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本編

ありし日の記憶②-3

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次の日の朝、蒼矢ソウヤはいつものように登校の準備を全て済ませ、玄関に荷物を並べて置いてから、3階の自室へ上がっていく。
レツとはクラスは違えども毎日小学校まで一緒に登校していて、通学路が花房ハナブサ家から髙城タカシロ家へ経由するため、ふたりは髙城家でおち合って通っているのだった。
しかし、寝坊癖のある烈は待ち合わせ時間に少し遅れることがあり、蒼矢にしても外で待つのもまだ肌寒い時期とあって、3階の自室の窓から烈が到着したのを確認してから家を出るようにしている。
そんないつものルーティーン通り、蒼矢は自室の玄関前の道路へ向いた窓を開ける。

「!」

いつもなら首を伸ばして、烈がこけそうになりながら走ってくる様子を観察しているのだが、今日はすぐ下の玄関門前に、既に猫っ毛の頭が待機している姿が見えた。
目をぱちくりと瞬かせ、壁の時計を見るが、まだ待ち合わせ時間前である。
蒼矢は窓を閉め、少し足早に階段をトコトコと降りていく。

「蒼矢、ゆっくり降りて頂戴。まだ行く時間には間に合うでしょう?」
「はい、ごめんなさい。行ってきます」

母から飛んでくる注意を耳にしつつ、蒼矢は慌ただしく荷物を拾い、玄関を飛び出す。
門を開けると、頬を紅く染めた烈が白い息を吐き出しながら、にっかりと笑った。

「おはよー!!」
「…おはよう」

いつもとは違う朝の展開に、蒼矢はまだ少し呆けた様子だったが、烈は意に介さず彼の手をがっしと握る。

「…?」
「まいにちさむいなー」
「? うん」
「あっ! 今日のきゅう食、カレーライスにマカロニサラダにれいとうみかんだぞ! おれのすきなもんばっかり!」
「楽しみだね」

さして普段と変わりない会話が交わされる中、蒼矢の手を握る烈の手だけは離れなかった。
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