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本編
第21話_開かれる記憶の扉-4
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大きく息を吐き出すと、博士はソウヤを見下ろす。
「…俺を軽蔑するか?」
そう小さく漏れた言葉と静かな視線を受け止めたソウヤは、黙ったままオペ台の照明へと見上げる。
「…研究所の外へ出てから、学習した覚えのない知識がふと呼び起されてきたり、知らないはずの人間の顔に既視感を覚えることが何度かありました。同胞であるアンドロイドとの会話に、苛立ってしまうこともありました。…俺は、自分の思考領域がどこか異常をきたしてるんじゃないかと、不安になりました」
「ソウヤ…」
「でも、それは"異常"ではなかった。俺自身が生まれた時から持ってたもうひとりの自分の記憶が、少しずつ思い出されてたからだったんですね」
そう表現してみせたソウヤに、物憂げな面持ちで見守っていた博士の顔が、驚いたように固まる。
「…俺は、もうひとりの俺の代わりに造られた存在。…でも、それを悲しくは思いません」
ソウヤは見上げていた視線を戻し、博士と目を合わせる。
「博士の恋人だった『ソウヤ』は、嫉妬深い人間でしたか?」
「…! いや、結構ドライな奴だった。どっちかっていうと、なかなか気がある素振りを見せてくれねぇ奔放なあいつに、俺がやきもきさせられてた」
「コーヒーやお茶を入れるのはお得意でしたか?」
「…いや。お前みたいになんでもそつなくこなせる奴じゃなかった。…学習意欲や好奇心もお前ほど強くなかったし、自分が興味のあるもの以外は知識を得る意欲の無い、不器用な奴だった」
博士の返事を聞き、ソウヤは微笑む。
「俺は、俺自身へかけられた博士からの言葉は…、『彼』には無い個性を持つ『俺』へ注がれた博士の愛情は、真のものだと確信してます」
「…!」
「それに…俺は、自分の中にある『彼』の記憶へ、違和感は感じはしましたが何故だか懐かしさも感じ、すぐに自分のもののように受け容れることが出来てました。…『彼』だけが持ってた記憶は、きっと『俺』自身も共有出来てて、共感し合えてると思います」
そう言い切ると、ソウヤは心から幸せそうな笑顔を浮かべ、博士へ両手を差し伸べる。
「代わりであることは揺るぎなくても、俺の心は満たされてます。博士から…今の『エイト』から愛を注がれてるのは、俺だから」
ミヤジマ博士は、その手に吸い寄せられるようにソウヤを拾い上げる。
「…倒れるお前の姿を目にした時…俺は、大事な人をもう一度失う絶望を味わった。…あの場に何も無ければ、そのまま発狂しそうだった」
そしてそう耳元で呟くと、華奢な身体をきつく抱きしめた。
「お前は代わりなんかじゃない。お前は、俺が一生愛し続けると誓った、唯ひとりのソウヤだよ」
微かに声を震わせながら熱く注がれる言葉に、ソウヤは頬を染め、目の端から涙を零す。
ふたりは額をつき合わせ、互いに互いを想う愛情に満ち溢れた面差しを確かめ合うと、唇を合わせた。
「…俺を軽蔑するか?」
そう小さく漏れた言葉と静かな視線を受け止めたソウヤは、黙ったままオペ台の照明へと見上げる。
「…研究所の外へ出てから、学習した覚えのない知識がふと呼び起されてきたり、知らないはずの人間の顔に既視感を覚えることが何度かありました。同胞であるアンドロイドとの会話に、苛立ってしまうこともありました。…俺は、自分の思考領域がどこか異常をきたしてるんじゃないかと、不安になりました」
「ソウヤ…」
「でも、それは"異常"ではなかった。俺自身が生まれた時から持ってたもうひとりの自分の記憶が、少しずつ思い出されてたからだったんですね」
そう表現してみせたソウヤに、物憂げな面持ちで見守っていた博士の顔が、驚いたように固まる。
「…俺は、もうひとりの俺の代わりに造られた存在。…でも、それを悲しくは思いません」
ソウヤは見上げていた視線を戻し、博士と目を合わせる。
「博士の恋人だった『ソウヤ』は、嫉妬深い人間でしたか?」
「…! いや、結構ドライな奴だった。どっちかっていうと、なかなか気がある素振りを見せてくれねぇ奔放なあいつに、俺がやきもきさせられてた」
「コーヒーやお茶を入れるのはお得意でしたか?」
「…いや。お前みたいになんでもそつなくこなせる奴じゃなかった。…学習意欲や好奇心もお前ほど強くなかったし、自分が興味のあるもの以外は知識を得る意欲の無い、不器用な奴だった」
博士の返事を聞き、ソウヤは微笑む。
「俺は、俺自身へかけられた博士からの言葉は…、『彼』には無い個性を持つ『俺』へ注がれた博士の愛情は、真のものだと確信してます」
「…!」
「それに…俺は、自分の中にある『彼』の記憶へ、違和感は感じはしましたが何故だか懐かしさも感じ、すぐに自分のもののように受け容れることが出来てました。…『彼』だけが持ってた記憶は、きっと『俺』自身も共有出来てて、共感し合えてると思います」
そう言い切ると、ソウヤは心から幸せそうな笑顔を浮かべ、博士へ両手を差し伸べる。
「代わりであることは揺るぎなくても、俺の心は満たされてます。博士から…今の『エイト』から愛を注がれてるのは、俺だから」
ミヤジマ博士は、その手に吸い寄せられるようにソウヤを拾い上げる。
「…倒れるお前の姿を目にした時…俺は、大事な人をもう一度失う絶望を味わった。…あの場に何も無ければ、そのまま発狂しそうだった」
そしてそう耳元で呟くと、華奢な身体をきつく抱きしめた。
「お前は代わりなんかじゃない。お前は、俺が一生愛し続けると誓った、唯ひとりのソウヤだよ」
微かに声を震わせながら熱く注がれる言葉に、ソウヤは頬を染め、目の端から涙を零す。
ふたりは額をつき合わせ、互いに互いを想う愛情に満ち溢れた面差しを確かめ合うと、唇を合わせた。
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