ガイアセイバーズ5 -歪な虚構の翅-

独楽 悠

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本編

第5話_爪立てはじめる日常-2

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同じ研究室棟の小さな一室に入り、先に通された蒼矢ソウヤは奥へ進み、荷物を脇机に置く。
「で、教えて欲しいところって…」
振り返ると、1年生2人は扉を閉め、荷物を足元へ放る。先ほどまで見せていたどこか不自然な媚びた表情は消え、真顔から鋭い視線を送りながらゆっくりと歩み寄って来た。彼らの変貌に、蒼矢の面差しが緊張感を帯びる。近付く彼らへ視線を返しつつ距離をとり、後ずさっていく。
「……目的が違ってるんじゃないか?」
「違わないですよ。単なる口実・・です」
「どういうつもりか知らないけど、場所を考えろ。…ただじゃ済まないぞ」
「大丈夫ですよ、先輩の口を封じれば済むことですから」
壁際まで追い込まれた蒼矢は諭すように言葉を投げるが、2人は聞く耳を持たず、逆に圧をかけるように顔を寄せてくる。
「…ホント、綺麗な顔してますね、あんた。今までこの距離でまじまじ見たことなかったけど、やっぱすげぇや。…うっかり惚れそー」
「おい、血迷うなよ?」
「わかってるって。…つまりね先輩、同じ学部に"同じような存在"は二人も要らないってことです。世代交代ってやつですかね」
睨みながら婉曲的にのたまう彼らの言に、鈍いなりにも、おそらく自分がリンと比較されていると当たりがつく。
「あんた、目立ち過ぎなんだよ。教授陣からの扱いも違うし…そので取り入ったんだろうけどさ。どういう手使ったんだか…美人は得だよな」
「先輩がいる限り立羽タテハは容姿で比べられるし、教授や助教に取り入ろうとしたところで、贔屓されてるあんたから教われって流れになっちゃいそうでしょ? …この学部で立羽が唯一になるのに、先輩は邪魔なんです」
無茶苦茶な物言いをする1年生たちを、蒼矢は沈黙を保ったまま静かに見返していた。彼のその様子を委縮して言い返せないと判断したか、2人はやや表情を緩め、鼻で息をついた。
「…つーわけで、ちょっと大人しくしといて欲しいんです。どうしようかなー、こっちの言うこと聞いてくれるんなら、手荒にはしないけど?」
「えぇ、やらねぇの? 既成事実・・・・作っちまうのが一番手っ取り早いと思うんだけど」
「やっぱそうするか。…じゃ、恥ずかしいショット1枚くらい貰っておきますか。ね、先輩」
そう言うと、ひとりが口元を嫌らしくにやつかせながら蒼矢の肩を突いて壁に押し付け、襟元に手をかけた。
瞬間後、その伸ばした両腕が掴まれたと思うと、視界がぐるりと天井を向き、背中に鈍い衝撃が走る。
「…!? っだぁ……!」
「は…!?」
倒れ込んだ1年は呆けた後痛みに身をよじらせ、もう1人はその一瞬の出来事に目を点にし、仰向けに寝転がる片割れをぽかんと眺めてから、蒼矢へと振り向く。技をかけた相手を見下ろしていた蒼矢は、固まっているもう1人を鋭く見据えた。
「…くそっ…!!」
頭が真っ白になってしまったか、残った1年は拳を構えながら蒼矢へ迫った。が、がむしゃらに振り被った腕は軽く突き出された掌にいなされ、バランスを失って足元から崩れ、派手にすっ転んだ。
「っ…?」
空振った相手を避け、体が横を通り抜ける瞬間、空気に違和感を覚える。が、微かなそれは確かめる間もなくすぐにかき消えてしまった。
蒼矢は呼吸を整えてから荷物を取り、床を這う1年生たちへ視線を送る。
「…今あったことは、誰にも言わない。俺の中で無かったことにする。…だから君たちも口外するな」
そう言い残すと、背を向けて研究室を後にした。



ドアを閉め、蒼矢は急ぎ足でその場を離れていく。
いまだ高鳴る心臓を落ち着かせるように深く呼吸をし、平常心を取り戻そうとするものの、表情は強張ったままだった。
「…っ…」
こんなことレツ影斗エイト先輩に話したら、またどやされるな…
自分の脇の甘さを痛感しつつ、ふとさっき一瞬感じた"空気"を思い出す。
…臭いが、"昨日"と一緒だった…でも、鉱石に反応は無かった。
「……」
不安要素を残しながらもひとまず内に留めることにし、遅れかけている目下のスケジュールへと意識を向けていった。



「……」
残された2人は、蒼矢が消えた入口ドアをしばらく呆けた表情で眺めていたが、思い出したようにおぼつかない仕草でスマホを取り出し、いずこかへかけ始める。
「…もしもしっ? …悪い、失敗したっ…、なんかすげぇ強かったぞ!? 聞いてねぇよあんなんっ…!!」
『――』
「ぇえっ…!? そんな…っ…、どうすんだよ俺ら、来週の授業で顔合わせるのにっ…!!」
『――.』
「!? おいっ…もしもし、もっ…、…!!」
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