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本編

第8話_不穏な波-3

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瞬きもせずに画面を見つめて強張るその面差しを、川崎カワサキは再び怪訝そうに窺う。

髙城タカシロ? なにか――」
「…悪い、やっぱり調子良くないみたいだ。…帰る」
「! えっ…」
「ごめん、後で今日の講義の内容教えてくれ」
「あぁ、それは構わないけど…」

川崎の返事を最後まで聞かずに、蒼矢ソウヤはバッグを抱えたままきびすを返し、カフェテリアから足早に出ていった。

「ん? 髙城どうした? 帰ったの?」
「やっぱり具合悪いの? にしては元気そうだなぁ」

概ねコーヒーの後始末を終えた友人たちが、蒼矢が歩き去っていくのに気付き、のほほんとその後ろ姿を見送る中、川崎は神妙な面持ちで元いた席へ腰掛けた。
沖本オキモトはその対面に座り、やはり眉を少し寄せて彼の顔を見やっていた。
スマホを両手に持ち、なにやらアプリを動かす川崎は手元をふと止め、テーブルへと顔を突っ伏した。

「…どうしよう、連絡すべきか…迷う」
「エイト先輩にか?」
「だって…出しゃばり過ぎじゃないか…? 髙城のあの様子が、先輩に関係あるんだとしたら…、でも…先輩も知らないことかもしれないって思うと…」
「…」

頭を両腕にうずめ、葛藤する川崎を、沖本は厳しい表情で見守る。
そしてふいに両手を伸ばし、スマホを握る彼の手を上から覆った。

「俺は、伝えた方がいいと思う」

ぼそりと漏れた沖本の言葉に、川崎は腕の中から顔を起こす。

「可能性の中だけで考えてたって、埒明かねぇよ。…何も知らない俺たちが髙城のことが気になって知らせて、何が悪いんだ。心配だから、知ってそうな人に聞いてみるだけだろ」
「…沖本…」
「でも、先輩と連絡する権利があるのはお前だから、お前に合わせる。送る時は言えよ、俺も一文したためるから」
「…!」
「…怒られる時は一緒に怒られてやるよ。ふたりで並んで頬でも差し出そうぜ」

にやりと悪戯気に笑ってみせる沖本へ、川崎は目を見張る。
ついで、諦めたように深く息を吐き出した。

「…そうだな、覚悟決めよう。ありがとう、沖本」
「! おう、いいってことよ」
「あとさ、一応断っておくけど…俺、彼女いるからな?」
「――。…馬鹿野郎、そんなんじゃねぇよ!!」
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