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第10話_苦闘
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セイバー達は、再び薄暗い『転異空間』へ降り立った。
「? えっ…えっ!? 息、出来てる」
初見の水嫌い・葉月――セイバー『エピドート』は動揺したものの、すぐに平静を取り戻す。
「…すごいなぁ。現実の海でもこんな風に息留めずに潜れたらいいよね」
「無ぇだろ。頼むぜ、とりあえずお前が頼りなんだからな」
「了解」
ほどなくして現れた巨大イソギンチャクの[異形]を前に、おのおの戦闘位置についていく中、『暗虚』を呼び出して[異形]に近付くオニキスに、アズライトが後ろから声をかける。
「…オニキス、有効なら『凍氷』を使いますが」
振り返り、意思の込められたアズライトの眼差しを受け止めたが、オニキスは首を横に振った。
「いや、待機してろ。[奴]が現れたら『索敵』して貰わなきゃならねぇ。それまでに消耗してたら先詰まりしちまうだろ」
「…わかりました」
アズライトは特にくい下がることなく了承すると、オニキスの元を離れ[異形]から後退していく。
代わりにエピドートが前進し、全員が位置につくと斧槍の装具『雷嵐』を上に振り上げた。一瞬『空間』が明るくなり、雷音と共に電光が[異形]へ降り注ぐ。直撃を受け、揺らめいていた無数の触手の動きが一時固まった後、[異形]は悲鳴のような轟音をあげながら海栗のような形に変形した。
「ぅおっと…」
[異形]に接近していたロードナイトとオニキスは巻き込まれないよう距離を取り、[敵]の様子を窺う。揺らめいていた触手は伸びきったまま痺れたように固まり、動かなくなる。
「…ロード!」
「おう!!」
機と踏んだ攻撃手二人は、装具を構え[異形]へ突っ込んでいく。オニキスは『暗虚』の鉤爪でなぎ払い、ロードナイトは『紅蓮』をブーメランのように飛ばし、[異形]の形に沿わせ根元から刈っていく。
やがて麻痺の解けた[異形]が動き始めるとすかさずエピドートが雷撃を喰らわせ、反撃の機会を奪い続ける。
こうして一方的な攻撃がしばらく続くと、[異形]の核が徐々に露わになっていく。
「…! 出ます!!」
後方から見守っていたアズライトが叫ぶと同時に[異形]の一部分が盛りあがり、[侵略者]が姿を表す。
アズライトは即索敵し始め、エピドートは完全に形造られる前に雷撃を浴びせる。が、そしらぬ様子で[海華]は膨れあがるように人型を成していく。
「電撃は弱点じゃないのか…!」
「エピドート! 雷浴びせ続けて下さい、[異形]が動いちまう!!」
「っ、わかった」
形成を終えた[海華]は自分を包む[異形]を見回し、痺れたまま硬直するその姿に鼻を鳴らす。
「…うるさい虫共だね」
そう漏らし、両腕を上に掲げると、自らを囲むセイバー達に向けて脇から触手を射出した。ロードナイトとオニキスは高速で放たれたそれを寸でのところで回避したが、[異形]の動きを止め続けることに気を取られていたエピドートは、ほぼ避けられずに両脚から絡め取られる。
「! あぁっ…」
触手は素早く上半身へと登り、見る間にエピドートの全身を覆い始める。
「エピドート!!」
即座にロードナイトが『紅蓮』を飛ばす。しかし触手に喰い込むにとどまり切断できず、弾力ある組織に押し出されて炎を散らしながら地に落ちる。
「…っく……!」
触手の強烈な締めつけに、エピドートの顔が歪む。
ロードナイトが触手の挙動に煽られて次への行動を失い、代わってオニキスが『暗虚』を構えて突撃しようとする中、ふいにエピドートの後方から触手へ大剣が斬り込まれた。
「アズライト!」
「ロード、[異形]を刈れ!!」
『氷柱』を呼び出したアズライトは、ロードナイトへそう指示を投げると踏み込む勢いを乗せて触手の束に一太刀を浴びせる。『氷柱』もまた切断するには至れないが、刀身からにじむ氷気が触手の表面組織を凍りつかせていく。
「……」
その様子を真顔で観察していた[海華]はふと口元を緩ませると、ぬるりとアズライトへ近付いていく。が、いつの間にか異変をきたしていた己の身体に気付き、ついでアズライトへの視界を塞ぐように入ってきた黒いセイバーを一瞥する。
「…毒の遣い手か」
「行かせるかよ」
闇色の毒霧に覆われた[海華]は、オニキスの振り被った『暗虚』を素手で受け止め、その鉤爪の喰い込む前肢の隙間から新たに触手を伸ばし、オニキスの腕に絡みついていく。力の拮抗する双方は至近距離で睨み合った。
「今すぐこの毒を下げろ、汚らわしい」
「てめーの姿かたちの方がよっぽど気味悪いぜ。…記憶に残らねぇように細切れにして還してやるよ」
「…っあああぁっ!!」
両者の後方で、時間をもらったアズライトが[海華]の触手を凍らせ、分断する。しかし先端はエピドートに巻きついたまま離れず、バランスを失って地に倒れ込む。
「エピドート…!」
アズライトと、一連の間に[異形]を丸裸にしたロードナイトが彼へかけ寄る。二人がかりで拘束を解こうとするが、弾力を帯びた組織はいつしかセメントのように固まり、腕力でどうにかなる代物ではなくなっていた。
「…ロード、アズライト、僕はいいから…っ! オニキスが…!!」
「っ!!」
苦しさに息を途切れさせながらもエピドートが促し、アズライトがはたと目をやると、オニキスは依然として[海華]と組み合ったままでいた。鉤爪は[海華]本体にまで刺さり、少なからずダメージは与えているようだが腕に絡みついた触手はじわじわと上へ辿り、オニキスの首に到達しようとしていた。まとわりつく毒霧で[海華]の動きは鈍くなっているものの、その地力の差にオニキスは少しずつ圧され始めていた。
「っ……」
アズライトが動こうと立ち上がる傍らから、高速でロートナイトが飛び出す。
「俺が行く! 『索敵』頼んだ!!」
「…ロード!?」
驚いたようにアズライトが声をあげる中、ロードナイトは[海華]へ向けて真っ向から突撃していった。両手に『紅蓮』を構えると、その双太刀をオニキスとの接合部へ振り下ろす。
突然の彼の介入に、オニキスは額に汗をにじませながら睨みつけた。
「おまっ…何で来た!?」
「何でも何もっ、来るだろそりゃあ!!」
がなり返しながら、ロードナイトは全力で『紅蓮』を触手に押し込む。がやはり相当に相性が悪いのか、歪むだけで切断には至れない。
「馬鹿やめろ、離れろ!!」
オニキスの制止を無視し、噴き上げる炎を増しながらロードナイトは出力最大で切り込んでいく。
「……くっそぉぉ…っ…!!」
懸命に切断を試みるロードナイトの周囲に、じわじわと黒い霧が及んでいく。身動きの取れないオニキスは目を見開きながら怒鳴った。
「離れろっつってんだろうが、死ぬぞ!!」
「? えっ…えっ!? 息、出来てる」
初見の水嫌い・葉月――セイバー『エピドート』は動揺したものの、すぐに平静を取り戻す。
「…すごいなぁ。現実の海でもこんな風に息留めずに潜れたらいいよね」
「無ぇだろ。頼むぜ、とりあえずお前が頼りなんだからな」
「了解」
ほどなくして現れた巨大イソギンチャクの[異形]を前に、おのおの戦闘位置についていく中、『暗虚』を呼び出して[異形]に近付くオニキスに、アズライトが後ろから声をかける。
「…オニキス、有効なら『凍氷』を使いますが」
振り返り、意思の込められたアズライトの眼差しを受け止めたが、オニキスは首を横に振った。
「いや、待機してろ。[奴]が現れたら『索敵』して貰わなきゃならねぇ。それまでに消耗してたら先詰まりしちまうだろ」
「…わかりました」
アズライトは特にくい下がることなく了承すると、オニキスの元を離れ[異形]から後退していく。
代わりにエピドートが前進し、全員が位置につくと斧槍の装具『雷嵐』を上に振り上げた。一瞬『空間』が明るくなり、雷音と共に電光が[異形]へ降り注ぐ。直撃を受け、揺らめいていた無数の触手の動きが一時固まった後、[異形]は悲鳴のような轟音をあげながら海栗のような形に変形した。
「ぅおっと…」
[異形]に接近していたロードナイトとオニキスは巻き込まれないよう距離を取り、[敵]の様子を窺う。揺らめいていた触手は伸びきったまま痺れたように固まり、動かなくなる。
「…ロード!」
「おう!!」
機と踏んだ攻撃手二人は、装具を構え[異形]へ突っ込んでいく。オニキスは『暗虚』の鉤爪でなぎ払い、ロードナイトは『紅蓮』をブーメランのように飛ばし、[異形]の形に沿わせ根元から刈っていく。
やがて麻痺の解けた[異形]が動き始めるとすかさずエピドートが雷撃を喰らわせ、反撃の機会を奪い続ける。
こうして一方的な攻撃がしばらく続くと、[異形]の核が徐々に露わになっていく。
「…! 出ます!!」
後方から見守っていたアズライトが叫ぶと同時に[異形]の一部分が盛りあがり、[侵略者]が姿を表す。
アズライトは即索敵し始め、エピドートは完全に形造られる前に雷撃を浴びせる。が、そしらぬ様子で[海華]は膨れあがるように人型を成していく。
「電撃は弱点じゃないのか…!」
「エピドート! 雷浴びせ続けて下さい、[異形]が動いちまう!!」
「っ、わかった」
形成を終えた[海華]は自分を包む[異形]を見回し、痺れたまま硬直するその姿に鼻を鳴らす。
「…うるさい虫共だね」
そう漏らし、両腕を上に掲げると、自らを囲むセイバー達に向けて脇から触手を射出した。ロードナイトとオニキスは高速で放たれたそれを寸でのところで回避したが、[異形]の動きを止め続けることに気を取られていたエピドートは、ほぼ避けられずに両脚から絡め取られる。
「! あぁっ…」
触手は素早く上半身へと登り、見る間にエピドートの全身を覆い始める。
「エピドート!!」
即座にロードナイトが『紅蓮』を飛ばす。しかし触手に喰い込むにとどまり切断できず、弾力ある組織に押し出されて炎を散らしながら地に落ちる。
「…っく……!」
触手の強烈な締めつけに、エピドートの顔が歪む。
ロードナイトが触手の挙動に煽られて次への行動を失い、代わってオニキスが『暗虚』を構えて突撃しようとする中、ふいにエピドートの後方から触手へ大剣が斬り込まれた。
「アズライト!」
「ロード、[異形]を刈れ!!」
『氷柱』を呼び出したアズライトは、ロードナイトへそう指示を投げると踏み込む勢いを乗せて触手の束に一太刀を浴びせる。『氷柱』もまた切断するには至れないが、刀身からにじむ氷気が触手の表面組織を凍りつかせていく。
「……」
その様子を真顔で観察していた[海華]はふと口元を緩ませると、ぬるりとアズライトへ近付いていく。が、いつの間にか異変をきたしていた己の身体に気付き、ついでアズライトへの視界を塞ぐように入ってきた黒いセイバーを一瞥する。
「…毒の遣い手か」
「行かせるかよ」
闇色の毒霧に覆われた[海華]は、オニキスの振り被った『暗虚』を素手で受け止め、その鉤爪の喰い込む前肢の隙間から新たに触手を伸ばし、オニキスの腕に絡みついていく。力の拮抗する双方は至近距離で睨み合った。
「今すぐこの毒を下げろ、汚らわしい」
「てめーの姿かたちの方がよっぽど気味悪いぜ。…記憶に残らねぇように細切れにして還してやるよ」
「…っあああぁっ!!」
両者の後方で、時間をもらったアズライトが[海華]の触手を凍らせ、分断する。しかし先端はエピドートに巻きついたまま離れず、バランスを失って地に倒れ込む。
「エピドート…!」
アズライトと、一連の間に[異形]を丸裸にしたロードナイトが彼へかけ寄る。二人がかりで拘束を解こうとするが、弾力を帯びた組織はいつしかセメントのように固まり、腕力でどうにかなる代物ではなくなっていた。
「…ロード、アズライト、僕はいいから…っ! オニキスが…!!」
「っ!!」
苦しさに息を途切れさせながらもエピドートが促し、アズライトがはたと目をやると、オニキスは依然として[海華]と組み合ったままでいた。鉤爪は[海華]本体にまで刺さり、少なからずダメージは与えているようだが腕に絡みついた触手はじわじわと上へ辿り、オニキスの首に到達しようとしていた。まとわりつく毒霧で[海華]の動きは鈍くなっているものの、その地力の差にオニキスは少しずつ圧され始めていた。
「っ……」
アズライトが動こうと立ち上がる傍らから、高速でロートナイトが飛び出す。
「俺が行く! 『索敵』頼んだ!!」
「…ロード!?」
驚いたようにアズライトが声をあげる中、ロードナイトは[海華]へ向けて真っ向から突撃していった。両手に『紅蓮』を構えると、その双太刀をオニキスとの接合部へ振り下ろす。
突然の彼の介入に、オニキスは額に汗をにじませながら睨みつけた。
「おまっ…何で来た!?」
「何でも何もっ、来るだろそりゃあ!!」
がなり返しながら、ロードナイトは全力で『紅蓮』を触手に押し込む。がやはり相当に相性が悪いのか、歪むだけで切断には至れない。
「馬鹿やめろ、離れろ!!」
オニキスの制止を無視し、噴き上げる炎を増しながらロードナイトは出力最大で切り込んでいく。
「……くっそぉぉ…っ…!!」
懸命に切断を試みるロードナイトの周囲に、じわじわと黒い霧が及んでいく。身動きの取れないオニキスは目を見開きながら怒鳴った。
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