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本編

第11話_決起-2

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その日の夜、めいめいに楠瀬クスノセ邸で過ごした男4人は、そのまま狭々しく夕食を囲った。
食後、この際だからと影斗エイトが冷蔵庫から葉月ハヅキの晩酌用の日本酒を取り出し、居間のテーブルに置く。
「おぉい影斗、やるんか? 駄目だってー」
「どう考えたってやるだろ、こんな好機。もうお前も二十歳だもんな! そうじゃなくても飲ませるけどな!」
口ぶりとは裏腹に表情がにやけるレツの前に、影斗は小気味良い音をたてながらグラスを置く。
「…君たち、ほどほどにしておきなよ? 今日だけじゃなく、明日もあるんだからね…?」
そして2人へ優しく咎めるように声をかけつつも、葉月は冷凍庫から冷やしておいたキンキンのマイお猪口を出すと、ごく自然な所作で影斗の前に置いた。
「そっちこそほどほどにしとけよ。…何で毎回お前が一番ノリノリなんだ?」
げとばかりに目の前に置かれた鶯色のお猪口を見、影斗は顔をしかめながら額を押さえた。
「お前は?」
「結構です」
影斗に問われ、蒼矢ソウヤはため息混じりに即遠慮すると、痛み止めを飲み下して居間を退出していく。
「…!」
始まりかけた宴会の声を後ろに聞きつつ、ふすまを閉めようとした蒼矢はふと足を止めた。
立ち尽くす彼へ、いち早く気付いた烈が声をかける。
「どうした? 蒼矢」
「…来た」
ぼそりともれたその言葉に、3人が一斉に反応する。
影斗は開けかけた酒瓶の栓を閉め、舌打ち混じりに毒づいた。
「空気の読めねぇ野郎共だ。…酒盛りはお預けだな」



暗がりの中、4人は楠瀬邸を出ると車に乗り込み、蒼矢のナビで[異界のもの]が出現しただろう場所へと向かう。
辿り着いた場所は住宅街に囲まれた小さな公園で、まばらに生える木々は黒々しく、葉音ががさがさと耳障りな音をたてていた。
今までの事例に倣い、全員が臭気を避けるため鼻と口を覆い、その怪しげな空気を纏う空間を見上げていた。
「――どうだ?」
「まだこの場にはいません。かすかに気配は感じますが…」
[侵略者]が現れない中、周囲の空気は少しずつ湿気て、重くなっていく。
「…! 臭ってきたな。空気もうぜぇぐらいジメジメしてやがる」
「そうだね…すぐにでも"狩場"が作られそうだけど、[異形]だけじゃなく、[侵略者]――もしくは[彼]が現れるまで待った方がいいかな」
「起動装置が反応しても、待機すか? 確かに、焦ると前回みたいに空振りになるかもしれねぇけど…」
そう4人が交わし合う中、ふと上空から微かな嗤い声が葉音に混ざって届いた。
「…!!」
揺らめく木々の更に上空に、首から足先までを黒い装いに身を包み、黒髪を温い風になびかせながら、[リン]が現れた。
木の上に立っているわけではなく宙に浮き、月の光がぼんやりと届く夜空を背景に、体長の3倍以上の幅があろうかという大きな黒い薄翅を背中に羽ばたかせている。周囲には無数の黒い蟲が、彼に寄り添うように空中にうごめいている。
「…立羽タテハ…」
呟くように漏れた蒼矢の声に、[鱗]は彼を見下ろしながら黒目を細め、にやりと口角を上げた。
「お望み通り、来てあげましたよ。転送できない僕を[この子たち]と一緒に送って、始末したかったんでしょう?」
ついで、傍らで同じように己を見上げる影斗へ視線を移し、うって変わって頬を染めながらうっすらと微笑った。
「エイト先輩…来てくれたんですね。"本当の僕"の姿を見せることができて、嬉しいです」
「…そうかよ、俺は残念でならねぇな。お前のことを見抜けなかった自分てめぇが、ただただ腹立たしいぜ」
そう吐き捨てたところで、木々が一斉に耳が痛くなるほどざわめき、『セイバー』たちの胸元が発光する。
「――準備は整った。…2人とも、大丈夫?」
「本当に転送していいんだな?」
葉月と烈が、蒼矢と影斗へ視線を送り、再確認を促す。双方のその真剣な眼差しを受け、2人同時に頷き返した。
「…行くか」
烈は、胸の前に紅く輝くロードナイト鉱石を握った。
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