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第15話_仮面の下の獣-3

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今までの流れで想定された問い掛けに、ユン氏の喉が大きく動く。

「まさかここまでお一人で来られたのですか? この夜間を、テロが起きた王宮まで、護衛機無しで?」
「実は…昼間に少し不調が見られ、メンテナンスへ預けまして。ここまでは臨時のSPを雇い…」
「それはいけませんね。ならば、AI機リペア申請書を発行されていますね? 公費で製造されたAI機、または王宮から貸与されたAI機の修繕に際しては、事前に王宮への提出が必須と定められていますよ。データ提出はお済みですか?」
「いえ…このような事態になりましたので、管理側も混乱を極めているだろうと配慮し、誠に勝手ながら事後報告にさせて頂こうかと」
「それでは、メンテ業者の受付書は? あれは依頼後即時発行されるはずですから、さすがにお持ちですね?」
「…ええ、それは…この場には…」

そう言い淀むユン氏を見、サンチェス博士の眉がぴくりと動く。

「…ええ、無いわね。万が一あったとしても、およそこの世に・・・・開示出来るものじゃないでしょうね」

サンチェス博士の氷のようなヘーゼルの瞳が、ユン氏を貫く。

「あなたの護衛機は既に素体だけを残し、本来の姿形からかけ離れた進化を遂げている。…いえ、最早最初から『護衛機』と名の付く代物じゃないかもしれないわね」

ついに核心をつき始めたサンチェス博士の言葉に、近衛兵に加えて国防隊員の面々までも事態が読めず動揺する中、渦中のユン氏だけが表情を少しずつ冷やし、彼女を見返していた。

「――色々調べさせて貰ったぜ、あんたのこと」

国防隊員に護られるミヤジマ博士が、ようやく口を開く。

「初めて陛下の間で会った時から、あんたのことはずっと気になってた。王宮へ自由に出入り出来る華国人てだけで充分きな臭ぇんだが、王室教師なんていう王子殿下にごく近しい人物とくれば、殿下へ護衛機を納める開発者こっちにとしちゃ、注意払っとくに越したことはねぇ…隅々まで洗わせて貰った」

ミヤジマ博士は国防隊員たちへ手を挙げ、警護を離れてユン氏へ近付いていく。

「あんた、地方大学の客員教授をいくつか掛け持ちしてて、そのうえ学会にも度々出て出張が多いから、王宮に居を構えることが難しいって理由で、王宮外に立派な家建ててたらしいな。地方にもいくつか拠点まで持ってたな、全部公費で。単なる子供相手の教師風情で、たいしたもんだ。…でも、実情は違ってたみたいだな」

長身のミヤジマ博士が、小柄なユン氏を見下ろす。

「差し当たって、直近半年間のあんたの動きを追ってみたが…学会やら講義やらを予定する度に、実際には国外渡航してたな。足が付かないよう変装はもちろんパスポートも偽造して、渡航先が簡単に割り出せないように、短距離なのに間にハブ空港まで経由する手の入れ込みようだ。随分巧妙にやってたようだけど最近じゃ慣れ過ぎて麻痺して、偽装も緩んでたみたいだな。空港に設置されてた防犯カメラから『歩容認証』で、あんたが渡航する日時、搭乗飛行機、搭乗区間…足取り全部掴んでるぜ」
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