上 下
12 / 51
本編

第3話_可憐な美青年-2

しおりを挟む
ひとしきり拝謁の儀を済ませ、影斗エイト蒼矢ソウヤの向かいに腰かける。
「また寂しくひとり飯か。なんかお前見る度にぼっちじゃね?」
「…たまたまです。いつもそうみたいに言わないで下さい」
「やっぱT大は格が違うよなー、食堂3つもある上にどれも安くて美味いし、カフェまで入ってるし。今からでも編入したいくらい」
「卒業年の人が何を言ってるんだか…動機も不純過ぎます。…いつからいるんですか?」
「昼前。ぶらぶらしてりゃあその内お前見つかるかなって」
頬杖をつきながら悪戯っぽく笑顔を送ってくる影斗の顔を見、蒼矢は短くため息を漏らしてから再びパンをかじりだした。
「――そうそう、さっき理学部棟覗いた時にいた奴らの中にお前いなかったけど、どこで何してたの?」
「…!? そんなところまで見に行ってたんですか?」
「そんな目くじら立てんなって。結果いなかったんだからいいじゃねぇか」
「そういう問題じゃないんですが。…午前中は午後のコマの準備で、2年は理化学研究センターにいたんです。先輩が見たのは多分1年生ですよ」
「なるほどね、どうりで見たことない顔しかいなかったわけだ」
そらを見つつ得心した後、何かに気付いたのか影斗はにやりと蒼矢へ視線を戻す。
「そういや、窓越しに見てたらその1年連中の1人に気付かれちまったんだけどさ、そいつが割と可愛い顔してたんだよなー」
「? …女の子ですか?」
「いや、男。お前の学部に女子いねぇだろ。驚かれるか睨まれるかと思ったら、目が合ったら微笑んできやがったぜ。…あれは俺に惚れたね、確実に」
「…そうですか…」
にやつきながらややオーバー気味に評してみせたが、何とも言えない微妙な反応を返すにとどまった蒼矢に、影斗は嘆息をつく。
「…まぁいいや。お前、この後どうすんの?」
「当然午後のコマです、今日は1年と合同の研究授業が控えてますので」
「じゃあ適当に暇つぶしてるわ。一緒に帰ろうぜ」
「え…? まだだいぶ時間かかりますよ?」
「大丈夫大丈夫、俺今日一日フリーだし」
「…困ります。先輩に待たれてるなんて、俺が気が気じゃない」
「待ってねぇって、俺はここで好きに時間費やすだけだって。お前はお前で予定通り勉強やって、帰る時間が同じなだけ。…だろ?」
そう言い、困惑顔を浮かべる蒼矢へニッと笑うと、彼の空になったパントレイを手に預かる。
「…適当に帰って下さいね、本当に」
「おー、頑張れよ」
ゆるい感じでひらひらと手を振ってみせる影斗を背中に、蒼矢は念を押すように声をかけながら、理学部棟へと遠ざかっていった。
しおりを挟む

処理中です...