Reactor Heart -原子炉心臓の天使-

第23話_嵐を乗り越えた先の光-5

陛下はそう憂いて語り、しばらく沈黙の間を作った後、王子を柔らかな面持ちで見やった。

「イツキ。此度の件で、きっとお前は一回りも二回りも大きく成長しただろう。しかしその一方で、今まで当たり前にあった多くのものを失う経験もした…裏切りや失望、傍に居た者の命の喪失、愛情を注いでいたAI機たちの損失。それらは、お前の無垢な心に少なからず影響を与えたことだろう」
「…！」
「私は、この先もお前の心に棘が残ってしまうのではないかと、それだけが心配なんだ」

父王からの言葉掛けを受け、イツキ王子は思慮するように俯く。

「…確かに僕は…思ってもみなかった裏切りを知り、沢山の従者を亡くし、悲しい思いをしました。でも…父上のいない王宮で僕が一番に思いを馳せたのは、父上がお戻りになるまでこの王宮を守ることでした。…僕は色々なものを失って初めて、王族としての自覚を持てた気がしたんです」

静かに耳を傾ける陛下の前で、王子は握る拳に力を込めながら続けた。

「僕は、多くのものを失ったこの日を生涯忘れることはないでしょう。この経験を糧に、未来の国王として生きていこうと決めたからです」
「イツキ…」
「でも…そんな中でも僕は、ソウヤだけは失いたくないと願っていました。他の何を手放しても、彼だけは。…彼は、僕の未来に必要な存在です」

王子の言葉に、陛下は目を見張る。
王子は頭をあげ、強い信念を持った眼差しで父王を見つめていた。

「ソウヤに交わされた契約のことは理解しています…その上で、お願い致します。これから先も、ソウヤと共にいることをお許し頂けませんか？」
「……」

陛下は少し戸惑ったまま視線をソウヤへ流し、発言を促した。
無言で尋ねられたソウヤは、立っていた姿から腰を下ろし、跪く。

「私も、王子殿下と思いは同じです。お許しを賜れるならばこの命が続く限り、殿下のお傍にありたいと思っております。…ですが」

イツキへ同意しかけたものの、頭を下げたまま続けるソウヤに、陛下と王子は注目する。

「これから先も殿下の近くに身を置きたいと願うならば、私はひとつ、王族方へ明かしていなかった"秘め事"を申し上げなければなりません」