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本編
第21話_覚醒める藍銅鉱
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「…っうぅっ…あ…」
まるで焼け石を押し付けられているかのように、左胸が高温の掌に焦がされていった。鮮やかな青い刻印が、[蔓]の手の中でその色を鈍らせていく。
「…いや…だ…っ…」
苦悶の表情を浮かべながら、アズライトは弱々しく頭を左右に振り続けていた。
…もう、失いたくない…!!
その時、身体の奥底で、温かな何かが鼓動した。
…"アズライト"…
頭の中に、自分のものではない声が響く。
「ぐあああぁぁっ!!!」
にわかに空間に響き渡った野太い咆哮に、セイバー達の目が見開かれる。
彼らを遮るようにうごめいていた巨木の[異形]達が、その咆哮が聞こえた途端驚くように一瞬どよめいた後、動きが緩慢になっていく。
四人は枝根を払い、装具を構えながら[蔓]とアズライトの元へ距離を詰めていく。
「っぐおおぉぉっ…!!」
咆哮は、[蔓]から発せられたものだった。アズライトの左胸に当てていた手を振り上げ、逆の手でその腕を抑えつつ、何かをこらえるように体を震わせている。
そして、未だ疲弊しきった面持ちで吊り下げられているアズライトへ、驚愕と疑念が入り混じったような顔を向ける。
「なん…ダ、」
次の瞬間、[蔓]の胸部に何かが撃ち込まれ、背面へと貫かれた。
徐々に距離を詰めていた四人にも、その瞬間ははっきり確認できた。度重なる異変に、思わず挙動が止まる。
「…!?」
「何だ…あれ」
[蔓]の背面から突き出たそれは、鋭く伸びる巨大な氷塊だった。その氷塊を起点とし、小さな結晶柱がパキパキと音をたてながら放射状に広がり、[蔓]の胴体を見る間に侵食していく。
「あ……ガ、ァ」
[蔓]は凄まじい形相を晒しながら、人間離れした挙動で痙攣し始めた。頭や腰が四方に振られ、まともな動作ができなくなっていく。
[侵略者]の異変が影響しているのか、セイバー達を囲む巨木の大群は一挙にしなだれていき、アズライトを吊っていた巨木も力を失い、拘束が解かれる。
地に落ちたアズライトは、ゆっくりと[蔓]へと視線を上げていった。
「……」
[蔓]の胸部からは、剣の柄のようなものが生え出ていた。いや、生えるというよりは、自分の身体から飛び出していったように感じられていた。凍てつくような冷気を漂わせ、[蔓]の体から氷の結晶柱を次々に生み出していく。
[蔓]に異変が起きてから後、アズライトの身体の催淫反応はピタリとおさまっていた。立ち上がり、その氷気を宿した剣を黙ったまま見つめる。
…"剣の戦士 アズライト"…
再び、頭に言葉が降りてくる。
アズライトは、剣を手に取れと言われた気がした。
柄を握ると、呼応してアズライトの胸の刻印が水滴様から結晶様へ変化する。後発属性が発現した証だ。
そして、一気に[蔓]の身体から引き抜いた。柄から先端までがアズライトの胸の高さに届くかという、その全貌が露わになる。
驚くほど軽いそれは、水晶で出来たような、刀身の透けた大剣だった。
「剣…なのか」
「でけぇっ…!」
「……『氷柱』だ」
セイバー達がその装具の姿にそれぞれ驚く中、エピドートは小さく呟いていた。オニキスが横目で彼に視線を送る。
「お前のと張るかもな」
「いや…あれはそういうレベルを超えてるよ。…比較にならない」
アズライトは、その壮麗な刀身に魅入られるように眺めていた。
鉱石を取り戻した時に感じたごくわずかな温もりが、身体の中でゆっくりと鼓動し、広がっていくのがわかった。アズライトの中に芽生えた『凍氷』の力に、『氷柱』が共鳴するように光を反射した。
ロードナイトが声をかける。
「アズライト! やれるか!?」
アズライトは振り向き、無言で頷いた。『氷柱』を一振りし、[蔓]へ剣先を向ける。
既に胸部を氷の結晶で埋め尽くされ、手の先まで凍りついた[蔓]は、言語にならないうめき声を途切れとぎれにあげていた。眼球が八方へ小刻みに動き、あれだけ執着していた目の前にいるアズライトすら、もはや視認できないようだった。
その敵性生物へ、アズライトは静かな視線を送る。
「…[異界]の塵に還れ、[蔓]」
そしてその眉間へ向けて、風を切るように振り降ろした。切っ先がかすめた眉間から無数の氷の柱が伸び、増殖し、瞬く間に頭部を覆い尽くす。その速度のまま全身へ及び、中心からひび割れて崩れ落ちた。
[蔓]の身体は消え、後には大量の細かな氷のかけらだけが残る。
[蔓]が消えると同時に、巨木の[異形]もその全てが跡形もなく消えてなくなった。
全ての[脅威]が、空間から去った。
「…やったな!」
見守っていたセイバー達は、すぐさまアズライトへ駆け寄った。[蔓]を倒し、その場に座り込んでいたアズライトの手から『氷柱』が消え、それを支えにしていた身体が横に傾く。
「! っと…」
寸でのところでエピドートが受け止め、アズライトの身体を優しく抱きかかえる。
「良く頑張ってくれた。…お疲れ、蒼矢」
その温かな腕の中で、蒼矢は穏やかな表情で薄く頷き、静かに目を閉じた。
まるで焼け石を押し付けられているかのように、左胸が高温の掌に焦がされていった。鮮やかな青い刻印が、[蔓]の手の中でその色を鈍らせていく。
「…いや…だ…っ…」
苦悶の表情を浮かべながら、アズライトは弱々しく頭を左右に振り続けていた。
…もう、失いたくない…!!
その時、身体の奥底で、温かな何かが鼓動した。
…"アズライト"…
頭の中に、自分のものではない声が響く。
「ぐあああぁぁっ!!!」
にわかに空間に響き渡った野太い咆哮に、セイバー達の目が見開かれる。
彼らを遮るようにうごめいていた巨木の[異形]達が、その咆哮が聞こえた途端驚くように一瞬どよめいた後、動きが緩慢になっていく。
四人は枝根を払い、装具を構えながら[蔓]とアズライトの元へ距離を詰めていく。
「っぐおおぉぉっ…!!」
咆哮は、[蔓]から発せられたものだった。アズライトの左胸に当てていた手を振り上げ、逆の手でその腕を抑えつつ、何かをこらえるように体を震わせている。
そして、未だ疲弊しきった面持ちで吊り下げられているアズライトへ、驚愕と疑念が入り混じったような顔を向ける。
「なん…ダ、」
次の瞬間、[蔓]の胸部に何かが撃ち込まれ、背面へと貫かれた。
徐々に距離を詰めていた四人にも、その瞬間ははっきり確認できた。度重なる異変に、思わず挙動が止まる。
「…!?」
「何だ…あれ」
[蔓]の背面から突き出たそれは、鋭く伸びる巨大な氷塊だった。その氷塊を起点とし、小さな結晶柱がパキパキと音をたてながら放射状に広がり、[蔓]の胴体を見る間に侵食していく。
「あ……ガ、ァ」
[蔓]は凄まじい形相を晒しながら、人間離れした挙動で痙攣し始めた。頭や腰が四方に振られ、まともな動作ができなくなっていく。
[侵略者]の異変が影響しているのか、セイバー達を囲む巨木の大群は一挙にしなだれていき、アズライトを吊っていた巨木も力を失い、拘束が解かれる。
地に落ちたアズライトは、ゆっくりと[蔓]へと視線を上げていった。
「……」
[蔓]の胸部からは、剣の柄のようなものが生え出ていた。いや、生えるというよりは、自分の身体から飛び出していったように感じられていた。凍てつくような冷気を漂わせ、[蔓]の体から氷の結晶柱を次々に生み出していく。
[蔓]に異変が起きてから後、アズライトの身体の催淫反応はピタリとおさまっていた。立ち上がり、その氷気を宿した剣を黙ったまま見つめる。
…"剣の戦士 アズライト"…
再び、頭に言葉が降りてくる。
アズライトは、剣を手に取れと言われた気がした。
柄を握ると、呼応してアズライトの胸の刻印が水滴様から結晶様へ変化する。後発属性が発現した証だ。
そして、一気に[蔓]の身体から引き抜いた。柄から先端までがアズライトの胸の高さに届くかという、その全貌が露わになる。
驚くほど軽いそれは、水晶で出来たような、刀身の透けた大剣だった。
「剣…なのか」
「でけぇっ…!」
「……『氷柱』だ」
セイバー達がその装具の姿にそれぞれ驚く中、エピドートは小さく呟いていた。オニキスが横目で彼に視線を送る。
「お前のと張るかもな」
「いや…あれはそういうレベルを超えてるよ。…比較にならない」
アズライトは、その壮麗な刀身に魅入られるように眺めていた。
鉱石を取り戻した時に感じたごくわずかな温もりが、身体の中でゆっくりと鼓動し、広がっていくのがわかった。アズライトの中に芽生えた『凍氷』の力に、『氷柱』が共鳴するように光を反射した。
ロードナイトが声をかける。
「アズライト! やれるか!?」
アズライトは振り向き、無言で頷いた。『氷柱』を一振りし、[蔓]へ剣先を向ける。
既に胸部を氷の結晶で埋め尽くされ、手の先まで凍りついた[蔓]は、言語にならないうめき声を途切れとぎれにあげていた。眼球が八方へ小刻みに動き、あれだけ執着していた目の前にいるアズライトすら、もはや視認できないようだった。
その敵性生物へ、アズライトは静かな視線を送る。
「…[異界]の塵に還れ、[蔓]」
そしてその眉間へ向けて、風を切るように振り降ろした。切っ先がかすめた眉間から無数の氷の柱が伸び、増殖し、瞬く間に頭部を覆い尽くす。その速度のまま全身へ及び、中心からひび割れて崩れ落ちた。
[蔓]の身体は消え、後には大量の細かな氷のかけらだけが残る。
[蔓]が消えると同時に、巨木の[異形]もその全てが跡形もなく消えてなくなった。
全ての[脅威]が、空間から去った。
「…やったな!」
見守っていたセイバー達は、すぐさまアズライトへ駆け寄った。[蔓]を倒し、その場に座り込んでいたアズライトの手から『氷柱』が消え、それを支えにしていた身体が横に傾く。
「! っと…」
寸でのところでエピドートが受け止め、アズライトの身体を優しく抱きかかえる。
「良く頑張ってくれた。…お疲れ、蒼矢」
その温かな腕の中で、蒼矢は穏やかな表情で薄く頷き、静かに目を閉じた。
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