Reactor Heart -原子炉心臓の天使-

独楽 悠

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本編

エピローグ-2

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ソウヤと視線が合うと、エイト博士はばちりとウィンクしてみせる。

「何で博士がここに…っ!?」
「? 呼ばれてるんだから、居て当然だろ。ね、殿下」
「はい、"先生"」
「……??」

話が見えないソウヤが何も言い出せずに口ごもっていると、博士は彼の手に緩く握られている黒いリボンを引ったくった。

「…んー、まぁリボンタイこっちならまだネクタイよりはマシかな。でもまず、お前はその面白くもなんともねぇ黒スーツを脱いだ方がいい」
「! でも、これは護衛機の制服みたいなもので――」
「もうひとつ制服・・持ってるじゃねぇか。お前にとびきり似合いの」
「…? ありましたっけ? そんなもの」

ひとまず博士の話に乗りながらも見当がつかないソウヤに、博士はにまりと笑うと、みずからの右の拳を握る。
すると、ソウヤは黒スーツから白いアシストスーツに変化する。

「!! ちょっ…」

自分の意思外で着衣を替えられ、ソウヤは気恥ずかし気に両腕を抱く。

「勝手に替えないで下さいっ」
「そっちの方が断然お前向きだぜ。俺が可愛いお前のために造ってやったスーツだからな」
「これは有事のためのものであって、通常の公務用ではっ…」

満足気に胸を張る博士へ文句を言いかけたソウヤだったが、ふと別方向からの視線に気付く。
はたと目をやると、イツキ王子が手に衣装を握り締めたまま、頬を紅潮させてソウヤを凝視していた。

「…ソウヤ…それは、羽根・・…?」
「……?」

王子の丸い目が自分の背中に注がれていることに気付き、ソウヤは姿見へ視線を移す。
背中からは、金属の骨組みで出来た小さな白金の翼が生えていた。
ぴこぴこと可愛らしく動くそれに、ソウヤは目を点にしてから、みるみる顔を真っ青にする。

「…っ!? な…何ですかぁっ、これはっ!?」
「おー、気付いたか。そいつはお前のリミッター解除後に出て来るツールだ。そいつ自体に持たせたい機能はまだ開発途中だから、今時点ではガジェットでしかないが、リミッター云々に関係無く普段から俺の匙加減で出し入れ可能だぜ」
「…! これが『戦闘機』との戦闘ログに残っていたという、例の"翼"ですか? 話に聞いてただけで、僕見るの初めてです…!」
「殿下もご存知でしたか? いいでしょう、これ。ソウヤにぴったりの、秀逸なデザインになってると思いません?」
「素晴らしいですっ…! とても素敵です! 本当に、天使様みたいだ…!!」
「……!!」

目がハートマークになっている王子を見、ソウヤは表情を凍らせた。

…またしても、イツキの妄想を無闇に膨らませてしまった…!!
…なんてことをしてくれたんですか、博士…っ…
…俺はただの従者でいたいだけなのにっ…

「どうです? これなら明日のパレードにも映えるんじゃないですか?」
「とても良いです…! どんな衣装より素敵ですっ」
「絶対に嫌です!! これで出ろって言うなら、ハナブサにも同じ格好で参列させて下さい!!」

勝手に盛り上がって話を進めていきそうになるところへ、ソウヤが荒々しい剣幕で言い切ると、ハナブサを想像したのか、二人は胃もたれしたかのような表情を浮かべて閉口した。

どうにか場を制したソウヤは、気持ちを落ち着かせつつエイト博士を睨む。

「話が逸れましたけど、"先生"って――」
「! そうだった。すみません、もう勉強の時間なのに…今すぐ片付けます」

ソウヤの言葉に思い出したか、イツキ王子は部屋中に広げた衣装たちへ目を向け、片付け始める。

「ソウヤ、部屋が綺麗になるまでミヤジマ先生のお相手をしてて!」

そう言うと王子は、ソウヤの背中を押して博士と共に続きの間へと押しやり、有無を言わせないまま扉はぱたりと閉じられた。
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