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本編
第6話_変遷していく想い-1
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次の日の夕方、午後いっぱいかかった配達から戻った烈は、ガレージにトラックを停めると表から丁度客人のいない店内を通り過ぎ、大きく息を吐き出しながら店奥の上がり口へ腰を下ろした。
「――こら烈。帰ってくる時は勝手口からっていつも言ってるでしょ」
頭の後ろを小突かれ、振り向くと母・珠代が呆れ顔で立っていた。
「いいじゃん、誰も客いねぇんだし。疲れてんだからちょい休ませてくれよ」
「二十歳なりたての若者が、なにが疲れたよ。もっと根性見せな。…残り時間店番、頼んだわよ」
「へいへい」
気だるそうに返事をする息子へ、珠代はじろりと視線を送った後、そっぽを向きながらぽつりとつぶやいた。
「夕飯はカレーにしようかしらね」
「!! よーし、なんか急にやる気出てきたわ。後は任せろ!」
「…単純な子だねぇ…」
好物を口にした途端に態度が一変した息子に珠代は呆れつつ、次いでふと何事かを思い出したのか、あぁと続ける。
「そう言えばこの間、あんたが要さんちに行ってた日に、蒼ちゃん来てたわよ」
「! …ふーん、そうだったんだ」
"要さんち"とは陽の家で、母親同士が姉妹な関係で親戚付き合いがあった。もちろん烈と陽も『セイバー』である以前に従兄弟同士として交流がある。
烈が思い当たる"この間"とは、配達ついでに要家で夕食のご相伴に預かった日で、二十歳になったばかりの烈は陽父に成人祝いだと酒をしこたま振る舞われ、結局朝帰りした記憶が残っている。
蒼矢が顔を見せに来たのはおそらく、先日自分が彼にけしかけたからだろうとすぐに察しがついた。
「丁度良い時間だったから、夕飯一緒にどうかって言ったんだけど、あんたがいないからか遠慮されちゃってね」
「…そっか。タイミングが悪かったな」
「ほんとよぉ、折角久し振りに来てくれたのに。…あんたさ、あの子に会ったらまた誘っといてくれない?」
「了解ー」
そう返すと烈は上がり口から腰を上げ、店のカウンターへ向かう。
「――あっ、そうだそうだ」
烈の背中を目で追い、きびすを返しかけた珠代は、急に思い出したように声を出し、一度家の奥へ引っ込むとなにやら小さい手提げを持って戻ってくる。
「店番はやっぱりいいわ。――これ」
「? …! ああ」
差し出された手提げへ目を落とし、一瞬首を傾げた烈もすぐに理解ができる。
「今日、お父ちゃんの月命日だから。私昼間行けなかったから、あんただけで行ってきて」
「おう」
手提げには線香にライターに数珠と、墓参りセット一式が入っていた。
烈は前掛けを外して陳列棚のビールをひとつ手に取り、手提げを指にぶら下げると夕焼けの中、父の眠る霊園へと向かった。
「――こら烈。帰ってくる時は勝手口からっていつも言ってるでしょ」
頭の後ろを小突かれ、振り向くと母・珠代が呆れ顔で立っていた。
「いいじゃん、誰も客いねぇんだし。疲れてんだからちょい休ませてくれよ」
「二十歳なりたての若者が、なにが疲れたよ。もっと根性見せな。…残り時間店番、頼んだわよ」
「へいへい」
気だるそうに返事をする息子へ、珠代はじろりと視線を送った後、そっぽを向きながらぽつりとつぶやいた。
「夕飯はカレーにしようかしらね」
「!! よーし、なんか急にやる気出てきたわ。後は任せろ!」
「…単純な子だねぇ…」
好物を口にした途端に態度が一変した息子に珠代は呆れつつ、次いでふと何事かを思い出したのか、あぁと続ける。
「そう言えばこの間、あんたが要さんちに行ってた日に、蒼ちゃん来てたわよ」
「! …ふーん、そうだったんだ」
"要さんち"とは陽の家で、母親同士が姉妹な関係で親戚付き合いがあった。もちろん烈と陽も『セイバー』である以前に従兄弟同士として交流がある。
烈が思い当たる"この間"とは、配達ついでに要家で夕食のご相伴に預かった日で、二十歳になったばかりの烈は陽父に成人祝いだと酒をしこたま振る舞われ、結局朝帰りした記憶が残っている。
蒼矢が顔を見せに来たのはおそらく、先日自分が彼にけしかけたからだろうとすぐに察しがついた。
「丁度良い時間だったから、夕飯一緒にどうかって言ったんだけど、あんたがいないからか遠慮されちゃってね」
「…そっか。タイミングが悪かったな」
「ほんとよぉ、折角久し振りに来てくれたのに。…あんたさ、あの子に会ったらまた誘っといてくれない?」
「了解ー」
そう返すと烈は上がり口から腰を上げ、店のカウンターへ向かう。
「――あっ、そうだそうだ」
烈の背中を目で追い、きびすを返しかけた珠代は、急に思い出したように声を出し、一度家の奥へ引っ込むとなにやら小さい手提げを持って戻ってくる。
「店番はやっぱりいいわ。――これ」
「? …! ああ」
差し出された手提げへ目を落とし、一瞬首を傾げた烈もすぐに理解ができる。
「今日、お父ちゃんの月命日だから。私昼間行けなかったから、あんただけで行ってきて」
「おう」
手提げには線香にライターに数珠と、墓参りセット一式が入っていた。
烈は前掛けを外して陳列棚のビールをひとつ手に取り、手提げを指にぶら下げると夕焼けの中、父の眠る霊園へと向かった。
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