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本編
第15話_仮面の下の獣-1
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【地上side①】
ソウヤが留置所へ送られたその日、この度のテロを受けて被害対策本部となっていた王宮大広間にも、暗い夜が訪れていた。
大広間の奥の間が、被害を受けた王宮関係者たちの一時避難所となっていて、皆が負傷した痛みと被災した不安を抱え、互いに身を寄せ合っていた。
すすり泣く声や苦しみ呻く声が絶え間無く鳴り響いていたが、未明近くになってようやく徐々に静けさを取り戻していった。
電力供給がままならず、必要最低限の明かりのみに限られた薄暗い大広間の一角だけが、煌々と明るい照明を灯していた。
照明の中央には隊長を始めとした近衛兵数名と、事態を受けて対策本部長を任された、国王陛下付き護衛機の開発技術者・サンチェス博士が集まり、今後の対策について協議を重ねていた。
そんな中ふと、大広間正面の大扉が少し開き、扉前を警備していた近衛兵に指し示されつつ、ひとりの初老の男性が照明へと歩み寄っていく。
「――お待たせ致しました、サンチェス殿」
「いえ、ご足労を掛けました」
顔を上げたサンチェス博士と目が合うと、広間へ入ってきた男性――王室教師・ユン氏は、穏やかに笑んだ。
「なんのこれしき。王宮の有事に馳せ参じないなど、今までの恩義へ泥をかけるようなもの。かえって、通い勤めでこの一件になんの関わりも持てませなんだ私めに、このように召集のお声掛け頂き、大変有難く思っています」
「王室教師殿も、王家にとっては縁深いお方ですので」
「ご配慮感謝致します。王子殿下の御身もずっと気がかりで…後ほどお慰めへ伺っても宜しいでしょうか? おひとりきりで、さぞや心寂しくされていることでしょうから…」
「…そうですね」
そうふたりが会話を交わしていると、引き続き大広間の扉が開き、今度は数名がぞろぞろと入室する。
近付いてくるのは近衛兵ではなく国防隊員たちで、全員が物々しく武装しており、その中央には隊服ではない丸腰の男が、彼らに取り囲まれつつ歩を合わせていた。
白衣姿のその男がミヤジマ博士と判ると、ユン氏はいの一番に声を掛けた。
「…! これはミヤジマ殿。あなたにもお声が掛かったのですか?」
「ええ、私が呼び寄せたのです。彼は此度のテロ事件に関しての"最重要人物"ですので」
ソウヤが留置所へ送られたその日、この度のテロを受けて被害対策本部となっていた王宮大広間にも、暗い夜が訪れていた。
大広間の奥の間が、被害を受けた王宮関係者たちの一時避難所となっていて、皆が負傷した痛みと被災した不安を抱え、互いに身を寄せ合っていた。
すすり泣く声や苦しみ呻く声が絶え間無く鳴り響いていたが、未明近くになってようやく徐々に静けさを取り戻していった。
電力供給がままならず、必要最低限の明かりのみに限られた薄暗い大広間の一角だけが、煌々と明るい照明を灯していた。
照明の中央には隊長を始めとした近衛兵数名と、事態を受けて対策本部長を任された、国王陛下付き護衛機の開発技術者・サンチェス博士が集まり、今後の対策について協議を重ねていた。
そんな中ふと、大広間正面の大扉が少し開き、扉前を警備していた近衛兵に指し示されつつ、ひとりの初老の男性が照明へと歩み寄っていく。
「――お待たせ致しました、サンチェス殿」
「いえ、ご足労を掛けました」
顔を上げたサンチェス博士と目が合うと、広間へ入ってきた男性――王室教師・ユン氏は、穏やかに笑んだ。
「なんのこれしき。王宮の有事に馳せ参じないなど、今までの恩義へ泥をかけるようなもの。かえって、通い勤めでこの一件になんの関わりも持てませなんだ私めに、このように召集のお声掛け頂き、大変有難く思っています」
「王室教師殿も、王家にとっては縁深いお方ですので」
「ご配慮感謝致します。王子殿下の御身もずっと気がかりで…後ほどお慰めへ伺っても宜しいでしょうか? おひとりきりで、さぞや心寂しくされていることでしょうから…」
「…そうですね」
そうふたりが会話を交わしていると、引き続き大広間の扉が開き、今度は数名がぞろぞろと入室する。
近付いてくるのは近衛兵ではなく国防隊員たちで、全員が物々しく武装しており、その中央には隊服ではない丸腰の男が、彼らに取り囲まれつつ歩を合わせていた。
白衣姿のその男がミヤジマ博士と判ると、ユン氏はいの一番に声を掛けた。
「…! これはミヤジマ殿。あなたにもお声が掛かったのですか?」
「ええ、私が呼び寄せたのです。彼は此度のテロ事件に関しての"最重要人物"ですので」
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