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本編
第2話_遠方からの訪問者-2
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高校一年生である陽と大学二年生の蒼矢は、歳が少し離れているものの、"蒼矢の幼馴染"を通じて学童期から交流がある間柄だ。少し出来の悪い陽が、国内有数の進学校を首席で卒業したレベルの聡明な蒼矢を勉学で頼るようになり、高校受験以降、定期考査時期にはこうして陽が約束を取り付けてテスト前勉強をお願いしている。実際、通学利便性を優先してややレベルの高い高校を選んでしまった陽は、授業についていくのにかなり苦慮していて、蒼矢のアシストが無ければ毎度赤点を量産するかしないかの瀬戸際という状態だった。
いつもはだいたい蒼矢の自宅で行われているが、今日は蒼矢側の都合で葉月宅で開催となった。
ここ楠神社は武道教室である楠道場を開いてもいて、神社の宮司兼道場の師範である葉月の指導のもと、小規模で和気あいあいとした空気感で生徒たちは日々鍛錬に励んでいる。蒼矢もそのひとりであり、稽古日と陽からの依頼がブッキングしてしまったわけだが、陽には稽古が終わるタイミングで来てもらうようにし、そのまま葉月宅で開講しようということになったのだった。
2人の講座風景を眺めつつ、齢26を数える社会人・葉月は、サンドイッチを口にくわえながら物理のテキストをめくり始める。
「今の高校生はレベル高いことやってるなぁ。僕もうちんぷんかんぷんだよ」
葉月も頭は良い方だったが、理系寄りのオールラウンダーな蒼矢に対し、彼は完全に文系人間だった。
「月兄は今夜、古文と漢文教えてね。俺今日泊まってくから!」
「いいよいいよ、それなら僕の得意分野」
あっけらかんとのたまう陽に目を丸くし、慌てた風に葉月へ視線を流す蒼矢だったが、予想外に頼られたからか嬉しそうに了承する葉月を見、杞憂だったと内心胸をなでおろす。
「客間用意しとかないとね。寝間着も要るよね?」
「あ、大丈夫スウェット持ってきたから。俺あのジュバンってやつどうも苦手でさ。しかも朝起きたら帯ほどけて、絶対パンイチになっちゃってるんだよねー」
「……」
「そっかぁ…洋装のパジャマも用意するようにしようかなぁ」
「いやまぁ、俺みたいに来る奴に持たせればいいじゃん。月兄は和服貫けばいいと思うよ!」
「…そうかな。ありがとね陽、気遣ってくれて」
和やかに交わされる2人の会話を耳に、蒼矢は黙ったまま少し頬を染めていた。陽と理由は違えど、同じく葉月宅へ何度か泊まった経験のある蒼矢は、毎度用意してくれるので寝間着に襦袢を借りているものの、何となく違和感と気恥ずかしさが拭えず、窮屈な思いを繰り返していた。
…俺も、次泊まらせてもらう機会があったら、自分の寝間着持ってこよう…
と、玄関でインターホンが鳴る。
「? 誰かな」
「宅配じゃねぇの? 俺出てくる!」
腰を浮かしかけた葉月に代わり、軽快に胡坐から跳ね上がった陽が茶箪笥に立ててあった印鑑を手に玄関へ駆けていく。
「何か届く予定あったかなぁ…最近色々物は買ったけど」
「お客さんか生徒さんかもしれませんね」
首を傾げながらスマホの通販アプリを動かす葉月を見、蒼矢も立ち上がり、陽の後を追うように玄関へ向かった。
いつもはだいたい蒼矢の自宅で行われているが、今日は蒼矢側の都合で葉月宅で開催となった。
ここ楠神社は武道教室である楠道場を開いてもいて、神社の宮司兼道場の師範である葉月の指導のもと、小規模で和気あいあいとした空気感で生徒たちは日々鍛錬に励んでいる。蒼矢もそのひとりであり、稽古日と陽からの依頼がブッキングしてしまったわけだが、陽には稽古が終わるタイミングで来てもらうようにし、そのまま葉月宅で開講しようということになったのだった。
2人の講座風景を眺めつつ、齢26を数える社会人・葉月は、サンドイッチを口にくわえながら物理のテキストをめくり始める。
「今の高校生はレベル高いことやってるなぁ。僕もうちんぷんかんぷんだよ」
葉月も頭は良い方だったが、理系寄りのオールラウンダーな蒼矢に対し、彼は完全に文系人間だった。
「月兄は今夜、古文と漢文教えてね。俺今日泊まってくから!」
「いいよいいよ、それなら僕の得意分野」
あっけらかんとのたまう陽に目を丸くし、慌てた風に葉月へ視線を流す蒼矢だったが、予想外に頼られたからか嬉しそうに了承する葉月を見、杞憂だったと内心胸をなでおろす。
「客間用意しとかないとね。寝間着も要るよね?」
「あ、大丈夫スウェット持ってきたから。俺あのジュバンってやつどうも苦手でさ。しかも朝起きたら帯ほどけて、絶対パンイチになっちゃってるんだよねー」
「……」
「そっかぁ…洋装のパジャマも用意するようにしようかなぁ」
「いやまぁ、俺みたいに来る奴に持たせればいいじゃん。月兄は和服貫けばいいと思うよ!」
「…そうかな。ありがとね陽、気遣ってくれて」
和やかに交わされる2人の会話を耳に、蒼矢は黙ったまま少し頬を染めていた。陽と理由は違えど、同じく葉月宅へ何度か泊まった経験のある蒼矢は、毎度用意してくれるので寝間着に襦袢を借りているものの、何となく違和感と気恥ずかしさが拭えず、窮屈な思いを繰り返していた。
…俺も、次泊まらせてもらう機会があったら、自分の寝間着持ってこよう…
と、玄関でインターホンが鳴る。
「? 誰かな」
「宅配じゃねぇの? 俺出てくる!」
腰を浮かしかけた葉月に代わり、軽快に胡坐から跳ね上がった陽が茶箪笥に立ててあった印鑑を手に玄関へ駆けていく。
「何か届く予定あったかなぁ…最近色々物は買ったけど」
「お客さんか生徒さんかもしれませんね」
首を傾げながらスマホの通販アプリを動かす葉月を見、蒼矢も立ち上がり、陽の後を追うように玄関へ向かった。
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