい形相を晒しながら、人間離れした挙動で痙攣し始めた。頭や腰が四方に振られ、まともな動作ができなくなっていく。
[侵略者]の異変が影響しているのか、セイバー達を囲む巨木の大群は一挙にしなだれていき、アズライトを吊っていた巨木も力を失い、拘束が解かれる。
地に落ちたアズライトは、ゆっくりと[蔓]へと視線を上げていった。
「……」
[蔓]の胸部からは、剣の柄のようなものが生え出ていた。いや、生えるというよりは、自分の身体から飛び出していったように感じられていた。凍てつくような冷気を漂わせ、[蔓]の体から氷の結晶柱を次々に生み出していく。
[蔓]に異変が起きてから後、アズライトの身体の催淫反応はピタリとおさまっていた。立ち上がり、その氷気を宿した剣を黙ったまま見つめる。
…"ツルギの戦士 アズライト"…
再び、頭に言葉が降りてくる。
アズライトは、剣を手に取れと言われた気がした。
柄を握ると、呼応してアズライトの胸の刻印が水滴様から結晶様へ変化する。後発属性が発現した証だ。
そして、一気に[蔓]の身体から引き抜いた。柄から先端までがアズライトの胸の高さに届くかという、その全貌が露わになる。
驚くほど軽いそれは、水晶で出来たような、刀身の透けた大剣だった。
「剣…なのか」
「でけぇっ…!」
「……『氷柱ツララ』だ」
セイバー達がその装具の姿にそれぞれ驚く中、エピドートは小さく呟いていた。オニキスが横目で彼に視線を送る。
「お前のと張るかもな」
「いや…あれはそういうレベルを超えてるよ。…比較にならない」
アズライトは、その壮麗な刀身に魅入られるように眺めていた。
鉱石を取り戻した時に感じたごくわずかな温もりが、身体の中でゆっくりと鼓動し、広がっていくのがわかった。アズライトの中に芽生えた『凍氷』の力に、『氷柱』が共鳴するように光を反射した。
ロードナイトが声をかける。
「アズライト! やれるか!?」
アズライトは振り向き、無言で頷いた。『氷柱』を一振りし、[蔓]へ剣先を向ける。
既に胸部を氷の結晶で埋め尽くされ、手の先まで凍りついた[蔓]は、言語にならないうめき声を途切れとぎれにあげていた。眼球が八方へ小刻みに動き、あれだけ執着していた目の前にいるアズライトすら、もはや視認できないようだった。
その敵性生物・・・・へ、アズライトは静かな視線を送る。
「…[異界]の塵に還れ、[蔓]」
そしてその眉間へ向けて、風を切るように振り降ろした。切っ先がかすめた眉間から無数の氷の柱が伸び、増殖し、瞬く間に頭部を覆い尽くす。その速度のまま全身へ及び、中心からひび割れて崩れ落ちた。
[蔓]の身体は消え、後には大量の細かな氷のかけらだけが残る。
[蔓]が消えると同時に、巨木の[異形]もその全てが跡形もなく消えてなくなった。

全ての[脅威]が、空間から去った。

「…やったな!」
見守っていたセイバー達は、すぐさまアズライトへ駆け寄った。[蔓]を倒し、その場に座り込んでいたアズライトの手から『氷柱』が消え、それを支えにしていた身体が横に傾く。
「! っと…」
寸でのところでエピドートが受け止め、アズライトの身体を優しく抱きかかえる。
「良く頑張ってくれた。…お疲れ、蒼矢」
その温かな腕の中で、蒼矢は穏やかな表情で薄く頷き、静かに目を閉じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

みなしご白虎が獣人異世界でしあわせになるまで

キザキ ケイ
BL
親を亡くしたアルビノの小さなトラは、異世界へ渡った────…… 気がつくと知らない場所にいた真っ白な子トラのタビトは、子ライオンのレグルスと出会い、彼が「獣人」であることを知る。 獣人はケモノとヒト両方の姿を持っていて、でも獣人は恐ろしい人間とは違うらしい。 故郷に帰りたいけれど、方法が分からず途方に暮れるタビトは、レグルスとふれあい、傷ついた心を癒やされながら共に成長していく。 しかし、珍しい見た目のタビトを狙うものが現れて────?

産卵おじさんと大食いおじさんのなんでもない日常

丸井まー(旧:まー)
BL
余剰な魔力を卵として毎朝産むおじさんと大食らいのおじさんの二人のなんでもない日常。 飄々とした魔導具技師✕厳つい警邏学校の教官。 ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。全15話。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

旦那様と僕・番外編

三冬月マヨ
BL
『旦那様と僕』の番外編。 基本的にぽかぽか。

処理中です...