Reactor Heart -原子炉心臓の天使-

第14話_護衛機の天敵-3

サンチェス博士の危惧していた敵性アンドロイドの正体は、やはり『護衛機』ではなく、『戦闘機』だった。

双方とも、今の科学技術における最高レベルの動力である原子炉稼働という共通点はあるものの、その実態はコインの裏と表のように、決して相容れることの無い区別があった。

各国の元首や要人へ配することが当たり前になった『護衛機』は、護衛対象の守りに特化し攻撃手段を持たないものの、原子炉の高出力動力をほぼ永続的に行使出来るほか、銃弾を跳ね返すほどの堅剛で厚い装甲をも持ち合わせ、単純破壊力も他用途のアンドロイドやAIロボットより抜きん出て優れている。

護衛機を護衛機たらしめる特長が、背面装甲部の個人シェルターと自身に施す防御シールドで、大口径の銃はおろか、シェルター部に至ってはミサイルや核兵器であっても破壊することが出来ない仕様になっている。


対する『戦闘機』は、いまや通常の護衛任務のほか、他国からの脅威への抑止力としても期待される『護衛機』と並び得る新たな国防機として、アンドロイド開発技術者の間でその機体仕様が考案された。

素体のスペックは護衛機とさほど変わりないが、護衛・防衛よりも攻撃に特化していて、護衛機と同じようにデフォルトで持つ自己防御シールドはもちろん、原子炉の高い出力性を活かした高火力の銃火器を備え、最新型警備ロボット数百体分に匹敵するポテンシャルを秘めていると言われている。

最大の特長は、『アンチシールド機能』の装備である。
効果対象は、主に護衛機が造る防御シールドなどで、敵性体のシールドへ直接触れることで発動し、触れた部位周辺のシールドを中和し透過する。
このことから、戦闘機の攻撃対象は表向き不問であるものの、実戦においては護衛機と対峙することを想定しているとされ、国防手段として護衛機を多く採用する各国にとり、有事における戦闘機の配備は、唯一の防衛線突破手段と位置付けられている。

なお、これらは現状全て、研究論文や開発構想の範囲で留められている。


高い攻撃性を備えたアンドロイドを保有することは、世界規模の戦争を引き起こす危険性を孕む。
人類の存亡までも危ぶまれた過去を味わった世界各国は、ようやく取り戻しつつある平和と国力安定を維持するため、各国間の均衡を破りかねない戦闘用アンドロイドの製造を、国際条約で固く禁じた。

戦闘用アンドロイド――『戦闘機』は、科学が成熟期まで進歩を遂げた現代において、開発技術力がありながらも着手することが出来なくなった、"禁忌の機体"となった。

つまり、本来ならば『戦闘機』と呼ばれる機体は、現地球上には存在するはずのないものである。
ソウヤの目の前で『戦闘機』だと自称したこのアンドロイドは、国際法を破ったどこかの国で秘密裏に製造された、非公式の機体ということになる。