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本編

第3話_秘密の逢瀬-4

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首を傾げながら待っていると、やがてドアが開く。

「――こんにちは、レツ君」
「…! おぉ」

玄関に出たのは今しがた通話していた蒼矢ソウヤではなく、苡月イツキだった。
少し頬を上気させ、比較的元気な様子の彼を見、烈は戸惑いつつもほっとする。

「これ、葉月ハヅキさんから。渡し忘れてたって」
「…! すみません、ありがとうございます」
「じゃ、俺はこれで。仲良くな」

先ほどのどこか陰鬱な雰囲気の蒼矢から察し、長居は無用と烈は苡月へ包みを渡し、ノブに手を掛ける。
と、上の階から玄関まで届く大きな物音がし、ふたりは同時に振り返った。

「!? 蒼矢君…?」
「!!」

そう小さく漏れた声を聞き、烈は一瞬にして表情を強張らせ、反射的に中へと上がり込む。

「! 烈君」
「悪い、邪魔するぜ!」
「あっ…、あの」

やや引き止める素振りを見せる苡月を置き去りにし、烈は猛ダッシュで階段を上がっていく。

「蒼矢!! 無事か!?」

烈は、明かりの点いているリビングのドアを勢いよく開け放つ。
と、視界に入った目の前の景色に、面を豹変させたまま身体を固まらせた。

「……」

手前のL字ソファには蒼矢がいて、ローテーブルから落としたと思われる大きな卓上ミラーを床から拾い、載せ直す途中の姿勢のまま、こちらへ表情を凍らせていた。
互いにみずからの時を止めたまましばらく見合った後、烈は一度溜飲してから、かろうじて声を漏らす。

「…? お前、なんか…いつもと」
「……!!」

そう聞くや否や、蒼矢は手近にあったフェイスタオルで顔を隠し、烈を跳ね飛ばす勢いでリビングから出て行く。
遅れて玄関から上がってきた苡月が、脱兎の如く3階へと駆け上がっていく蒼矢の姿を捉え、慌てて彼の後を追っていく。

「蒼矢君っ…待って下さい! 擦るのだけはっ、顔を擦るのだけは絶対にやめて下さいっ…ちゃんと落としますから!!」
「……!?」

ここ最近で最大声量ではないかという苡月の叫び声を聞きながら、烈は事の次第についていけず、ただ呆気にとられた面持ちで突っ立っていることしかできなかった。
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